悪魔と魔女とサキュバスと

第三 魔女のタンサク(7)


 川上刑事は朝早くから運送業者の事務所を訪れ、受付係を閉口させていた。

「山さん? 川上です……すみません、署に行く前に寄らないといけない所があって……ええ、例の件で。 はい、まだ何も……」

 川上刑事はしばらく携帯電話で山野辺刑事と話をし、電話を切った。 そして、背後の受付カウンタに向き直る。

 「すまないね、それでどうですか?」

 「やはり、ご指定の倉庫からの搬出記録はありませんね」

 「そうですか」

 「あの辺りは貸し倉庫が多いので、うちの人間も結構行きますが。 ああ、隣の倉庫から似たようなものを運び出した記録は……」

 「隣の倉庫!? ちょ、ちょっとすいません、それを詳しく!」

 「どういうことって、えーと、記録ではご指定の倉庫の隣から、梱包された壊れ物の大きな美術品の搬送を……」

 「おい、伝票は間違いないのか!?」 川上刑事は食いつかんばかりの勢いで、受付係に尋ねる。

 「例えばだ、引き取りに行った作業者に『倉庫の番地を間違えました、隣から運び出して下さい』と言われたらどうする?」

 受付係は考え込んだ。

 「依頼主と確認できれば、引き取ってくるでしょうね。 隣の倉庫なら……伝票は訂正しないかも」

 「それだ! 搬送先は?」

 「……マジステール大学です」


 川上刑事は、喫茶店にいる山之辺刑事に連絡を取った。

 「なにマジステール大学の音楽室だと? 日時は? 『像』が運ばれた5時間後?」

 『そうです。 もっとも、中身が確認できていないので、これが当たりかどうか……』

 「……そこは賭けだな。 判った、署で会おう」

 山之辺刑事は携帯を切った。

 「大学に? 確かなの?」 エミが難しい顔で確認する。

 「符号が合いすぎる。 多分これだ」

 「夜に動きがないはずね。 まさか学校に持ち込んでいるなんて」

 「全くだ、協力に感謝する」

 礼を言う山之辺刑事に、エミは確認する。

 「像の場所がわかった以上、私はお役ごめんなの?」

 山之辺刑事は頷いた。

 「ああ、世話になったがここから先は俺たちの仕事だ。 『像』を壊す」

 「どうやって?」

 「大学に行って、俺か川上がマリア嬢ちゃんを足止めし、その間にもう一人が像を壊す。 大きな像だから搬送先からは動かせまい」

 「判ったわ、とりあえず『像』が壊れるまでは協力するわ」

 「……そうだな。 誰か仲間が学校を見張っているのか?」

 エミは答えなかった。


 同日の昼過ぎ、マジステール大学付属高校。 Feb祭が間近に迫ったため、今日は高校の授業も午前中で終わりだった。 如月麻美は、はやる心を抑えつつ

大河内マリアの後をつけた。 しかし悲しいかな、彼女は尾行の素人だった。(普通の高校生はみなそうだが)

 「如月さん、私に御用かしら」

 麻美が角を曲がると、大河内マリアが目の前に立っていた。 あわてふためく麻美に、マリアの笑顔が怖い。

 「あ、あのその」

 「用事があるの。 お話があるのなら、一緒に来てくださる?」

 言葉は要請でも口調は命令だった。 大河内マリアは有無を言わさず、麻美を伴って大学部第三音楽室に向かう。


 「あの?……」

 入り口に下げられた緞帳で、第三音楽室の室内は見通せない。 しかし、中から伝わってくる雰囲気に、麻美は剣呑なものを感じて足を止めた。

 「Feb祭の準備中なのよ、どうぞ」

 ためらう麻美を、マリアは強引に連れ込む。


 生徒会副会長の美咲をはじめ、数人の女生徒が中にいた。 しかし様子がおかしい。 一人の女生徒が羽交い絞めにされ、その前に美咲が跪いている。

 「い、いや」

 羽交い絞めにされている女生徒が弱々しく首を振る。 その前に跪いた美咲は、こともあろうにそのスカートをめくって、ショーツを下ろして女性の神秘を露にした。

 「やめて……」

 懇願する女生徒を美咲が見上げる。

 「怖がらないで……スグ、イイ気持チニナルカラ……」

 美咲が女生徒の神秘に口づけし、そのまま口で包み込むように咥える。

 「ひっ!?」

 女生徒の体に異様な感覚が走った。 甘い痺れが稲妻のように背筋を駆け上り、脳天を打つ。 反射的に体が動き、腰がくねる。

 ホーラ……感ジダシタ……

 背後から彼女を抱きすくめている誰かが囁いた。 その囁きの言うとおりなのだろうか、足の付け根がジンジンと鳴っているようだ。 そして、ヌルリとした

感触が太ももに這う。

 「いや……あ」

 ジンジン鳴っている所に、ねっとりとした温もりが張り付き、ゆっくりと動きだした。 痒いところを摩られているような感触に、彼女の動きが止まる。

 ヌル……ヌル……

 大きなナメクジが這うような感触は嫌悪感を生みそうなものだが、今はそれが妙に心地よい。 そしてジンジンした感じが、ジワリと広がる。

 奥ヲ……足ヲ……開キナサイ……

 囁きが遠くから聞こえてくるようだ。 女生徒は言われるままに、足を少し開く。

 ヌル……ヌリュ……ヌリュ……

 「あ……入って……」

 ナメクジの様なモノは、優しく、執拗に、彼女の神秘に分け入って来た。 それに摩られるのは、ひどく心地よい。 そして奥を摩られるほどいい気分になるのに

彼女は気がついた。

 「もっと……奥に……」

 言葉に出すと体が反応した。 体の心がフワリと熱くなり、それがトロリトロリと流れ出す。 熱い愛の蜜が芯から滴り落ち、『ナメクジ』を誘う。

 「来て……あぁぁ……」

 ヌロリ……ヌロリ……

 『ナメクジ』は前後にうねりながら、蜜の流れを遡って来る。 それは、じき頂点に達するに違いない。 頂点?

 「なに?……でも……きて……」

 かすれた声で、女生徒は求めた。 求めに応じて『ナメクジ』が禁断の地に滑り込むんでペタリと吸い付き、続いて甘い愛撫でそこを這い回る。

 「ああぁーん……あん……うふん……」

 甘く重い痺れが、下半身にじわりと染み込んで来た。 それは後から後からやってきて、彼女の体に染みて行く。

 「気持ちいい……」

 うっとりとつぶやく女生徒に、誰かが囁く。

 イイ気持チダロウ……さきゅばすノ舌ニ舐メラレルノハ……

 「サキュバス?……あふ……いい気持ち……」

 オ前モ……さきゅばすニナルノダ……ソシテ……

 「私……私……はぁい……うふ……いい……いイ……イヒ……」

 オ前ノ……彼氏ヲ……

 女生徒は薄目を開ける。 闇の中に、一人の男子生徒が浮かび上がる。 彼女の彼だ。

 「おい……」

 男子生徒も彼女同様、誰かに羽交い絞めにされていた。 混乱と驚愕のない交ぜになった表情が張り付いている。

 「ウフ……ネェ……」

 女生徒は、彼に色目を使う。 彼女の想いが目から金色の光となってあふれ、彼の目を射る。

 「お……あ」

 「キテ……ソシテ……シヨウ……ネ?」

 それは、彼と彼女が望んでいることだった。 ただ、彼らの理性が、生活環境が、それを禁じていた。 その箍がはずされた。

 「ああ……」

 ふらふらと女生徒に近づく男子生徒。 彼女は、彼を情熱的に抱きしめると、唇を奪う。 周りに佇む、女生徒たちは彼らから衣服を剥ぎ取り、彼らの行為を

儀式でもあるかのように見守る。


 「尻尾が……」

 麻美はやっと気が付いた。 女生徒達のスカートの裾から尻尾がはみ出しているではないか。

 「そう、ここにいる人には皆尻尾が生えているの」

 マリアの声に、麻美は振り返る。 そこには、尻尾が、そして角が生えたマリアが金色の目で麻美を見ていた。

 「あなたにも尻尾を、そして角をはやして上げる」

 マリアの瞳が爛々と輝く。

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