悪魔と魔女とサキュバスと

第四 決戦 Feb祭前夜(2)


 『妖品店ミレーヌ』に戻ったエミは、店主のミレーヌ、学校を早退してきた麻美、そして使い魔のスライムタンズと話をしていた。

 「……彼女達が正気に戻り、その後は?……」

 ミレーヌの問いかけに、エミは疲れた様子で首を振る。

 「そこから先は、同時に正気に戻るであろう男性陣に頑張って貰うしか……そうね、『責任とってね』と言ってにっこり笑えば……」

 「男の方が慌てるんじゃないの?」

 麻美の突っ込みに、エミが苦笑する。

 「そうかも知れないわね。 像の破壊が成功し、皆が正気に戻ればの話だけど。 では、やるべきことを整理しましょうか」

 エミは話を引き戻した。


 「最優先でやるべきは、Feb祭の初日の像の公開を止める。 その為に、今夜中に像を破壊する。 異論は?」

 麻美が手を上げた。

 「像のせいで皆が『サキュバス』になったのなら、像の破片が撒き散らされて、被害が拡大するんじゃ……いえするのではないですか?」

 エミが答える。

 「破片で効果があるのならば、大河内マリアが真っ先に像を砕いていたでしょうし、そもそも像の作成者が『悪魔の像』なんて手のかかる形に

していないと思うわ。 それにマリアは、像の破壊を二度も阻止しているわ。 状況証拠から考えて、像の破壊は『サキュバス』化を阻止する有効な

手段と考えられます」

 ミレーヌが頷き、いつもの口調で像の破壊手段を問う。 何しろ像は、厳重に防備されているのだ。

 「……『サキュバス』化した女達、その奴隷となった男達、そして像の放つ『赤い光』……簡単には……」

 エミは腕組みして答える。

 「男達は、魂を抜かれてるような状態よね。 スライムタンズ・リーダー!」

 ミュッ!

 緑色のスライムタンズの中から、赤い色の半透明の女体が進み出る。

 「貴方達は、男達を排除して。 方法は……まかせるわ」

 ミャッ!? ミューミュー!!

 「何? 仕事の丸投げ? 管理職ならもっと具体的な指示をだせ? リーダーでしょ、そのくらい考えて……」

 ミャーミャー!

 しばらく不毛な言い合いの後、スライムタンズに男性陣を排除する方法を一任する。 そのかわり、多少のけが人が出ても責任は問わないという

ことで話がついた。

 ミーミャー ミーミー

 「んー?この間のクリスマス・ツリーがムチと機関砲のタイプだから、今度は黒くて運動性の高いやつかって? 何のネタを仕込んでるのよ」

 
 「……それで?……」 ミレーヌが先を促す。

 「女の子達は、『サキュバス』化の進行度合いに開きが出ているらしいの。 何人かは翼が生えたと聞いているわ」

 「翼!? 飛べるの?」

 エミは首を横にふり「判らない」と答えた。

 「空が飛べなければ、飛べる私の方が断然有利。 女の子達全員が相手でも足止めぐらいはできたはず……でも、飛べる子が何人かいれば、経験の

差はあっても多勢に無勢、こちらが不利……」

 「……では、貴方が女達を引き付け、その隙に麻美さんが像を破壊する。 そのように考えていたのですか?……」

 ミレーヌの問いにエミが首を縦に振る。

 「像から男達と女達を引き剥がせば、後は像の放つ赤い光だけ。 麻美さんならそれに耐えられる事が立証されているわ」

 「ちょ、ちょっと。 前に言ったと思うけど、私の魔女の力も、像の光の糸で使えなくなったのよ」

 「でも、正気は保っていたでしょう? ならば、後は金槌かハンマーで一撃、いっそつるはしで……」

 慌てる麻美の横で、ミレーヌが何か考えていた。

 「……リスクはありますが、我々の手で事態を収束させるには、それしか無いでしょう……」

 エミが頷いた。

 「今なら、まだ奇妙な事件としてうやむうのに出来るわ。 でも、被害者が大学外に拡大すれば、止められなくなるか、悲惨な結末を迎えるかの何れかね」

 「悲惨な結末って……」

 「被害者の何人か、何十人かは、化け物として葬られる、そういう事よ」

 エミの物言いに麻美は絶句する。


 カタリ……

 ミレーヌが、カウンターの上に箱と棒のようなものを置いた。

 「これは?」

 「……これは、ミスティが作った……」

 エミと麻美は続きを聞かず飛び下がり、物陰に隠れた。

 「……掃除道具です……」

 ミレーヌが棒を持ち上げる。 片側に雑巾のついたそれは『モップ』にしか見えなかった。

 「ただの掃除道具なの?」 おそるおそるといった様子で顔を出したエミが尋ねた。

 「……察しがいいですね。 このモップは、手にしている者の声に反応し、伸びたり曲がったりするのだそうです……」

 「孫悟空の如意棒みたいね」 感心したように麻美が言った。 「名前があるの? 『伸び縮みモップ』とか」

 「……これは……」 ミレーヌが一息入れた。

 「……『なぁーりゃあー棒』と言います……」

 エミと麻美は顔を見合わせ、揃ってため息をついた。

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