紫陽花

27.オ兄チャン…


……ビチャ……ビチャ……ヌル…
どのくらいの時が流れたのか…
(む…う…?)
ふと、岩鉄は我に返った。
いつの間にか、あの恐ろしいほどの快感が感じられない。
少女達の動きが緩慢になっているようだ。
(…はて…)
辺りの様子を伺おうとするが、泡で顔まで多い尽くされている。
手を動かそうとして、暖かな重みに押さえつけられているのに気がつく。
トク…トク…鼓動が感じられる。
(…こやつら…物の怪とはいえ生き物…そうか!…果ておったな!…)
岩鉄は、残る力を振り絞ってもがく…もがく…
ニュ…ニュ…ヌ…ルン!…
(抜けた!)

ト…ツル…ト…トトトト…
妙に軽い足音を響かせ、岩鉄は白い闇をかきわけ必死で走る。
ボッ
唐突の闇が白から黒に変わった。
泡の塊はを抜けたらしい。 正面に金色の仏像が見える。
岩鉄は、おぼつかない足取りでそれを目指し、走る、走る…

「アレ?」「イナクナッタ?」
背後で声が上がる。 岩鉄の逃亡に気がついたようだ。
「く…くそ…なんでこんなに…遠い…」
足に力が入らない。 足元は少女達の流したもので滑る。
それにしても遠い…ちっとも近づかない…

「アレ?」
ズ…ン…
「おっ!」
岩鉄の足元が揺れた。
つんのめりそうになるのを、踏ん張ってこらえる。
ズ…ン…ズン!…
「何だ!?」
直ぐそばに何かが突き立った。
思わずそちらを見る。
闇の中に、白っぽい柱のようなものが立っている…
ボ…トッ…頭にヌルリとした物が落ちてきた。
「うぐ!…またか…?」
天井を振り仰ぎ…硬直する岩鉄…

最初はわからなかった。
何か薄気味の悪い物が頭の上で動いている…ナメクジか何かが身を捩じらせるように…
それがすっと広がる…いや口を開けた。
「だっ!」
タ…ララララ…ビチャ…
「ひぃぃぃ!」
頭上の『何か』がトロリとした液を吐き出し、それが岩鉄の全身を濡らし絡めとった。
それは真紀の『妖花』だった。

「オジチャマ…ドーシタノ…コンナニチッチャクナッテ…」
真紀の声が頭上からする。
「な…なんじゃと…貴様らがでかくなっ…わしが縮んだじゃと!?…」
真紀の言うとおりだった。
いまや岩鉄は子ねずみ程度の大きさしかない。

茫然自失の状態に陥り、立ちすくむ岩鉄。
その彼を見下ろしつつ、真紀はその場にしゃがみこむ。
濡れた唇のような『妖花』が、大きく口を開け岩鉄を頭から呑み込もうと迫ってきた。
ベチャ
「どぉわぁぁ!」
僅かに狙いが逸れ、岩鉄床に押し倒された。
彼からすればオーバースケールの秘所に上から押さえつけられ、身動きが取れない。
「ぐ…重い…ふぐわぁぁぁ…やめてぐ…」
ピチャ…ピチャ…
岩鉄に反応し、『妖花』は再び獲物をしゃぶり始めた。

「アン?…ナニィ…」「お?…おお…」
岩鉄は先ほどまでと違うことに気がつく。
蕩けるような柔らかな感じではなく…これはむしろ…
ビリ…ビ…ビリビリビリビリ…
「ややめてくれぇ!…」
皮を剥がされ…直接神経を触られるような激しい刺激。
苦痛の一歩手前といっていい強烈な快感。
岩鉄は耐え切れず、体を抜こうと暴れる。
夢中で陰唇に手をかけこね回し、震える肉の芽にしがみ付き、必死で噛み付く…

暴れる岩鉄の動きで『妖花』が興奮し、奥から愛液をタラタラ流しつつ、捕らえた獲物を咀嚼するようにムニムニ動く。
「アン…スゴイ…イイノ…モット…モットシテ…暴レテェ…」
真紀は、床に突っ伏して尻を持ち上げ、目を閉じてうっとりとしている。
感じているのか、小さなお尻がフルフルと細かく震えている。 そして…
ジュチュ…ジュプッ…ジュプッ…ジュプッ…ゴクッ…
「あー!あぁー!…あ…ゴボッ…モゴッ…モゴッ…」
激しく動く『妖花』は、ついに暴れる岩鉄を呑み込んでしまった。

ゴ…ロン…
「ハアッ…ハアッ…」
仰向けに寝転がり、大の字になって余韻に浸る真紀…と…
「イ…ヒィ!?…」
ボコ…ボコ…
まだ毛も生えていない少女の下腹部…そこが異様な動きを示す。
ポコ…モコッ…
中から突き上げられるように小さくふくらみ、また平らになる…それを繰り返している。
「アン…アン…」
目を閉じたまま、軽く指を加えて腰を振る真紀…

「真紀?」「ドーシチャタノ?」
ようやく泡の塊から抜け出してきた他の少女達が真紀を取り囲み覗き込む。
「フグォゥゥ…助けて…ぎ…ぎぼぢいい…げど…ヴァァ…」
真紀の下腹から、不気味な声が響いてくる。
真紀以外の少女達は、互いに顔を見合わせる。
「蟹男?」「真紀ガ残リヲ全部取ッタノ?」「デモォ…」
真美が納得いかないという顔で呟く。
他の少女達が真美を見る。
「ドーシテ…蕩ケテシマワナイノ?」
言われて考え込む一同…

アフン…アン…
岩鉄が中で暴れているのが堪らないのか、真紀は床の上で体を震わせ続ける。
それを見ている内に、他の少女達の目も再び潤んできた。
「アタシ…マダ足リナイ…」「アタシモ…」「ウン…」
そして思い出した、自分達がここに来た目的を。
「ゆうじ…オ兄チャン…」
少女達は一斉に振り向き、視線を仏像の膝元に…仏像に背を預けるようにして震える少年に集める…
ユウジは、自分を見つめる18の瞳に、青く燃える魔性の少女達の視線に恐怖する。

(そんな…)
ユウジが目を覚ました時、岩鉄は少女達に群がられその愛撫の虜になっていた。
そして、彼が真紀に呑み込まれてしまうまでの一部始終を目撃していた。
(あ…ああ…)
何度となく見せられてきた光景…だが今回…ユウジは恐怖を感じていた。
アロマや静達とは違う…男を悦楽の内に己のがものとする技を知らぬ少女達は、魔性の欲望のままに岩鉄を貪り食らった。
それが、ユウジに『紫陽花』の女達の本性を認識させていた。

ピチャ…
濡れた足音…
ピチャ…「オ兄チャン…」
ユウジはイヤイヤをするように首を振る。
ピチャ…ピチャ…
一人、また一人と少女達は立ち上がり、ヌメヌメ光る裸身をさらしてユウジに迫ってくる…
「オ兄チャン…」「オ腹スイタ…」「ネェ…食ベサセテ…」
「ひぃ…」かすれた声を上げるユウジ。

キィ…
微かに木のきしむ音がして、微風がユウジの頬を撫でた。


【<<】【>>】


【紫陽花:目次】

【小説の部屋:トップ】