悪魔と魔女とサキュバスと

第四 決戦 Feb祭前夜(6)


走る、走る、走る。 如月麻美は人気の無い講義棟の廊下を駆け抜ける。

 「これは私の仕事、私にしかできない仕事」

 麻美は呟いた。 

 ”像から男達と女達を引き剥がせば、後は像の放つ赤い光だけ。 麻美さんならそれに耐えられる……”

 「今度は役に立ってみせる」
 

 「フム……」

 エミの行動をじっと見ていたマリアは、羽の生えているサキュバスを呼び集め、なにやら小声で指示を出した。

 「何かやる気ね」

 上空からマリアを見ていたエミは、舌打ちをした。 サキュバス達が数にまかせて掛かってくるなら、もうしばらくは持ちこたえられそうなのだが。

 「上ニカマウナ! 全員デ如月サンヲ!」

 マリアの指示に従い、サキュバス全員が講義棟に向かった。

 「ちっ!」

 エミは急降下し、先頭のサキュバスの前辺りに『なありゃあ棒』を繰り出した。 すると『なありゃあ棒』目掛け、羽のあるサキュバス達が飛びついてきた。

 「武器を奪うつもり!?」

 声を止め『なありゃあ棒』を引き戻すエミ。 間一髪で『なありゃあ棒』をサキュバス達に奪われる事は回避した。

 「まずいなぁ」

 エミは降下した勢いで走るサキュバス達の前を横切った。 驚いて立ち止まった先頭のサキュバスに、続いて駆けてきたサキュバス達が追突し、

折り重なって倒れる。

 「怪我しないでね……急いでよ、麻美さん」


 麻美は第三音楽室に到達していた。

 「うわ」

 入り口の緞帳は明けられ、中から赤い光がもれ出ている。 普通の人間ならば、見ているだけで意識が朦朧としてくるだろう。

 「大丈夫かなぁ……体に紋様を描かれなきゃ効果は無い。 赤い光を目にしても、私なら正気でを保てる……はずよね」

 用意してきた手袋をして、毛糸の目だし帽を被って全身を覆い、家から持ってきたタガネとハンマを構える。

 「こうして用意を整えていると、いかにも『最後の戦い』という感じよね」

 当人は気合が入ったようだが、客観的に見ると押し込み強盗の用意をしている不審者かなにかにしか見えない。

 「さて」

 麻美は音楽室に踏み込んだ。


 「まずい……」

 サキュバス達とエミの攻防は一進一退、いやサキュバス達が講義棟に近づきつつあるので、エミから見れば追い詰められている事になる。

 「数が減らせればいいんだけど……スライムタンズはどこまで行ったのよ」


 トメテ、トメテー……

 待ッテ、待ッテー……

 『バオバブ』モードで転がっていたスライムタンズは暴走し、男子生徒を巻き込んだまま外に出ていた。 スーチャンが、放置されていたメイドンガーで

止めようとしていたが、どうやら失敗したようだ。 そして……


 「騒がしいな」

 「ですね」

 マジステール大学近くに、一台のパトカーが停止していた。 窓の向こう、マジステール大学の白い塀の向こうから声が響いてきている。 

上を見れば黒い影が飛んでいるのに気がついたかもしれないが、車の中にいる警官には判らない。

 「そうですね」

 応じたのはハンドルを握っている川上刑事、そして助手席には山之辺刑事が座っている。

 『酔天宮4、応答せよ。酔天宮4』

 「こちら酔天宮4」

 『……川上さん? 何でパトカーに』

 「原くんかい? 署長の指示だよ」(本当は、大河内氏を通じて署長に圧力をかけた)

 『そうですか? マジステール大学の校庭が騒がしいとの通報が』

 「近くにいる。 大丈夫、文化祭の準備らしい」

 『そうですか? あ、ちょっと……え? ロボットが暴走して道路を走り回っている? 川上さん、確認できます?』

 「……ロボット? そんなものは……」

 トメテ、トメテーェェェェェェェェ……

 待ッテ、待ッテーェェェェェェェェ……

 窓の外を『バオバブ』とメイドンガーが駆け抜けていった。

 「何だありゃ。 ロボットが丸太を転がして行ったぞ」

 メイドンガはー『バオバブ』を止めようとしているのだが、そうは見えなかったようだ。

 「昼間見た奴ですよ。 確か校庭で電線を掘り返した奴」

 「あれか……追うぞ! 署に連絡を入れろ!」

 「山さん!?」

 「昼間の騒ぎでおかしくなったんだろう。 さすがにあれはまずい。 ついでに、あっちに注意を集めて校庭の騒ぎから注意をそらす」

 「なるほど」

 パトカーがランプを灯し、メイドンガーを追いかけだした。


 「サイレン!?」

 上空のエミは、赤い回転灯に気がついた。

 「その前のは……スライムタンズ? 何をやって……あっ!」

 注意がそれている間に、サキュバス達が講義棟を目指して走り出していた。 慌てて『なありゃあ棒』で牽制する。

 「もうもたない! 早く」


 ”娘、汝は何を求める”

 「うそ……」

 麻美は呆然としていた、『赤い悪魔の像』が話しかけてきたのだ。

 ”我に助力せよ、さすれば力を分け与えようぞ”

 「あなた……生きているの?」 

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