深き水

13.真相と対策


「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」礼二が凄まじい叫び声を上げた。
快感ではない、苦痛の叫び声だ…そして、礼二は失神してしまった…

…?…
礼二の意識が戻ってくる…柔らかいものに頭がのっている…額にも何か…女の匂いが…女!
慌てて跳ね起き周りを見回す…いた!ベッドに座っている…あれ、エミ?…

ベッドの上にいたのはエミだった…昨夜と同じ服を着ている…
「大丈夫?…危なそうだったから飛び込んだんだけど…」
「いったい何が…痛っ…い!?…き、君その背中と…頭…目も…」
肩を押さえ、顔をしかめた礼二はエミの容貌の変化に気がついた。
よく見れば、エミの背中には羽がある、頭に角が…ここまでならコスプレでも可能だが、目が金色に光っている…

「落ち着いて…筋道立てて話すから…信じられればだけど」
エミが話す。

まず、自分がサキュバスという魔物である事、次に今回の事件に関わって目撃した一部始終を…
「私が目撃したのは二人がミイラになるところまでだったの。だけど補足があるわ」
「補足?…」
「何故か頭の中に伝わってきたのよ、二人が、そして貴方のみていた淫夢というか、幻覚が」
「幻覚?…さっきのあれが現実じゃなかったと、そう言うのか?」
「そうよ、緑の目の女はいなかった。他の人には貴方が勝手に興奮していて、もし射精していれば、夢精したようにみえた筈よ」
「そんなばかな、一体何故そんなことに…」

エミは、つと立ち上がり、台所にいって冷蔵庫を開けてごそごそ探っている、「?何を?」礼二はそれを不審そうにみている。
そして、エミはペットボトルを引っ張り出し、台所の電気を消し、冷蔵庫の白い扉の前にペットボトルをかざして頷く。
「これが原因だったのよ」そういって礼二を振り返る。
礼二にも見えた、ペットボトルの中身が微かに緑に光っているのが!。

『マジステール食品 海洋深層水のおいしい水』ラベルにはそう記されている。
「これが?…確かに光っているが…何なんだこれは…」礼二は台所でペットボトルを電灯にかざしながら聞く。
「人に知られていないもの、だから名前は無いけど、あえて呼ぶなら『水魔』かしら」
「スイマ?眠くなる奴か?」
「水の魔物と書いて『水魔』よ」
「『水魔』…」唖然として礼二は呟く…
「仲間…いえ、知り合いの女悪魔から聞いた話なんだけど、昔、漁港や漁師の集落で似たような事件が起こったことがあったらしいわ」
「聞いたことが無いぞ…そんな話」
「たいてい、村人全員がミイラになって全滅したから」
「!」
「極めて希にしか起きなかったと言う話よ。…他の集落が気づいても時間が経過すれば、自然にミイラ化したのと見分けがつかないし…」
「疫病で全滅したように見える訳か。でも、それじゃ体験者も目撃者も残らないはずじゃ?」
「全滅したのは人間や動物よ、…もっとも魔物でも憑かれたらどうなるか判らないけど」

「海の魔物なのか?」
「深海に『水魔』の塊があるらしいわ。時にその一部が浅いところに上がって来ると、人間に犠牲者が出る事もあるとか」
「うーん、それでその水自身が魔物だと?」
首を縦に振るエミ。
「多分…よくわからないけど。魔物の一部なのか、群体なのか…」
「ミイラになるのは何故だ」
「犠牲者を観察していたら、淫夢を見始めると味覚が変わってやたらに水を飲むようになっていたわ。多分、体の水分をこれと置き換えるためじゃないかしら」
「そして、最後には魔物が体から出て行く…だからミイラに…しかし何故?なんの目的で?」
「目的もわからないわ…むしろあなたの方がわかると思うわ…」
「僕が?…」
「『水魔』なのかどうか知らないけど、幻覚のなかで話していたでしょう、女と何か聞けた?」
「特に何も…僕の心や体目当てだと言っていたけど、Hな意味じゃなかったような…」
「他の二人の幻覚でも、何か別の目的があったようよ…ミイラになる直前では失望したような感じだったし…」
「うーむ…」
考え込む二人…いや、一人と一匹か…

口にはしないが、礼二はエミの話を全面的には信用できない。
夜中に魔物が飛び込んできて、別の魔物が人間をミイラにしていると言う話をして、はいそうですかと信じる方がおかしい。
しかし、エミの話が真実であれば、直ちに手を打たないと新たな犠牲者が出る。
現に自分も危なかった…いやまだ危機が去ったとは限らない。
礼二は気がついていなかったが、先ほどまで収まっていた一物がじわじわ興奮してきていた。
エミは横目でそれを見て”まだ続いている、直に…”。

礼二は無意識に首を振る、ズキッとした痛みが肩を走る。
「痛っ、何だか肩が痛いな」
「あ、ごめん。幻覚破るのに電気ショックで火傷させたかも」
「電気?そんな事もできるのか」
「いや違う違う」パタパタ手を振るエミ「これこれ」いって見せたのはスタンガンだった…
「おい、それは護身用の道具じゃ」憮然とする礼二。
「これぐらいのショックがないと、目が覚めないらしいの、勘弁して」ペロと舌を出すエミ。

ペットボトルの中身を眺めながら、礼二は言う。
「こいつの調査は専門機関に任せるとして…でも、魔物の分析なんかできるのか?」
「さあ?」
「それにしても、ペットボトルのミネラルウォーターが汚染されているにしては、被害が小さすぎるような気がする」
「ここらのコンビニのミネラルウォーターも結構調べたんだけどね、大半は只の水だったわ。全部が汚染されているわけではないと思うの。でも、このメーカーの水は回収させないと」
「うんそうだな…しかし、証拠がない…仮に分析に成功しても、回収を納得させるまで時間が掛かるな…」考え込む礼二。
「それだと被害が拡大するわね。やっぱり、回収は私がやるしかないか」言いながら、ベッドに歩いていくエミ
「ヘ?…君が?」予想外のセリフにエミの方を向く礼二。
「まかせて、あなたには別にやってもらうことがあるから…」
「やってもらうこと?…お、おい」
エミは服を脱いでいた…ベッドに腰掛けて、足を開く…
「ちょ、ちょっと何を…あ…」

エミの目が輝く、金色に…エミの体から妖しい匂いが立ち込めていく…鼓動が早くなる…
「ごめんなさい…私にはこういうことしかできないの…」
エミが妖艶な獣と化していく、長い舌で舌なめずりを…エミの女陰も妖しく濡れて礼二を誘う…
「サァ、キテ、ココニ…私ノト中ニ」エミの口調が変わった…
「あぁぁ…エミ…やめて…」…エミの女陰から目が離せない…
フラフラとエミに歩いていく礼二…足が止まらない…
「イケナカッタデショウ…私ガイカセテアゲル…」エミの声に熱がこもる…

エミが両腕を開いて礼二を招き寄せる…
「うぁぁぁぁぁ…」
今度こそ、礼二の歓喜の声が部屋に響く…


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