悪魔と魔女とサキュバスと

第三章 魔女のタンサク(1)


 大河内マリアが、仲間を増やし始めたその同じ日、『妖品店ミレーヌ』でエミと如月麻美が会っていた。 

エミは、麻美に大河内マリアの身の上に起こったことを話し、その上で彼女と同じ高校に通う麻美に、

学内での監視を依頼するつもりだったが……

 「大河内さんが?……わかったわ。 彼女の行動を見張ればいいのね」

 張り切る麻美と対照的に、エミの表情が曇っていく。

 「……いえ、麻美さん。 明日私がマジステール校に行くから、貴方は、私が大河内マリアの顔を確認する

のを手伝って」

 その言葉に、麻美の顔が険しくなる。

 「何故? 私の助けは必要ないって? 私は頼りないって? あの悪魔っ子より!」

 エミは腕組みをし、額に手を当てて黙り込む。 少し間を置き、麻美に語りかける。

 「貴方が積極的なのは何故?」

 「何故って、決まっているでしょ! 生徒会長が悪魔に魅入られたのよ! 彼女を助けないと大変な事に、

其れに悪魔の像だって探さないと!」

 「そうね。 でもそれは大河内マリアや、警察の問題、貴方の問題ではないのよ」

 「そんなことは判っているわよ! でも私は力になりたいの!」

 「そう、それは立派な心がけだわ。 で、どうやって彼女の力になるの?」

 「悪魔の像を見つけ出して、壊せばいいんじゃないの? で、その間は、大河内さんがおかしなことを

しないように、私たちが見張ればいいのよ」

 「像が見つからなかったら? 大河内さんを見張り続けるの?」

 「あげあしを取らないでよ、やってみなければわからない事じゃない」

 エミはため息をつき、感情を押し殺した声で麻美に話しかける。

 「それでは、貴方に仕事は頼めないわ」

 「何よ! どういう事!」

 声を張り上げかける麻美を制し、エミは麻美を諭す。

 「聞いて、刑事さん達が、私にこの話を持ってきたのは何故だと思う?」

 「何故って……大河内さんに角が生えたなんて、どうしようもなかったからじゃない」

 「そう、彼らは自分たちに解決できない事をわきまえ、そして最善と思う手段を取ったの、自分たちの責任で」

 「責任ぐらい知っているわ」

 「そう? 刑事さん達は、もう仕事としてはこの件には関われない。 でも、出来る範囲で仕事を続けよう

としている。 自分たちの生活が危うくなるリスクをおかして」

 「生活?」

 「刑事さん達が暇を持て余している訳ではないわ。 この件の調査に時間を割けば、その分本来の仕事に

支障がでる。 悪くすれば減給や停職もありうる」

 「減給……」

 「貴方は凄い意気込みだけど、そのぐらいの覚悟があるの? といっても学生の貴方では、精々、授業を放棄し

睡眠時間を削って解決に協力する程度でしょうけど」

 「それは……」

 「第一、悪魔の像を破壊したとしても、大河内マリアさんが元に戻るとは限らないわ。 そうなった時、貴方は

どうするつもりなの」

 麻美は唇をかみしめ、エミは表情を変えずに麻美の顔を見ている。


 「……じゃあ、エミさん。 貴方はどうするの」

 「事態が悪化するのは避けたいわ。 変貌した大河内マリアさんは、『芸風』が私と似ている。 角と尻尾が

生えて、男から精気を吸い取る女が大量に現れれば……私はこの辺りには居られなくなる」

 「まさか、この町から居なくなるの?」

 「それは嫌なの、私も。 だから刑事さん達に側面から協力して悪魔の像を見つけ出し、早期解決を図るのが

私の方針」

 「早期解決?」

 「悪魔の像が鍵なのは確かよ。 壊すか埋めるかするのがベストね」

 「ちょっと、待って。 さっき貴方は『大河内マリアさんが元に戻るとは限らない』って……」

 「そうよ。 私は『大河内マリアさん』が元に戻らなくても構わないと思っているの」

 「そんな!」

 「角と尻尾が生えたのが『大河内マリアさん』一人だけなら……事件をもみ消せる。 幸い彼女の父親は、

その方向で動いているようだし」

 麻美は信じられないものを見るような目で、エミを見ていた。

 「私、貴方のことを誤解していたみたい」 硬い声で言った。

 「それはどうも」 エミは気のない返事をした。 「でもね、放置すれば『大河内マリア』が増えていくかも

しれないわ。 彼女を心配するあまり、犠牲者が増えたら?」

 「そ……それは」

 口ごもる麻美を無表情に見やるエミ。

 「どのみち、私や貴方が責任を感じるような問題じゃない。 でも考えなしに行動すれば、犠牲者を増やすか

自分に火の粉が降りかかる可能性もあるわ。 物事に当たるときは良く考えて、いいわね」

 「はい……」

 うなだれた麻美に、エミは口調を和らげる。

 「判ってもらえればいいの。 いい? 『大河内マリア』が、まだ悪魔の像の支配下にあるとすれば、彼女を

監視することは大きな危険を伴うの。 ばれれば、監視者自身が餌食になるのだから。 それでも監視役を

引き受けて貰える?」

 「監視役を、やらせてもらえるの!? ありがとう」

 「礼を言うのはこちらなんだけど。 明日、私がマジステール校に行くから、『大河内マリア』の所まで案内を

お願い」

 麻美は大きく頷いた。

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