ともしび

6.迷い火


蛍の呟きと共に、敬の手に奇妙な感触が伝わって来た。 甘酸っぱいような痺れるような…冷たいようで暖かい…

戸惑う敬。 「これは!?」 それは…本来なら男の部分だけが感じるあの感触。

『ね…ボクは嘘は言っていないよ。 そのまま感じていて…』 蛍の声は耳から…そして直接頭に響く。

「蛍!?」 手の自由が利かない。 蛍の胸の感触と自分の手の感覚があいまいになっていくようだ。

(の…呑み込まれる!)

敬の心に恐れが生まれた。 自由な足をばたばたと振って蛍を蹴る。 敬の手が自由になるのと蛍が声を上げるのが同時だった。

「あ痛!」

「ご、ごめん」 つい謝る敬。


蛍は体を離すと敬をじっと見つめた。 黒い瞳がかすかに潤んでいる。

それを見た敬の心に、罪悪感と愛しさがないまぜになった複雑な感情が浮かぶ。

すると蛍がにこりと笑った。 「よかった。 嫌われたと思った」

敬が蛍の言葉の意味を考える暇もなく、蛍が再び敬に抱きついてくる。 今度は蛍が口付けてきた。 敬の視界の全てを蛍が占め、その

顔が淡く光る。

(あ…) 心の中に沸き起こる蛍への欲望。 股間が熱くもどかしくなって来る。

「敬…」 熱い囁きが敬の耳朶を打ち、ほっそりとした指が膨らんだところをそろそろと撫でる。

(あぁ…駄目…そんなにしたら…) 大事なところが蛍を欲しがり脈打っている。

「ふうん…こうすればいいのか…」 蛍は呟くと敬の胸をはだけ、自分の胸を合わせた。 薄い少女の胸が少年の胸に重なる。

敬は先程の様に蛍に呑まれる恐怖に襲われた。 しかし、今度は普通に蛍の胸を感じる。

ピンと立った蛍の乳首が自分の胸を転がり、ささやかな乳輪の感触が乳首をくすぐる。

思わず息を吸い込む…と甘い香りの柔らかな唇がそこを奪う。

うん…むぅ… 二、三度互いの唇がせめぎ合い、次第に息が合ってきた。 二つの舌が絡まり、擽りあう。

(…) 敬の意識に霞がかかって行く。 それでいて、蛍の舌、胸、手がくっきりと感じられる。

(…蛍が呼んでる…蛍…) 蛍が望んでいる…その事実が敬の抑制を外した。 もう敬に止まる理由はない。


不意に股間が楽になった。 ほてったモノが外気にさらされ、すぐに冷ややかな細い指に包み込まれる。

ふぅ…ため息が漏れた。

かすかに冷たい少女の指が熱く逞しいものに絡みつき、精の塊を転がし、亀の頭を愛しげに…そして執拗に撫でている。

「敬…敬…」 陶然としている敬に蛍が囁く。「ねぇ…頂戴…」

「…うん…いいよ…」 敬がぼうっとして答える。

蛍は嬉しそうに、そして隠微な笑いを漏らし、敬の腰に下半身を擦り付ける。

毛のない蛍の割れ目が、熱く猛る少年の上を何度もすべる。

一すべりごとに、中に熱く気持ちのいいものがせりあがってくるのが判る。

「ああ…出ちゃう…」

「駄目!」蛍が敬を叱る「敬は全部ボクの!無駄にしちゃ駄目!」


蛍が腰を浮かせると、敬のモノが起立して蛍を探す。

蛍が腰を落としてくると、見えているかのように敬の亀頭が蛍を迎えた。

「敬!」

「蛍ぅ…」

蛍の熱いぬめりが敬を包み込む。 そのまま敬の全て呑み込もうと敬のイチモツ離さない。

上から下まで、陰茎を蛍がはいずっているのが判る。 イチモツが熱くて蕩けそうな感触がたまらない。

「蛍ぅ…いい…蕩けそう」

『そう…じきに蕩けるよ…ほら…』

ふぁぁぁ… 敬の口から悦楽のうめきが漏れる。

蛍が腰を振るたびに、甘い快楽の疼きが体を舐める。 体の芯が甘く固まっていく…そして蕩けていくだろう。

「ああ…」

『ああ…敬と一緒…幸せ…』うっとりとした呟きが漏れる

「蛍と一緒…」 その時、敬の中に渦巻いた何かが蛍を混乱させた。

『敬?…何これ…違う…ボクには…』 蛍の声に戸惑いが、そして深い悲しみが生まれた。

「蛍ぅぅぅ…」敬が絶頂の声を上げた。

ヒック…ヒックヒックヒック…快楽の疼きに支配され、敬は蛍の中に暖かな白い欲望を放つ。

そして蛍は…敬の童貞を奪った。


クスン…クスン…

?… 敬は女の子のしのび泣きに目を覚ました。 蛍が泣いている。

「…? あっ! ご、ごめん…責任は取るから」取り合えず型どおりに謝り、それから蛍に訳を聞く。「どうして泣いているの?」

「敬…ひどいよ…ボクに出来ない事を望むなんて…」そう言うとまた泣き出す。

困惑する敬。 何のことか覚えがないのだ。 おどおどしながら蛍をなだめる。

「ごめん…僕、何か悪いことを言ったかな」

敬の言葉に、きっと睨み返す蛍。「ひどいよ敬!可愛い子供!ボクには作れないよ!」

「は?」間の抜けた声を返す敬「あの〜?僕はそんな事を言った覚えは…」

「願ってたんだよ!心の奥で!」

「心の…奥? 蛍…ひょっとして君は人の心が…読める?」


敬はなんとか蛍をなだめて話を聞いた。 彼女は確かに人の心が読めるらしい。 ただしいつでも、なんでもという訳にはいかないらしい

「じゃあ…僕が蛍の虜になっていたから? 心の奥の願望が見えたって?」

蛍は首を縦に振った。

「心の奥にボクがいたのは嬉しかった…けど」口ごもる蛍「ボクの子供が欲しいなんて…」

今度は敬が困惑した。 彼自身はそんな事を願った覚えはないのだ。

「敬が…敬の望みがボクだけじゃなければ…敬の魂を捕まえきれない…」悲しそうに言う蛍。

敬は消沈する蛍をなんとか慰めようとする。 もっとも、彼にしてみれば蛍に魂を奪われなくなった訳だから喜ばしいことかも知れない。 

それに敬が気がついた途端。

バチーン! 派手な音を立てて敬の頬がなった。


ふぅ… 蛍は息を一つ吐いて立ち上がった。

「蛍?…」

「今日は…帰る…」

「そう…帰るって…どこに?」

「君のいない所」

ぐさっ 敬の胸に蛍の言葉が突き刺さる。 敬が悪いわけではないのだが…

胸を押さえた敬に蛍が何かを差し出した。 あのロウソクだが…火がついていない。

「蛍?」

「持ってて。 今僕の魂は…」言って胸元を開く蛍。そこがぽうっと光る「こっちにあるから… でも、それもボクの体の一部… それに火を

付ければボクと話せる」

「…」

「もし…魂を取られてもよくなったら呼んで…」

「…」


無言の敬をそのままにして、蛍は夜の闇に消えた。

敬はロウソクを握り締めたまま蛍が去った窓を見つめ続けた。

蛍の望みを叶えてやりたい自分、蛍から逃げ出したい自分、自分はどうしたいのか…答えの出ない質問を自分の心に問い続けた。


とてとてとて… 寂しげな足音を響かせて蛍が夜道を歩く。 石ころを一つ蹴飛ばして足を止めた。

「うん!要は敬が子供が欲しいと言う気持ちを忘れるほどにボクに夢中になればいい訳だ!」

夜空に向けてガッツポーズを取る。

「よし!敬の好みに合わせて誘惑しまくろう!努力すれば結果はついてくるはずだ!」

前向き(?)な蛍であった。


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