ハニー・ビー
4-03 解放
オーサ山の朝は早い。 高原に住む虫たちは、乱暴者のヨロイバチが大挙して蜜を集めに来る前に、朝ごはんを済ませねばならないから。
地虫も、蝶も、跳長虫も、先を争って高原の花畑に繰り出し、蜜を吸っている。
アハハハハ……
朝靄の向こうから、楽しげない笑い声が響いてきた。 虫たちは動きを止め、不安げに触角を振る。
ザザザザッ、
濡れた草を掻き分け、何かが走ってきた。 虫たちは一斉に飛び立ち、または跳ねて逃げまどった。
「わぁ! 見てみて、あんなに虫がいる」
「朝早いからだよ。 僕らがヨロイバチを放つ前に、蜜を吸っていたんだ」
修道院の子供たちがやってきた。 楽しげに笑い、時に競争しながら、一団となって高原を登ってくる。
「シスターソフィア! 早く早く」
子供たちの後から、尼僧姿のシスターソフィアが、そして三人の尼僧−−ワスプと化したアン、ベティ、クララ−−が続く。
何も知らないものの目には、いや知っていたとしても、彼らはこれから楽しいピクニックのだとしか見えなかった。
「わぉ」
朽ちかけた教会とそこに広がる黄色い花畑に、アレスが驚きの声を漏らす。 ほかの男の子たちも、似たような感想を持っているようだ。
一方女の子たちは、さして驚いた様子も見せずに淡々と黄色スミレ草をむしり始めた。
そんな彼らの様子を、シスター・ソフィアとワスプ化した三人の少女が離れたところから見ていた。
『男の子たちの方が、自我を取り戻しかけている?』 かなり離れたところにいる、クララ=ワスプが呟いた。
『女の子たちは、体の中に『蜜』を注がれているから、より長く従順でいるのよ』 アン=ワスプが応じる。
『男の子たちも、シスターの様に完全に魂を奪えばよかったのに』
『それでは変態が進みすぎてしまう。 私たちのように、黄色スミレ草に近づくこともできなくなる』
三人は黙り込んだ。
ワスピーはまず、シスター・ソフィアを完全に支配下に置き、彼女に黄色スミレ草を内側、つまり森の方から摘み取らせようとした。
しかし、黄色スミレ草の香りを長く吸っていると、人間でも眠り込んでしまう。
洞窟の出口の花畑は、シスター人では手に余った。
黄色スミレ草を取り除くには外側、廃教会のある方から、それも人手を集めて一度に行う必要があった。
そこで、教会側から黄色スミレ草を取り除くための計画が考え出された。
人間のままのシスターならば、黄色スミレ草の花畑を突破することができる。
シスターを一旦外に返す用に見せかけ、革の水筒の中に隠した数匹のワスピーを運ばせる。
外に出たワスピーは、宿主となる人間を選んでワスプとなり、より多数の人間を支配下に置く。
そして、支配した人間たちに花畑を取りかせる。
『大丈夫、休憩の時に男の子たちをかわいがってあげれば……』
『私たちの言うことを聞くようになるわ』
三人は子供たちの動きを注視し、黄色スミレ草の毒気に当てられないように時々休憩を取らせ、小川で体を清めさせる。
そして、自我を取り戻しかけている男の子は、そのまま草むらの上に押し倒して、存分に『かわいがる』のだ。
「お姉ちゃん……そこは……」
「だめぇ……変になっちゃう……」
自我を取り戻しかけた男の子は、アンたちに変なところを舐められ、おっぱいを吸わされる。
そして、別人のように素直になり、黄色スミレ草の摘み取りに精を出すのだ。
日が落ちるころになって、ようやく黄色スミレ草の摘み取りが終わった。 黄色と緑のうずたかい山に、油がかけられて火がつけられる。
「……」
子供たちの見守る中、巨大なかがり火から灰色の煙が立ちのぼり、夕闇の空に吹き消されていく。
アハ……
アハハ……
アハハハハ……
風に乗って笑い声が聞こえてきた。
アレスが振り返る。 背後に黒々と口をあけていた洞窟、その奥から何かが飛んできた。
「ワスピー……」
喜びの舞を舞いながら、ワスピーの群れがやって来る、闇の中から。
「……」
意識せず、アレスは一歩あとずさる。 と、その肩にかすかな重み。
”アレス、やったね”
振り向けば、アレスと情を交わした、あのワスピーだ。 その瞳のに炎が燃えている、魔性の欲情のの炎が。
「あ……」
”もう待つことはなイんだ……”
ワスピーの囁きにアレスは頷く。 体の奥から沸き起こる、ワスピーに対しての欲望に素直に従う。
ペロリ……
潤んだ瞳で、アレスはワスピーの体を嘗め回し、彼女の甘い蜜を味わう。
「あ……はぁ……」
アレスは体の芯に甘い疼きを覚える。 ちらりと視線をなげれば、ほかの子供たちも、新たにやって来たワスピーたちに選ばれている。
”今夜は寝かせなから……”
「お願い……やさしくして……」
アレスは甘えるように言った。
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