悪魔と魔女とサキュバスと

第四 決戦 Feb祭前夜(4)


 ユ・ナーイト!!

 赤色の『スライムタンズ』リーダの号令のもと、緑色のスライム娘が竹ざおを持って集まった。 その竹ざおを垂直に立てると、それを骨組みとして

人間タワーならぬ『スライム娘』タワーを形成する。

 『?』

 前進してきた男子生徒たちは、『スライムタンズ』の意図を測りかね、歩みを止めた。 その目の前で『スライム娘』タワーは一つの塊になり、次いで

ボッテリと太った奇妙な形の樹木に姿を変えた。 太い幹を太い根っこが支えているのだが、木の梢にあたる部分にも根っこのように太い枝が生えている。 

 カンセイー!! バオバブー!!

 幹のど真ん中に『スライムタンズ』リーダの顔が覗いていて、それを中心にして木の上下が相似形になっている。 


 「あのー、バオバブって何?」 麻美が尋ねた。

 「アフリカに生えている木よ。 まぁ似てないことも無いけど……なにをするつもりなの?」 エミが麻美に答える形で呟いた。


 バオバブに化けた『スライムタンズ』は、太い根を動かして前進しようとしたる。

 フンヌ!……アレー?

 ズシーン!

 バランスを崩した『バオバブ』は見事に横倒しになった。 太い根っこと枝が幹を水平に支える格好になり、今度はダンベルの様に見える。

 アハハハ!

 サキュバス達と男子生徒達が『バオバブ』を指差して笑い転げている。


 「あちゃー……え?」

 エミは耳元に手を当て、何かを聴いているようだ。

 「計算どおり?……あーなるほど……え……なんで……お約束?……」

 麻美はエミに尋ねる。

 「『スライムタンズ』はエミさんと繋がっているんでしょ。 何か言って来たの?」

 「まぁね」 答えたエミは、右手のモップを毛のあるほうを上に持ち替え、天に向かって突き上げる。

 「機械獣ダムダムL2! 行けい!」


 ゴー!!

 『バオバブ』は根と枝をわしゃわしゃ動かし、猛然と転がりだした。 その先には笑い転げる男子生徒たち。

 『どわわわ!!』

 精も魂の抜かれ切った男子生徒達だったが、猛然と転がってくる『バオバブ』に肝をつぶし、全速力で逃げ出した。

 「アワテルナ。 左右ニ散レ!」

 大河内マリアの指示で、サキュバス達は難なく『バオバブ』を避けたが、頭が多少アレになっている男子生徒たちは、律儀に『バオバブ』の前を

走り続ける。

 『わわわわわわ!!』

 砂煙を上げ、男子生徒たちと『バオバブ』は闇の向こうに消えてしまった。 


 「いっちゃった……」 麻美が呟く。

 「『スライムタンズ』! そっちはもういいから戻って……あらららら」

 エミがよろめき、麻美が慌てて支える。

 「ど、どうしたの?」

 「目……目が回ってる」

 
 その頃、リヤカーにミスティを乗せたスーチャンはマジステール大学の正門から構内に入ろうとしていた。

 ターポー♪ ターポー♪ ターポー?

 二人の目の前を男子生徒ご一行様と、『バオバブ』が横切る。

 「ア、おねーちゃんずダ。 ドコイクノー?」

 ト、トメテー!!

 スーチャンとリヤカーのミスティが目を見合わせた。

 「エート……」

 「行って、スーチャン」 ミスティは頭に氷嚢をのせながら行った。 「後はまかせなさい」

 「ハイ。 すーちゃん、イッキマース」

 スーチャンはリヤカーの引き手を離すと、その下をくぐって『スライムタンズ』の後を追う。

 ミスティは、引き手が跳ね上がったリヤカーから転がり落ちたが、氷嚢を拾って頭にのせ直し、自分でリヤカーを引っ張っていく。

 ゼー ゼー ゼー

 風邪はまだ直っていない。


 「さて、取り巻きがずいぶん減ったようね。 怪我をしないうちに道を明けなさい」

 エミがモップを構え、大河内マリアを威嚇する。 プロポーションの良いエミなので、モップでもかなりの迫力がある。

 「フフフ。 ソチラノ方ガ、数ガ減ッタンデハナクテ?」

 マリアの周りには30名近くのサキュバス達が丸々残っているが、エミの後ろには麻美がぽつんと立っているだけだ。 マリアの言うとおり、数から

言えば不利になったのはエミの方だろう。

 「応援に悪魔を召喚したわ。 直に現れるわよ」

 「マァ。 ソレハゼヒオ会イシタイワ」 マリアは信用していないようだ。

 「それに、その数ならば私一人で……」 エミはモップの先をマリアに向け、叫んだ。

 なぁーりゃあー!!!

 声に反応し、モップがマリアめがけて伸びた!

 ハッ!?

 マリアは横っ飛びにモップを避ける。

 「ちっ」 エミは舌打ちした。 その間に、モップが元の長さに戻っていた。

 「声が出ている間しか伸びないのよね」

 エミは再びモップを構える。

 なぁーりゃぁー!!!

 モップが伸びた……がなぜか途中からで右に曲がり、弾みでエミがよろめく。

 「半音ずれたか……」


 ”モップをまっすぐ伸ばすには、音程を正しく保ち、声をだし続けなければなりません”

 ”音程がずれるとどうなるの?”

 ”モップの伸びる方向が変わります。 上手に使えば威力が増しますが、かなりの訓練が必要です。 無理をせず、まっすぐ相手を突くことを心がける

べきでしょう”


 「音程を保って大声を出し続けるなんて……想像以上に難しいわ」

 エミを睨みつけていたサキュバス達、その三人がエミ目掛けて走り出した。

 なぁーりゃあー!  なぁーりゃあー!  なぁーりゃあー! 

 引き付けておいて、すばやく三回叫ぶ。 モップの先が彼女達の足を払って転倒させる。

 ゴホッゴホッ!

 エミが咳き込んだ。

 「エミさん!?」

 「これは……まずいかも」

 「そんな……あっ!?誰か来た」

 エミは顔をあげた、校庭の向こうから白煙を上げる何かがやって来る。

 つられとマリア達もそちらを見る。


 ガラガラガラ……ドライアイスの白煙をたなびかせ、ミスティのリヤカーがエミの所に駆け寄ってきた。

 「電脳小悪魔ミスティ! 召喚に応じて推参! ハーックション!!!」

 最後のくしゃみはエミの顔目掛けて飛んできたが、彼女はすばやい身のこなしでそれを避けた。

 「あー……どう、応援が来たわよ」

 覚悟を決め、開き直るエミに対してマリアは。

 「楽シイ人達ネ……退屈シナイワ」

 
 その頃、スーチャンと『スライムタンズ』は。

 メイドンガー!!

 ワワワ……

 体育館の裏に置かれていた『メイドンガー』を見つけたスーチャンが、それを使って『スライムタンズ』の暴走を止めていた。

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