悪魔と魔女とサキュバスと

第三 魔女のタンサク(3)


 麻美とエミは、講義棟を抜けて文科系クラブの部室が立ち並ぶ通称『クラブ長屋』に来た。 高校生と大学生が入り乱れ

忙しく作業しているのだが、エミがそばを通ると皆手を休め、目を丸くしてそちらを見ている。

 「注目のまとね」

 麻美が皮肉っぽく言う。 エミもさすがに変装の失敗を悟ったが、いまさら着替えるわけにも行かない。

 「用を済ませて、急いで撤退しましょう」

 
 大学部の美術部は『長屋』のほぼ中央に位置していた。 中を覗くと、一人だけ高校の制服を着ている女性がいる。

 「大河原さん」

 麻美は、部室の中で痩身の男性と話し合っていた大河内マリアに、声をかけた。 マリアは、手を軽く上げて話を切り

上げ、麻美の方を向いた。 

「如月さん? 何か御用かしら」

 「お忙しいところすみません。 えーと、この親戚の知り合いの……記者の人が」

 「有難う、如月さん。 自己紹介させて頂きます。 私、フリー・ライターをしております山田エミと申します」

 エミは麻美を遮るようにして、大河内マリアに名刺を差し出した。 麻美が、不快げに顔をしかめる。

 「ああ、取材の申し込みをされた方ですね。 お話は伺っていますが……如月さんのお知り合いだったのですか?」

 「はい、取材を申し込んだ後で、如月さんの事を思い出して、彼女に案内してもらう事にしまた。 大学には連絡しました

が、急でしたので、そちらまで連絡が行かなかったようです。 失礼しました」

 エミとマリアは、麻美をほったらかして社交儀礼を交わしている。 そして、エミは挨拶をすると麻美を連れてその場を

後にする。


 「なによ、取材の申し込みなんて一言も……」

 「貴方と私が『仲間』と思われると、後々困るからよ。 彼女がまだ『像』の支配下にあれば、警戒しているはずよ」

 「……えーと、大河内さんはじゃあエミさんの事を」

 「警察の関係者かも知れないと思ったかもね」

 「警戒させたんじゃない?」

 「大河内さんは素人よ。 『像』の所に行くとき、監視者や尾行者を警戒すれば、かえって不自然で目立つ行動を取る

ことになるわ」

 「そういうものなの?」

 「そういうことにしておいて」

 実はこの作戦は、山之辺刑事がエミに授けた策だったが、それは話さなかった。

 (さて、うまくいけば良いけど)


 −−大学部、第三音楽室−−

 「み、美咲……」

 床に横たわる小縞は、自分に跨っている美咲をうつろな目で見つめていた。 金色の光を湛えた縦長の瞳孔が、彼を

見つめ返している。

 (素敵だ……)

 金色の輝きは魔性の光。 見つめるだけで理性も思考もどこかに消え去り、欲望のままに美咲を求めてしまう。 

 グチュ……

 うぁ……

 美咲の胎内は、甘く妖しい蠢きで彼を官能の極みに捕らえて離さない。 体の隅々までに行き渡る快楽の疼きが、

彼の体を性の虜にする。

 「ダシテ……欲シイノ」

 あっ……あっ……ああーっ……

 ジュク、ジュク、ジュク……

 美咲にせがまれるまま、小縞は精の全てを、そして魂を捧げる。

 ジュク、ジュク、ジュク……

 アァ……甘イ……

 美咲は、魔性のものと化した秘所で、小縞は精を存分に味わう。 それはどんな蜜よりも甘く、彼女に力を与えてくれた。

 キンッ!

 『赤い悪魔の像』から放たれた赤い光が、二人の体に『呪紋』を描きこみ、さらなる快楽の世界に二人を導く。

 ヒィ!……イヒィ!……イヒィ!…… 

 美咲の腰から生えた蛇のような尻尾が、妖しくくねったあと、小縞の股間に滑り込んだ。 そして、尻尾は陰嚢や禁門を

責め小縞の快感を長引かせる。

 美咲ぃ……

 かすれた声を残し、小縞は失神した。 しかし、美咲の腰はまだヒクヒク震え、小縞を貪り続けていた。


 「や、やめて」

 「だーいじょうぶ……すぐ、気持ちよくなりますから……クフフッ」

 文字通り小悪魔のような笑みを浮かべ、若井真子が新聞部副部長の詠瓜文子を組み敷く。 その背後には、今日の

分を吸い尽くされた函崎隆が、失神している。

 「いったい……ひっ!?」

 『赤い悪魔の像』の輝きを浴びた文子は、体の自由が利かなくなった。 身動きできなくなった文子の服を、真子は

器用に脱がせていく。

 「や、やめて」

 瑞々しい白い肌に、毒々しい赤い『呪紋』が踊る。 真子は其れを見届けると、さそりの様に自分の尻尾を文子の

秘所に滑り込ませた。

 「ひっ!」

 嫌悪感に、文子の全身が粟立った。 しかし、魔性の蜜に濡れた真子の尻尾が、彼女の魂を蝕んでいく。 

 「いやっ……いや……い……」

 文子の瞳にドロンとした霞がかかり、口がしまり無く開く。 すかさず真子は文子の唇を奪い、舌を絡める。

 クチュ、クチュ……

 濡れた響きが、肉の疼きが、文子にとって全てが心地よく変わっていく。 心の防壁が解けていき、無垢の魂が悪魔の

サキュバスの前にさらけ出されてしまう。 真子は、頃合を見計らって口を離した。

 「クフフッ……オ姉サマ……イカガ?」

 「……ふわふして……いい気持ち……」

 彼女がそう呟くと、体の『呪紋』が強く輝いた。

 「あん……」

 全身を貫く甘い疼きに、文子は身を任せた。 

 「いい……いい……イイ……イイワァ……」

 文子の瞳に金色の輝きが宿り、瞳孔が縦長に伸びていく。 恍惚となったその表情に、魔性の影が宿っていく。

 「アン……モット……」

 「オ姉サマァ……後ハ……自分ノ男デ……」

 真子の言葉が、文子の心に刻み付けられる。 真子が文子から離れると、文子はタオルで全身を拭き、散らばった

服を集めて着ると。 宙を歩くような足取りで『第三音楽室』を後にした。

 「サテ……今日ノ、ノルマハ、後二人」

 真子は呟く。 その背後では、美咲が文学部の女部長を押し倒していた。

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