深き水

5.白溺


それから数日後、同じ水神町の一角…

深夜、アパート・グレートゴージャス103。
名前をつけた大家は皮肉屋か詐欺師と思われるくたびれたアパートの一室…
下着姿の大学生がパソコンを操作している、ネットからPornMovieをDownloadしていた。
かなりのサイズがあるらしい、ダウンロード・ダイアログのプログレスバーはじわじわとしか動かない…
パソコンの前を離れ、台所でハンバーガーを食べ始めた。
冷蔵庫から牛乳のパックを出して一口のみ、顔をしかめて流しに吐き出す。
賞味期限を確認し、もう一度味見する、首をかしげて牛乳を流しに捨て、水を流す。

今度は水らしいペットボトルを取り出し飲み始めた。
一気に全部飲んでしまい、空になったボトルを流しの上に残し、パソコンの前に座る。

ダウンロードは完了していた。画像を再生する…無修正画像だ…
画面の中では西瓜ほどの胸をした肉感的な白人女性が黒人男性とソファに座っている。
女が男のの一物を掴み、笑いながら舌を這わす…
ペチャリ…背中に柔らかく涼しい塊が押し付けられる…
「うわっ!?…」背中から誰か抱きついてきた…
「だ、誰…あ?…」
肩から白い腕が肩の上から胸に回されている…背中に確かな存在感…そしてむっとするほどの甘い匂い…
”ウフフ…コウイウノガオ好ミ?…”ハスキーな女の声…
そっと椅子を回し後ろを向く。椅子の動きに合わせ、「誰か」が引く…
後ろにいたのはやはり女、白い…真っ白ではなく乳白色…銀色の髪…緑色の目…アジア系の顔ではない…全裸だ…
何よりも…その胸、乳房が…バランスを崩すほどの大きさではないが美しい形…張りがありしっとりとしてなめらかそうで…ピンク色の乳首はツンと上を向く…
見事な谷間から目が離せない…見ているとそのまま飛び込みたくなる…
「だ、…どなたでしょう…」
”名前ハナイノ…マダ…”
「?」
”目的ハ…アナタノ体…ソシテ…”
そういって、女は近づいてきて、両の手で彼の顔をはさみ、顔を近づけてくる…
「うわっ…あ…むぐ…」
椅子に座っていた彼に緑色の唇が押し付けられる…
少し遅れて甘い香り、柔らかく冷たい唇の感触…吸い付くよう…柔らかいものが口の中を舐めまわす…
胸が…女の胸を受け止めて…下着を通しても女の乳首が…
体が硬直する…頭が回らなくなる…舌を絡められる…ピチャ…レロ…レロ…
女の瞳を覗き込む…綺麗な緑色の瞳…微かに光っている…
女以外の世界が消える…女だけしか見えない…感じられない…
舌から伝わる甘い痺れ…それが体に広がっていく…少しずつ痺れるような…やがてそれが『快感』というものだと認識する…
”これが…女…SEX…もっと…したい…”

濃厚なディープキス、それも生まれて初めての…彼はされるがまま…そっと目を閉じて女の感触に酔いしれる…
”犯されている…何かが…”心の中で、何かが警戒信号を出す…しかし…
”ウフフ…犯シテアゲル…体モ…心モ…魂ノ奥ノ奥クマデ…”心を読んでいるかのように女が囁く…
”ああ…犯される…犯されたい…犯して…全部…”
”素直ナ子…私ニ溺レナサイ…望ミ以上ノモノヲアゲル…”女はベッドに誘う…
「はい…」彼はフラフラと立ち上がり…女に促されるまま裸になりベッドに向う…
女はベッドに仰向けになり…両手を広げ誘う…乳白色の体がまぶしい…
吸い込まれるように女の腕の中に…女に抱きしめられる…背中に回された女の両腕がしっとりとして気色いい…
「はぁ…」
”冷たい…でもいい…吸い付くよう…あ…手が離れない…いい…”
女の肌に触れたところはピタリと吸い付き、離れない…さすることはできるのに…離れる事ができなくなる…
彼は、抱きしめられるだけで何もできない…両手、両足で抱きしめられ陶然としている…
抱かれていると、安らかな気持ちになる…乳の匂い…視界には女の白い肌しか入ってこない…

じっとしていると…かすかに思考力がもどってきた…
「ぼ、僕は初めてなんです」
”?…アア、ナルホド…デハ忘レラレナイ初体験ヲサセテアゲル…”
「はい…あなたは…いったい…」
”クスクス…ソノウチ判ル…モットモ判ッタトキニハ…ドウデモヨクナッテイルケド…”
「?」彼には理解できない…
”サァ…”女はそっと彼を胸に誘う…
女の乳首に口付ける…甘い…吸う…乳の味…甘いものが、頭の中に染み込む…
夢中になって吸う…際限なくでてくる…
”フフ…オ乳ハオイシイ?…”
「はい、とても…染み込んでくる…頭に…」
”ソウヨ…染ミ込ムノ…頭ニ…心ニ…ソシテ変ワルノ…真ッ白ニ…”
「はい…なんだか…頭の中が…白く………」言葉が出なくなる…
”ソレデイイ…白クナレ…白クナレ…コノ先考エル必要ナドナクナル…”
「ぁぁぁぁぁぁ……」意味のある言葉が出なくなる…

女は彼を抱きしめなおす。顔と顔が向かい合う位置に来る、二人の性器が擦れあう。
思考力をなくした彼も性感は残っているらしい、切なげに喘ぐがどうしていいかわからない…
「ふはぁぁぁぁぁぁぁ…」
”ウフフ…サァ、オイデ私ノ中ニ…”

「あぁぁぁぁぁ…」
張り詰めていた亀頭が、ピンク色の女陰に触れる…女陰はムニムニ動き亀頭をくわえる…濡れた肉の蕩けるような感触に包まれる一物…
彼の男根はヒクヒク蠢く…芋虫のように動き…自分から女陰の中に入っていく…
女は動いていない…彼も女の柔らかい抱擁に捕らえられ身動きできない…二人の性器だけが勝手に動き…肉の交わりを始める…
”気持チイイデショウ…タマラナイデショウ…オ前ハモウ逃ゲラレナイ…私ノ虜…”
女が囁く…その言葉は白くなった彼の心に染み込む…そして白い女の与える快楽が心の奥底に焼き付く…
「……」うめき声も出ない…性器からの感触に体が溺れる…もはや快楽に悶える肉の人形…
女は彼をくわえ込んだまま…腰を妖しく蠢かす…人の形をしているはずなのに…人に見えない動き…白い淫靡な芋虫…

女は彼の口を吸う…また舌を絡める…彼も舌を舐め返し…吸い始めた…
もし、口の中が見えたならば、女の唾液が白く見えたはずだ…
乳だ…女は口から乳をだし…彼に飲ませていた…コクコク喉を鳴らし飲みつづける…
その間に腰は蠢き続け…彼の睾丸には甘ったるい痺れが詰まり破裂しそうだ…初体験の一物は快楽に身もだえし…うまくいく事ができない…

股間のもどかしさが、再び彼の思考を取り戻させる…しかし再現なく飲まされる乳は正常な思考を許さない…
「あ…ペニスが…詰まっている…」
”イイワ…イカセテアゲル…”女の許可が出た…
それがわかったかの様に、睾丸の痺れが竿に流れ込む…亀頭が芯から痺れだし、全体に溢れる…体の芯が呼応して心地よい痺れが背筋を走る…
全身に甘く痺れるような快感が満ち…たちまち制御できない快感の渦に溺れてしまう…
「いくぅぅぅぅぅぅ……」
恥ずかしげもなく叫び…女の中に暖かいドロッとした精が吹き出る…ドクドクドク…トクトクトクトクト…
彼は、自分の出している物が、途中で精液から、一様に白いサラリとした液体になったのに気づかなかった…彼のペニスは乳を吐き出していた…
女の乳が、睾丸を、尿道を犯す…男根が甘い痺れに包まれている…

女は満足そうだ…
”イイワヨ…モウコンナニ満チタノネ…デモマダマダ足リナイ…”
「はぁはぁ…な、何がです…」
”気ニシナイデ…マタ明日溺レマショウ…ソレマデ体ヲ休メテ…ナジマセナサイ…”
”はい……”逆らう事ができない…気が遠くなる…視界がブラックアウトしていく…

彼が気が付いたとき、椅子の前に座っていた、女が現れる前と変わっていない…
いや…パンツが濡れている…あれだ…もっとも乳臭くない…ただの男の精だ…
何か体がだるい…だるくて気持ちいい…快楽の残滓か…
「夢?…そんなはずは…ゴホッ!…」咳がでた…喉がかわいている…お腹も減っている…さっき食べたのに…
冷蔵庫を開けて麦茶を飲んで…ひどく咳き込む…
「に、苦い…」
仕方なく服を着て、飲む物を買いに行く…

近くのコンビニで、ミネラル・ウォーター、アイス・コーヒー、夜食の弁当と目に付いた雑誌を買い込み…目当ての食玩見つけ…棚全部を「大人買い」する。
レジでお金を払っていると、白い上着の色っぽい女が店に入って来た。思わず見とれる。
”さっきの夢の女より澄ましてるかな…でも、夜にサングラスはないだろう…顔がよく見えない”彼は心で文句を言う…
女が彼の買い物に目を留めた…じっと見つめる…
”全部はまずかったかな…”
恥ずかしくなってきて、お釣りを受け取り、足早にコンビニを出る。
彼は、女が彼に続いて店を出たのに気が付かなかった…

帰って来て、弁当を食べ、水を飲む…アイスコーヒーはまずくて飲めなかった…
お腹が満ちると眠くなってくる…
”そうだ…眠らなきゃ…今は…なぜ?…”
だが…女の指示を思い出す…疑問は消える…
ベッドに横になる…先ほどの情事の痕跡などないのに気が付かない…
不思議と甘い香りがする…安らかな眠り…

………………………

アパートの前にあの女がいた。
様子を伺っていたが、住人が就寝した事を確認すると去っていく。
「今夜は…でも多分明日か、明後日…見ているだけじゃ何も判らないし…でも…」


【<<】【>>】


【深き水:目次】

【小説の部屋:トップ】