悪魔と魔女とサキュバスと

第三 魔女のタンサク(9)


麻美がマリア達と対峙した日の夕方、警察の仕事を終えた山之辺刑事と川上刑事がマジステール大学を訪れた。 

 二人は、終業間近の事務課に飛び込み、手じかの事務員に音楽室の場所を尋ねる。

 「音楽室ですか? 当大学には音楽室が三箇所、それとホールがありますが」 女性事務員は、迷惑そうに応じた。

 「複数あるのは知っていたが、同じ場所じゃないのか?」

 事務員から音楽室の場所を教えてもらい、二人は音楽室を一つずつ回ることにした。

 「山さん、伝票だと『第三』になっていますが」

 「倉庫の場所を誤魔かした件がある。 まぁ、何回も『間違える』と運送会社が怪しむだろうが」

 二人が第三音楽室にたどり着いたのは、それから20分後だった。 


 「……」

 緞帳で閉ざされた音楽室入口、その向こうからかすかなあえぎ声が聞こえる。

 「人がいる……」

 この時点で二人には複数の『被害者』がいる事を知らず、従って中にいるのは大河内マリアと『誰か』だと思い

込んでいた。

 「山さん」

 「マリア嬢ちゃんと相手は? あの秘書はまだ入院中のはずだが……」

 「別の……」

 「言うな」

 山之辺刑事の顔が苦渋に歪む。 彼はマリアをよく知っており、それ故に彼女が『乱れた男女関係』に陥る事を

容認できなかっった。

 「出直しますか? マリアさんが帰るのを待って……」

 「それでチャンスを逃した。 いまなら間違いなく『像』はここにある」

 山之辺刑事は懐に手を入れ、拳銃……ではなくハンマーと鏨を取り出した。 業務完了後なので拳銃は署において

あるのだ。

 「なんだか有名な吸血鬼退治のようですね」 川上刑事が苦笑する。

 「傍からみりゃ噴飯ものだろうな」 山之辺刑事が応じたが、こちらは目が笑っていない。 「いくぞ」

  
 緞帳を突き破らんばかりの勢いで両刑事が中に飛び込み、そして二人の想像を超えた光景に立ち尽くした。 

複数の男女が絡み合う光景など、現実にお目にかかることはまずないからだ。

 「ちっ」

 瞬き一つ分の後、二人は『像』に突進する、鏨を構えて。 だが淫らな儀式に耽っていた筈の女性徒達が、男を

突き放して二人に襲い掛かる。  

 「やめんかい!」

 「どけ、怪我をするぞ!」

 川上刑事は襲い掛かる女性徒の腕を捕らえ、手加減しつつ投げ飛ばそうとする。 しかし若い女性とは思えない

力で抵抗され、反対に引き倒されそうになる。

 「山さん『像』を! 俺が女の子を」

 「役得だな、川の字!」

 軽口を投げあいながら、二人は協力して『像』を壊そうと奮闘する。 多勢に無勢で川上刑事が圧倒的に不利だが

女性達は統制が取れていない。 川上刑事は女性とたちを次々に払い投げ、一度に一人を相手にするように心がけて

時間を稼ぎ、その間に山之辺刑事が『像』に肉薄し、ハンマーを振り上げた。

 「食らいやがれ!」

 ハンマーが『像』に届く寸前、赤い光が室内を満たす。

 『!』

 二人の刑事は意識を失う。


 冷たい手が体を撫で、濡れた何かが体を犯す。

 「くっ」

 川上刑事が目を明けると、古びた天井が視界に入り、視界の隅で蠢くモノがいる。 重い頭を床から引き剥がし、

体の上の『モノ』が想像通りであることを確かめた。

 「き、君達やめるんだ……」

 川上刑事の上にいた半裸の女性徒たちが、いっせいにこちらを向き、不気味に光る金色の瞳で川上刑事を見た。

 「!」

 その瞳には感情らしきものが見えず、女性徒たちは仮面のように無表情だった。 女性徒達は、少しの間だけ川上

刑事を見ていたが、やがて興味をなくしたように視線を外し『作業』を再会する。

 「うっ」

 若い女の手が川上刑事の体を撫で、彼女達の神秘が川上刑事の体に擦り付けられる。 そこは濡れてはいるが

温もりが感じられない。 それでいて、やけに後を引く感触なのだ。

 ヌリュ……ヌリュ……

 「くそ……」

 次第に、次第に、体から力が抜けていく。 いや力が吸われているような気がする。 そして力が抜けた分、彼女達の

感触がはっきり感じられるようになっていく。 その感触は皮膚に染み込み、体を犯していくような気がする。

 (まずい……)

 川上刑事はあせりを感じた。 このままだと危険なことになる。 確たる根拠はないが、彼はそう思った。 

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