紫陽花

32.マリアの個室


(マリア…ああ…)
最初の内こそ抵抗していたユウジだったが、マリアの中は想像を絶する心地よさだった…
マリアを愛撫する動きが次第に意味のないものになり…やがて動きも止まる…
優しく淫らな闇の中…ユウジの体に『マリア』が纏わりつき…
ニュル…ニュル…
(く…く…あ…)
心の中でマリアを思い…耐える…耐える…マリアの為に…マリア…
だが、魔性の快楽はユウジの体ばかりか魂すらも揺すぶり、犯していく…
(と…溶ける…ふあぁ…いい…)
体の芯がほぐれ…どこまでも柔らかくなっていくような…
『…さあ…ね…』
ユウジを包み込んだ肉襞が、体に囁きかけてきた。
ツーン…抵抗できない快感が、手足の隅々まで広がり…男性自身がヒクヒクと動いて楽になろうと促す。
(だめだ…で…る…)
ついに、体が心を裏切り…ニュクン…
(ああん…)
ニュク…ニュク…
トロリとしたものが出ていく、鈴口が、亀頭が内側からくすぐられる地よさ…
(あは…いい…いい…蕩けて…マリア…)
手も足も力が抜け…柔らかくなっていくようだ…
ニュック…ニュック…
(マリア…あ…ああ…あ)
ユウジの体は、自分自身を精の白い流れに変えて放ち続ける…『マリア』に命じられるままに…
(マリアごめん…マリア…)
そして、最後までユウジはマリアの名を心の中で唱え続けていた。

ユウジ…ユウジ…
声がする…マリアの声が…
ユウジはぼんやりと考える。
体がふわふわして…浮いているのか…水の中か…それとも自分は溶けて…
そう思った時、視覚が戻ってきた。
ゆっくり焦点が合い、辺りの様子がわかってくる。
真珠色の上品な明かりの小さな部屋。
もっとも、部屋というには不思議な形だ。
左右の壁は半円をなし、前後の壁は湾曲して頭の上で一つにつながっている
半分に切ったタイヤの中にいるようだが、壁は半透明で美しい真珠色をしている。
そして床は…ヌラヌラと濡れて光り、柔らかく暖かい…女の肌のように…
その真ん中に、全裸のユウジは足を投げ出し、手を突いて座っていた。

(マリアの個室…)
始めて見たはずなのにそれがわかる。
なぜかユウジは不思議に思はなかった。

「ユウジ…」
背後からマリアの声がした…ねっとりとした響き…そして…
ヌルリ…
濡れた白い腕が背後からユウジを抱きすくめた。
「マリア…」
耳元でマリアの声がする。
「ユウジ…貴方はとうとう私の『個室』にたどり着いたのよ…ああ…」

不思議と喜びは沸かない…あの激しい快楽の余韻で、まだ心の一部が溶けかかっているかのようだ。
しかし、マリアが喜ぶ声を聞くとユウジももうれしくなる。
「ユウジ…さあいっぱい愛してあげる」
爪の先が乳首を軽く擦る。
ジン…胸が切なくなるような甘い刺激。
「ふぁ…」吐息を漏らす。
チ…チ…
指は小さな円を描き、ユウジの乳輪をなぞる。
ユウジは軽く首を振って、それが嬉しい事を表す。
キュ…キュ…
巧みな愛撫にユウジはうっとりと身を任せ、ピタ…ピタ…あぶれてしまった股間の物が、跳ね回って不満を表明する。

レ…ヒクッ…
突如、男根に濡れた物が巻きつきおとなしくさせた。
ユウジは、微かに目を開く…
床に投げ出し開いた足…その間に女の…マリアの頭が床から生えていた。
ユウジは背後を振り返る… そこにもマリアがいた。 床から上半身だけを生やしたマリアが。
ユウジの目はトロンと曇り、驚いたそぶりは見せない。
(ああ…マリアがいっぱい…)

頭だけのマリアの舌がユウジのイチモツをゆっくりと舐めあげ始めた…
ゾ…ゾゾゾゾ…
その感触は背筋を駆け上がり…頭の中に熱いものを溢れさせる。
「あん…あ…」
乳首と股間を同時に愛撫され、体の中に甘く生暖かい物がこみ上げてくる…だんだん心地よくなってくる。
ゾゾゾゾ…チチチ…
舌と爪は、ユウジの全てがわかっているかのように動き…ユウジの内側に快楽の疼きを刻み付けていく。

「は…ふ…」
ユウジの息が荒くなってきた。 同時に体がピリピリして物足りなくなってきた。
(もっと…抱きしめて…体中を…)
ヌル…
尻の辺りに妙な感触…沈み込んだような…そう思った途端。
ミニュルルルル…
ユウジの体の下で、床が口を開けた。
ユウジは、ズルズルと床の穴に滑り落ちる…それは巨大な女陰の形を成していた。
だが、ユウジは驚かない。
ちょうど風呂に入るように、女陰に体を預ける。
それは、ユウジの頭を外に残したまま口を閉じ…ユウジの体を愛撫し始めた。
モニュ…モニュ…モニュモニュモニュモニュ…
「ああ…これ…堪らない…」
ユウジはうっとりとしている。
「ユウジ…私を愛して…」
「マリア…愛してる…愛して…ああ…あああ…ああああ!…」
ユウジがマリアの事を思うと、肉襞が激しく震えてユウジを締め上げる。
体の内にマリアへの思いが溢れ、その中にいると思うと異様な幸福感で満たされる。
「いいよぉ…マリア…もっと…もっとして…」
「ユウジ…愛して…そして『愛』を出して…貴方の愛を…搾り取ってあげる…」
マリアがそう言うと、ユウジの中に射精への強い欲求が沸き起こる。
出したい…出さずにはいられない。

「マリア…搾って…う…うう…」
キュウウウ…マリアの淫肉はユウジの体にじんわりとした圧力を加えていく。
そして、ユウジの体はそれに応え、絶頂に達した…だが、それは絶頂といえるのだろうか。
なぜなら、ユウジは昇り詰め、そのまま達し続けるのだから。
ビクン…ビクン…ビクン…
「あ!…あ!…あああ!…」
歓喜の声を上げ、ユウジは快楽に打ち震え続ける…そして…
「おいしい…ああ…ユウジ…おいしい…」
上半身だけのマリア。 頭だけのマリア。 全てのマリアも歓喜の声を上げる。
ユウジの『愛』の味に。
ユウジは、マリアに促されるまま『愛』を出し続ける。
ビクッ…ビクッ…ユウジの頭がひくつく…亀頭のように…
いまやユウジは人の形をした性器…マリアの為だけの…

やがて、ユウジは全てを出し尽くした。
(…寒い…空っぽだ…)
意識が闇に沈んでいくような気がする。
すると、ユウジを咥え込んでいた女陰が口を開きユウジを開放する。
ユウジの見た目の形は変わっていない…しかしその体は血の気を失って真っ青になっている。
上半身だけのマリアはユウジを抱き上げ、その頭をかき抱いて乳首を口に含ませた。
コク…コクコクコク…
ユウジは、ごく自然にマリアの胸を吸い始めた…甘い何かが喉を通る。
ユウジは薄目を開けたまま、マリアの与えてくれる物を飲む。
体に力が戻ってくるのがわかる…
「ユウジ…愛しあいましょう…何度でも…いつまでも…」
マリアが囁く。

力が戻ってくるにつれ、ユウジの視線が辺りをさ迷いだした。
そして、真珠色の壁の向こう側に、緑色の『なにか』をみつけた。
ぼんやりとそれを見ていると、快楽の霞から思考の一部が抜け出した。
(緑…葉っぱ…紫陽花…壁の向こうは…『外』…)
「ユウジ…」頭の上から冷たい声がした。
ユウジははっとしてマリアを見上げた。
両目に青い光を湛えた無表情なマリア…怒っている。
「…外に出たいの?…いいのよ…出ていっても…」
マリアがそう言うと、マリアの背後で壁と床の間が開き始めた。
伏せた三日月形に開いたそこから、冷たい空気が入ってきて、ユウジの体を震えさせる。
ユウジは、マリアの胸に顔を埋めて謝った。
「ごめんなさい…ごめんなさい…」
マリアは表情を緩め、胸に縋りつくユウジをそっと撫でる。
「もう忘れなさい。貴方の世界はここだけ…貴方と私だけよ…ずっと…ずっと…」
「…うん…マリア…」
二人は熱い口付けを交わし…おぞましくもある淫らな宴に再び沈んでいく…
…ユウジはマリアを愛し、マリアに愛され続ける…

…無秩序に立ったビルの間の迷路…その奥に紫陽花の木が生えた空き地があった。
紫陽花には、何時の頃からか、ナメクジと…大きなカタツムリが住み着いていた。
その真珠色の殻の中で…「ユウジ」という名の人間だった魂は、「マリア」という名のカタツムリの物の怪に弄ばれる…
いつまでも…
いつまでも…

【<<】【>>】


【紫陽花:目次】

【小説の部屋:トップ】