悪魔と魔女とサキュバスと

第四 決戦 Feb祭前夜(3)


 タンタカターン!! タタタタータタッタ タタタター!

 軽快な着メロを鳴らすピンク色の携帯電話。 その携帯電話を取り上げ、フックボタンを押す緑色の小さな手。

 「ハイハイ、ドーチラ様デスカー」

 『あー、スーチャンね? こちらエミ。 ミスティを呼んで」

 スーチャンは携帯を手に布団で寝ているミスティに駆け寄る。 ミスティは携帯を受け取ると、しわがれた声で応答する。

 「我が眠りを覚ますものはだれぞー」

 『あー寝てたの。 じゃそのままでいいわ』

 電話が切られそうなのを察し、ミスティが慌てる。

 「わー! 待って待って! 起きて……ゴホッ!ゴホッゴホッ!」

 『大丈夫かしら……ミレーヌが、貴方を『召喚』しとかないと、後でいじけると言ったから電話したんだけど?』

 「では召喚の呪文を」

 『急ぐんですけど』 

 「若い者はせっかちでいけない」

 『あんた幾つなのよ……えーと……エロイムエッサイム、我急ぎ求め訴えたり、悪魔ミスティよ来たれ!……これでどう?』

 「貴方の召喚は受理されました。 では召喚者は召喚した悪魔を責任持って迎えに……」

 『目的地はマジステール大学の第三音楽室! ターゲットは赤い悪魔の像! 目的は像の破壊! 即時実行!以上!」

 電話が切れた。

 「短気なんだから、エーミちゃんは……うふっ♪ ゴホッ」

 ミスティは布団からごそごそと這い出すと、雪だるま柄の半纏を着た。 その頭に、スーチャンがでかい氷嚢を乗せる。

 「スーチャン、出……ゴホゴホッ!」

 「ハイハイ、ワカッテマス」

 スーチャンはかいがいしくエミの身支度を整える。


 「呼ぶ必要があるの?」

 電話を切ったエミに麻美が尋ねた。

 「『ザ・マミ』を相手にしたとき、あの子は奴と対等に渡り合っていたわ」 エミは手の中の携帯を見つめながら呟いた。

 「あの時ミスティがいなければ、『ザ・マミ』は逃げおおせていたかも知れない……」

 エミの呟きに麻美は沈黙で応じる。

 「先行させたスライムタンズが着く頃ね。 私たちも行きましょう」

 エミは大通りに出ると、手を上げてタクシーを止める。

 「どちらに行きます?」

 「マジステール大学、正門」

 走り出したタクシーの中で、エミは川上刑事に電話かける。

 「ヘイ、ミスター川上。 ジョーカーよ。 これから始めるから、連絡があるまでけい……貴方のお仲間を止めておいて」  

 『ああ、なんとかするが……できるだけ穏便に……』

 「努力するわ」

 携帯を切ったエミに、麻美が何か聞きたそうな顔をする。 エミは目で運転手を示して首を横に振り、シートに背を預けた。


 「さて……」

 エミはマジステール大学の正門から講義棟を見あげた。

 Feb祭は、通常言われる『文化祭』とはいろいろな点で趣が異なっている。 その一つに、開催前夜は何もしないと言うのがある。 

これは、準備を時間通りに終える事も、評価の一部となっているからだが、Feb祭に備えて体力を温存させるのが真の理由とも

言われている。 いずれにしても、Feb祭前夜のマジステール大学はほとんど無人の状態になっている。

 「いくわよ」

 黒いサテンのコートをはためかせ、エミが歩き出した。 颯爽と表現したいのだが、ミレーヌから渡された伸縮自在のモップを手に

しているので、珍妙な格好に見える。 ちなみにコートの下は、動きやすいように黒いレオタード姿なのだが、これでコートを脱ぐと殆ど

露出狂である。

 「……」

 エミに続く麻美は、マジステール大学付属高校の制服姿だが、赤いマスカレードで目元を隠している。 それに続く赤や緑の人影は

エミ直属の使い魔スライムタンズ。 

 「よく言っても仮装行列よね……」

 この仮装行列の如き一行が、正門から入り正面広場を横切って講義棟を目指す。 と、それを遮るように数十の人影が現れ、エミが

歩みを止めた。

 「出たか……」

 最前列にいるのは、幽鬼のような雰囲気の男子生徒たち。 およそ生気というものが感じられないのは、背後にいる女生徒達、いや

サキュバス達に生気、いや精気を吸われた為だろう。

 「問題は……」

 エミの視線は男子生徒達の背後にいるサキュバス達に注がれる。 夜目にも鮮やかな金色に輝く瞳、匂うような色気をたたえた体

そして口元を嘗め回す長い舌。 その数ざっと30名。

 「前列もほぼ同数。 60対13か……」

 エミは、すーっとモップを構えた。 格好が良くないが、仕方が無い。 そのエミを見て、サキュバスたちがくすくすと忍び笑いを漏らす。

 「ククク……ナンノツモリ? マァ、イイ」

 大河内マリアが手を前に振ると、男子生徒達がゆっくりと進んでくる。 それを見たエミが同じように手を振ると、背後にいたスライムタンズが

エミの前に出る。

 「スライムタンズ! ゴー!」


 その頃ミスティは。

 ターポー♪ ターポー♪ ターポー♪

 スーチャンの引くリヤカーでマジステール大学に向かいつつあった。

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