紫陽花

31.マリア


…う…
深い水の底…どちらが上で、どちらが下か…
だるい…体が重い…もがく…進まない…
体の片側に仄かな温かみ…そこから意識が現実引き戻されて行く。
瞼が開く…ひどく暗い照明…そして天井…
ユウジは、自分がベッドに寝かされていると気がつく。
「ふ…」吐息が漏れる。

「目が覚めた?」
すぐ左で声がした。 ゴロリと頭を傾けそちらを向く。
ユウジと同じようにマリアが横たわっている。
なぜか、彼女はユウジの方を見ずに天井を見上げている。

「マリア?」確認するように名前を呼ぶ。
マリアは応えない…そして。
「本当に…耐えてくれる?」
ユウジは瞬きし、どう反応すればいいか迷う。
「…耐える…さっきもそう言ったよね…その…『イクな』って事…」
マリアは天井を見上げたまま首を横に振る。
「あなたは私を求めて戻ってきた…どうして?…」
「どうしてって…マリアに会いたいから…一緒にいたいから…」答えながら、マリアの言いたいことを考える。
「会えばどうなるか…わかっているはずよね」

マリアの言葉は、嫌でも記憶を呼び覚ます。 10年前のあの忌まわしく…悪夢のような光景が。
「…多分…でも…」 それでもマリア会いたかった…たとえどうなっても…。
「マリアに会いたい…会えたら二度と…だから」
「私だってそうなのよ」マリアがさびしげな口調で言う。
「?」ユウジは困惑した。

マリアは身を起こし、ユウジを見つめる。
その両目が微かに青く光っている。

「貴方が私と交われば…あなたはいなくなってしまう」
「…僕は…覚悟を決め…」
「じゃあ私は?」
ユウジが黙った。
ようやく気がついた。 残されるのはマリアなのだと。

「…僕は…ごめん。 マリアの気持ちは…考えていなかった」
「私は貴方が好き…だから嫌。 貴方と会えなくなるのは」
マリアがゆっくりと体を捻り、ユウジにのしかかって来る。

「会えなくなる…でも、交われば僕は君の一部に…」
「ユウジ…貴方自分の食べた生き物と会えるの?」
ぐっ…ユウジの喉が妙な音を漏らした。
「その…うっ…」
ペチャ…マリアがユウジの乳首を舐め上げた…
「う…ううっ…」
ペチャ…ペチャ…舌が纏わりつき、乳首が立ち上がる…ハートを直に舐められているかのような感触…

「…ん…これだけでもうこんなに…貴方が欲しい…」
マリアの声が熱を帯びてきた。
ユウジは、マリアの体に抱きつきたくなるのを堪える。
「う…マリア…まだ話が…」
「わかっているわ。 でも抑えきれないの…他の男ならともかく…ユウジ…」
キュ… マリアの手が、ユウジの男を掴む…
「あぅ…」
モニュ…モニュ…ニュル…ニュル… 白い手が…マリアに捧げられるべきシンボルをゆっくりと揉む…次第にヌルヌルした感触に変わっていく
「う…う…」
股間が思い通りにならない。 勝手に熱く心地よく膨れていくのがわかる…多分マリアのアソコも…
そう考えた途端、男根が硬くそそり立とうとしてマリアに押さえつけられた。
マリアの表情が段々淫靡なものに変わっていく。

「マ…リ…ア…」
「貴方が欲しい…でも貴方を呑み込んで…貴方が溶けてなくなるのは嫌…嫌よ…」
「なら…何故…他の女の子達を…」
頭の中が熱くなってきた…もうじき快楽に溺れ…マリアの欲望にに呑み込まれる…
「あの子達は…う…私が泣いていたから…どうしたらいいかわからなくて…それで…」
マリアの体がテラテラと光りだす…マリアの『愛』が文字通りあふれ始めた。
(そう言えば…みんな『マリア姉様』と呼んでいた…慕われていたんだな…)

グチャ…グチャ…
マリアの手は、ユウジの男根を揉み解し、『愛』を塗りつける。
足が絡まりあい、体を擦り合う。
ニュル…ニュル…
ヌルヌルした体が摺りあう…マリアの体がユウジを愛するために用意した液体が、ユウジの体を性器に変えていく。

(…)
ユウジはうつろな表情でマリアにされるがままになっている。
頭の中が空っぽ…いや、脳細胞の全てがマリアの与える快楽を感じるためにフル回転しているのだ。
カクンと頭が横に倒れた。
(…?…)
鏡が見えた、絡み合う女と男…いや巨大なナメクジに圧し掛かられている青年の姿が…
(ああ…やっぱり…でも…)
絶え間ない快感の嵐に互換を支配され、嫌悪感が生じる隙もない。
(マリア…マリア…)
頭の中で彼女の『人』としての顔を思い浮かべる…微笑、照れた顔、喘ぎ、そして涙…!
「う…く…マ…マリア…」

ジュプ…ジュプ…
いつの間にか、69の体勢になっていた。 
舌が男根に巻きつき、唇が亀頭の上を這い回る感触…
そして、ユウジの眼前には妖しい花びらが、開いたり閉じたりして…妙に甘ったるい香りを吹き付けてくる。
「く…」
そこにむしゃぶりつきたくなるのを堪え、マリアに呼びかける。
「マリア!…どうすれば…耐えるって!…」
『…耐えて…』
マリアの声が男根を通じてユウジの体に響く。
ユウジは、それでいってしまいそうになるのを堪える。
「マリア…」
『…お願い…消えないで…』

そこまでだった。
ユウジは、我慢できなくなりマリアの秘所に口付ける。
ビチャ…ビチャ…
そこは別の生き物のように、ユウジの顔を包み込む。
(ああ…これは…)
顔を滑る陰唇の感触にユウジは酔いしれる…もっと…もっと…そう思うと、望みのままに頭が奥に入っていく。

ビチャ…ビチャ…淫らな音が耳を包み込む。
じきに、ユウジの世界はマリアだけになる…そしてマリアは泣く…
(…?…また…こ…これだ…)
ユウジは頭の芯が蕩けるそうな快感の中で、必死にマリアの泣き顔を思い浮かべる。
マリアの為…マリアの為…
その思いにしがみ付き、自分を保とうとする。
ジュ…ルン…
(あ…乳首まで…あ…)
もう胸の辺りまでが淫らな肉に覆われているのがわかる…
心臓に心地よい物が注ぎ込まれ、全身に行き渡り…力が抜ける。
(と…蕩け…そう)
『蕩けなさい…蕩けて奥に…いらっしゃい…』
「は…い…」
ユウジは、マリアの体が自分の体に囁くのを…そして自分の体がそれに従うのを感じた…

ミチュ…ミチュ…
傍目から見たらグロテスクな光景でしかない。
たくましい青年の上半身が、白い美女の…そこだけ大きく口を開けた秘所に呑み込まれていく…
まだ呑み込まれていない下半身はヒクヒクと振るえ続け、時折足が何かに触ると、そこを蹴るようにして自分から呑み込まれていく。
マリアは、目を閉じ…軽く指を咥えてゆっくりと腰を動かしている…
「ユウジ…もっと…消えないで…ああ…そこ…」

ついに、ユウジの肉体がマリアの秘所に…マリアの奥に…消えた。
ユウジは『マリア』の中でマリアを愛し続けた…体を震わせ…柔壁に舌を這わせ…襞をさすり上げる。
そうすると『マリア』が震えて…ウネウネと動いてユウジを愛撫し返す…
(あ…あ…)
体全体をヌルヌルした肉の愛撫で蕩かされ…マリアの体内に呑み込まれる。
(マリア…マリア…)
ユウジはうわ言の様に念じながら…快楽の井戸をどこまでも堕ちていった。

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