紫陽花

18.説得


「!」

ユウジは立ち尽くす…静が…巨大な静の上半身が湯船から覗いている…その静の胸の谷間に、三島が首まで埋まり、うっとりとした様

子で全身を乳房で愛撫されている…

「せ…先輩?」…

ユウジの問いかけに三島が答える様子はない。 ユウジは焦る。

「先輩!先輩!!」声が反響し、三島がのろのろと首をめぐらし、やっとユウジに気がつく。

「あ…おお、剣崎…」

三島がかすれた声で応える…


ユウジは、三島が静の虜になりつつあると悟る。

(このままだと先輩まで…今度は俺が!)

意を決して、三島を捉えている白い艶かしい物体を睨む。

ブルンブルン…それは大きく震え、コーヒー缶ほどもある乳首が時おりユウジを向く。

(う…でかい…)

静の巨乳(巨大乳?)に気圧されるユウジ…そろそろと、近づいていく。


ヌルッ…「うわっ?」…パシッ。

足元が滑った。

受身を取り、洗い場の固い床に頭から叩きつけられるのは防いだが、足を強く打ち付けてしまった。

「くそっ…またあれか…」

今度は四つん這いで近づこうとする…「あれっ?」…前に進めない。 静に近づこうとすると、見えない網が張ってあるような抵抗感があ

る。

「なんだ?…このこのっ」ポスッ…ポスポスポス…

手をやたらに突き出し辺りを探るが、どこにからも前に進めない。

(声は届く…なら…)「先輩!!目を覚まして!」

あらん限りの声で三島を呼ぶ。 


三島は、遠くから自分を呼ぶ声に気がついていた…が…

ニュル…ニュムニュム…モニュモニュ…

(あ…)

足に…腰に…男根に…滑る女の肌が擦りあわされる…

ときに優しく…ときに強く…体の中身を揉み解そうかというように…

(誰か…呼んで…)

三島の意識が、ユウジに応えそうになる…

ムニ…(お…)

心の揺れを察したかのように、両側から白い塊が三島を包み…こねる…

三島の意識が朦朧となってくる…


フニャフニャと、波打つ乳房と同じように、三島の体も波打つよう…

静の乳房と自分の体の区別が…あいまいになっていくような…

(はぁ…は…)

白い…柔らかい…漂うような心地よさ…

陰嚢を何かが揉む…ニュルリ…(おぅ…)…袋の中身が…直接揉み解される…

そそり立っているのか…柔らかく伸びきっているのかわからない男根…そこにも絡みつくものが…

ヌト…ヌルリ…(あぁ…)…優しく巻き付き…カリを…鈴口を…亀頭丸ごとを…摩り…捏ねる…

乳首…臍…菊門…ありとあらゆるところに『何か』がまとわりつき…揉む…ねぶる…

三島の魂は、静に揉み解され…柔らかく…柔らかく…


”如何です…現実には有り得ない快楽は?…”

(有り得ない?)

”ええ…あなたがおっしゃった…”

(有り得ない?…どうでもいい…そんな事…)

”ふふ…”

(どうでもいい…どうでも…このまま…)

ゆったりとした乳房のうねりの中…三島は静の虜となり…もうユウジの声も届かない…


ユウジは徒労感に襲われていた。

三島は目を覚ますどころか、次第に静の虜になっていくかのように見える。

それに、辺りに漂う非現実的な違和感…

(何か変?…そうだ…声が響かない?…風呂場なら声が響くはずなのに…)

疲労で頭がまわらなくなって…目を覚ましたまま夢の中に落ち込んでいくような感覚…


ユウジは頭を強く振って意識をはっきりさせ、再度声を張り上げた。

「先輩!!」

「もう、聞こえはしません…」

静が遮る。

「先輩を放せ!」

「いやがっておいでのように見えますか?」

静が微笑む。

乳房の間で、ときに頭まで見えなくなるほどに翻弄される三島…その顔には、愉悦の色が色濃く漂う。

「お…あ…」

もはや意味のある言葉を発していない…ただ静の乳に愛撫され、快楽を貪る肉人形…

「…先輩…」

「アロマ達は経験不足でしたから…私や、マリア姉様になれば…お望みのままの奉仕が可能です…」

「望みの…奉仕…」

ユウジの顔に欲情の色が溢れてくる…

「極上の奉仕を…さあ…ユウジ様…」

静が手を差し伸べる…ふわっと湯気が舞い、静が妖しく誘う…

「おいでなさいまし…私がマリア姉様の所へ連れて行って差し上げます…」


(マリア…マリア…マリアと…)

ユウジの体が…またマリアの感触を思い出す。

心がマリアの記憶で占められていく。

キュゥッと体の芯が縮み、幸福感で溢れ返る…

(マリア…)


ペタ…足が前に…静に向って歩み出す。

頭に浮かぶマリアの顔…マリアの体…倒れたマリア…その泣き顔…

ズキッ…心が痛む…両の目から涙が溢れ、足が止まった。

「駄目だ…行けない…マリアには…もう…」

何故かわからない…心がマリアに会う事を恐れている…


「…」静が両手を下ろし、押し黙る。

顔には出さないが、ひどく驚いていた。

(何故?…マリア姉様の呪縛?…でも『誘い』の方向は同じ…拒めない筈なのに…)


しばしの沈黙が流れ、今度はユウジが静に懇願する。

「先輩を…放して…」ユウジの声に力は無い。

ヨシミツや前田と違い、三島は自分が巻き込んだと…ユウジはそう考え、罪悪感を感じていた。

(先輩を助けないと…でも、どうしていいかわからない…静さんにはかないそうもない…)

今度は無力感が涙を溢れさせる…

子供のように泣くユウジを、静は無表情に見つめる。


静は、乳房を押さえていた両手を乳首の上に移して、僅かに谷間を開く。

ズルリ…三島の体が、力なく谷間を滑り…浴槽の縁に上半身を預ける格好で解放された。

「…?…」

ユウジは、理解できないという表情で静を見る。

「お連れ下さい」

「静…さん?」

「どうぞ、お連れ下さい」

ユウジは首を傾げる。(罠?)

静の真意が読めない。


とにかく三島を連れ出そうと、這いずって三島に近づく。

「う…」三島がうめき声をあげる。

意識は完全には戻っていないようだ。

三島の右手を掴む…(まさか…溶けかけて…腕が…)

グロテスクな想像に恐怖したが、幸い彼の体に異常はみられない。


三島に肩を貸す形で体を支え立たせようとすると、フラフラした足取りながら立ってくれた。

「剣崎…」ようやく、意識を取り戻した。

「先輩…大丈夫ですか?」

「ああ…なんとか…」ぼうっとした顔で答える。

「いきましょう」


二人は支えあい、静に背中を向けてその場を去ろうとする。

その二人に、静が声をかけた。

「さようなら。 お二人とも…もうお会いする事はありません…二度と」


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