ハニー・ビー
2-03 初めての夜
子供の夜は早いし、明かりは高価だ。 お茶会がお開きになると、あとは寝る時間になっていた。
子供達は急いで自分の食器を片付け、男女別々の寝室に下がってベッドに潜り込む。
シスターは自分の部屋に戻る前に、明かりを持って子供達の部屋を見回り、皆がベッドに収まっていることを確認する。
「おやすみなさい、シスター」 「おやすみなさい」
「おやすみなさい……みんなよい夢を」
静かにドアが閉められ、寝室に静寂が訪れる、一時的に。
トゥ……
孤児院の近くで、高原夜鳥が狩に出かける頃、子供達はまだ寝ていない。
藁を敷いたベッドの上で、子供たちは薄い毛布に丸まって、羽目板の隙間から忍び込む冷気から身を守りつつ、ささやかな自由時間を
楽しんでいた。
快適とはいえぬ寝室での、眠りに落ちるまでのこの時間は、子供たちにとって宝石にも等しい貴重なひと時だ。
ひそひそと小さな声がベッドの間を行きかい、時折、誰かが忍び笑いを漏らす。
それも徐々に収まり、最後には、寝室が寝息が満たされて、子供たちは夢の国に旅立つ。
「ふぅ……」
アレスはため息をつくと、粗末な夜着の胸元が動き、小さな緑色の女性が顔を覗かせる。
「どうシた、眠れなイか?」
「あ、うん」
シスターの言いつけで、『ワスピー』の世話係の子供たちは、彼女達を服の中に入れて暖めていた。 小さな体に冷気は大敵だからである。
(なんだか、眠れない……)
『ワスピー』の体は、少し冷たい感じがし、その体からは女の子の香りがした。 不快ではないのだが、何か落ち着かないのだ。
「フフフ……」
ワスピーは、アレスの胸の上で頬杖をついてこちらを見て笑っている。
「なんだよ」
「フフ……少シ、遊ぼう」
「遊ぶ?」 唐突な申し出に、アレスは面食らった。 「駄目だよ。 シスターに怒られちゃう」
「だイジょうぶ……夢の中で遊ぼう」
「夢の中? どうやって?」 アレスの声が少し大きくなる。
ガサリと藁がすれる音がした。 誰かが身じろぎしたようだ。
「……どうやって?」 声を潜めるアレスに、ワスピーがにじり寄る。
「わたシの目をミて……」 ワスピーの目が光はじめる。
「目を……」 アレスは、ついワスピーの目を見てしまった。
…………
複雑な縞模様が小さな目で渦巻き、アレスの目を捕らえて離さない。
きれい……
キれイでシょ……おイで……こっちニ……
…………
アレスの瞳の中にワスピーの光が渦巻き、次第に表情がなくなっていく。 そして、アレスは深い眠りに『堕ちて』いく……
アレス……アレス……
誰かがアレスを呼んでいる。
アレスはゆっくりと体を起こし、辺りを見る。
「ここはどこ?」
アレスはベッドの上にいた。 さっきまでの粗末なベッドではない、フカフカした布団がのった豪華なベッドだ。 しかし、ここにはベッドしかない。
辺りには白いもやが立ち込めていて、周りの様子が判らない。
「ここは夢の中……」
澄んだアルトの女の声がし、振り向くとアレスの隣に美しい女性が寝そべっていた。
「あなたは誰です?」
女は緑色の肌で、長い金色の髪の毛をベッドに広げている。
目は不思議な色合いをしていて、瞳はないが目の中心が黒っぽくなっていて、アレスに視線を投げかけているように見える。
「私はワスピーよ。 ここはあなたと私の夢の中」
そういうワスピーの背丈は、さっきまでと違い大人の女性の体格と体型を持っていた。
豊かなバストと大きなお尻の女性が、裸でベッドの上にいる。 これでふるいたたなければ男ではない……が、あいにくアレスは『男の子』だった。
「夢……これが夢」
アレスはワスピーを見ずに、自分の手を見て、体に触ってみたりしている。 触った感触がある。
「これがほんとに夢なの? とても信じられない」
「うふふ……」
ワスピーは笑うと、アレスの背後から抱きついて、ベッドにゆっくりと引き倒す。
「あの……」 困惑した様子のアレス。
「ね、遊ぼう」
そう言って、ワスプは自分の胸にアレスを抱きしめ、緑色の柔らかい乳房に、アレスの顔の半ばを埋めさせる。
「わっ、女くさい」 アレスの率直な感想に、ワスピーが笑う。
「当たり前よ。 ワスピーは女だもの」
アレスはどうしていいか判らず、じたばたもがいてみたが、ワスピーは離してくれない。 仕方なくじっとしていると、ワスピーもアレスを抱きしめたまま動かない。
「えーと……あの」
「これが『遊び』よ」
「これが『遊び』?」 アレスはきょとんとして、ワスピーの言葉を繰り返した。
「こうやってお互いに抱き合うの。 それが、大人の遊びの第一歩……」
「大人の遊び……」 アレスは、ワスピーの顔を見上げた。
「そう、こうやって抱かれるのはいや?」
アレスの頭の中で葛藤が起きた、ワスピーに好きにされていることへの反発と、ワスピーに抱かれていることの心地よさと安心感、どちらをとるかで。
結果、後者が勝った。
「嫌じゃないです……」
アレスが答えると、ワスピーはアレスの背中に腕を回し、彼をしっかりと抱きしめた。
緑色の肌はさらさらして、適度な冷たさで彼の肌をくすぐる。
そして、甘酸っぱい女の匂いがアレスを包み込み、それを胸に吸い込むと、とても落ち着く。
「……」
アレスは甘えて、ワスピーの胸に頭を摺り寄、ワスピーはアレスの背中を優しくなででやった。
二人はしばらくそうしていたが、やがてアレスが寝息を立て始めた。
「うふふ……かわいいわよ、私のアレス」
ワスピーはアレスの髪に指を絡める。
「これからいろいろ、その体に教えてあげる……楽しみにしていて」
ワスピーは細い指を、アレスの男性器に絡め、優しく摩った。
アレスの寝息が乱れ、微かに喘ぐ。
そして、もやが次第に濃くなっていき、全てが消えていった。
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