悪魔と魔女とサキュバスと

第ニ章 サキュバスのゾウショク(7)


 マジステール大学、工学部機械科二年生の函崎隆は、アルバイトとして家庭教師をしていた。 生徒は

同大学付属高校二年生の若井真子。 今日は午後七時半から授業の予定だ。

 「おす、冷えてきたなぁ」 背後から友人が声をかけてきた。

 「これからFeb祭の準備か」

 「あぁ、じゃあな」

 若井真子の家は、マジステール大学のすぐ近くに位置しており、日が落ちてかなりになるのにもかかわらず

けっこう大学生や高校生が行き来していた。 もっとも、Feb祭が近いという事もあるだろうが。  

 
 数分後、隆は若井家玄関前に到着し、チャイムを押した。

 ピンポーン♪

 …………

 「?」 隆は首をかしげた。 誰も出てこない。 

 「んー、真子ちゃん、いるの?」

 言いながらドアを開けて中を覗き込むと、明かりがついていない。

 「鍵は開いてるけど……やっぱ、まずいな」

 踵を返そうとしたとき、ポケットの携帯が鳴った。 真子からだ。

 「真子ちゃん?」

 『隆兄ちゃん……下にいるんでしょ。 上がって』

 真子は沈んだ声でそれだけ言い、携帯をきった。

 隆は首を傾げつつ、若井家の玄関に上がる。


 真子は、自分の部屋のベッドに座りうつむいていた。 いつもと様子が違う。

 「どこか具合でも悪いの? おばさんもいないし、今日は……」

 真子は無言で頭に手をやり、髪をかきあげる様にした。 頭の両側に突起のような髪飾りが見える。

 「それは? その髪飾りが何か?」

 「飾りじゃないの……生えているの……」

 「?」

 理解できない様子の隆、その手を真子が掴み、自分の頭に触らせた。 隆は、なんとなく指で『髪飾り』

を探る。

 「ん……?」

 『髪飾り』は、真子の頭に固定されていた。 指で探っても動かない、それはまるで……

 「『髪かざり』のじゃないの……真子、『角』が……」 語尾が震えて聞き取れない。

 「じ、冗談はやめよう……『角』だなんて……」

 隆は笑い飛ばそうとし、やめた。 うつむいた真子の肩が震えている。

 「……悪い。 真子ちゃん、痛くない? まず医者に見せようよ」

 「やっぱり隆兄ちゃん……優しいんだ」

 真子は顔を上げ、隆をまっすぐに見た。 隆は真子の瞳孔が、猫の様に縦長になっている事に気がついた。

 「真子ちゃん!?」 

 隆は、真子の瞳が微かな金色の光を放った様に思った。 次の瞬間、体がずんと重くなる。 空気が粘り気を

ましたかのようだ。

 『オニイチャン……一緒ニ来テ……』

 真子の声に抗いがたい響きが加わり、隆は、夢の中にいるような不思議な感覚に囚われる。 


 チロリ……

 少女の下が鈴口をくすぐる。

 あっ……

 電気にも似た刺激が隆自身を走り、それを跳ね上げさせる。

 ウフ……フッ……

 真子が隆自身に息をはきかけ、震える先端に可憐な唇を合わせる。

 「真子ちゃん……駄目……駄目だよ」

 隆の口は拒絶していても、体が言うことをきかない。 隆は真子に操られるようにして、この第三音楽室に連れて

こられた。 そして今、真子は隆を『男』として扱おうとしていた。

 フフッ……

 真子は隆自身を咥え、口の中で隆を犯していた。 その舌は軽やかに隆自身に纏いつき、戯れるように感じる部分

を探っている。

 「うっ……」

 真子の舌に舐められると、隆自身は甘い疼きに包まれ、しかもそれが後を引く。 真子の口の中で、隆は、自分自身

が棍棒の様に固くしこっていくのを感じていた。

 「真子ちゃん……っ……」

 ククッ……我慢デキマイ……

 真子以外の声がした。

 男トシテ……女ニ愛ヲササゲルノニ、ナニヲタメラウ……

 「何?……」

 真子が口を離した、少し離れた机に座り足を開く。

 「あ……」

 下に何もはいていない。 可憐な花びらがテラテラした赤い光を映し、儚げに揺れている。

 キテ……

 可愛い角の生えた真子が誘っている。 猫のような瞳が隆の目を捕らえて離さない。 そして、おそらく男を知らない

真子自身が……彼を呼んでいた。

 「真子……」

 隆は誘われるまま、真子に歩み寄り、そして禁断の花びらに隆自身を触れさせた。

 ズ……リュン!……

 それが触れるや否や、真子自身は獲物を捕らえる食虫植物の様に、隆自身を吸い込んだ。

 「ひっ!」

 固くしこった隆自身が、真子のぬくもりに包まれる。 最初はじんわりと、そして次第に速度を上げ、滑る肉襞が隆

自身を愛し始めた。

 「ひあ……ひっ!」

 異様な感触に、隆は恐怖を覚える、しかし。

 タカシオニイチャン……マコノ中……マコノ中デ……キモチ良クナッテ……

 隆は、彼自身の異様な快感よりも、その真子の囁きに心が奪われるのを感じた。

 「真子……真子……真子!!」

 流されるままだった隆は、腰を動かし真子の中を愛し始めた。 最初はゆっくり、少しずつ深く……真子を愛していく。

 オニイチャン……オニイチャン……モット……すき……もっと……

 真子の声がいつもの真子に戻っていく、隆はそう感じていた。


 カッ! 赤い光が部屋を満たし、隆の体に赤い光の糸が絡みつく。

 「あぁぁぁぁぁ!?」

 隆の体を熱い快感が満たした。 次の瞬間、体が一気に冷たくなる。

 「うおっ……ぉぉ……」

 ドクリ、ドクリ、ドクリ…… 全身の力が真子に吸い取られていくようだ。 そして真子は……

 「いやっ!?……だめ……だ……ヒッ……イイ……イイッ!」

 少女の声が、再び魔性の響きを帯びていく。 ささやかだった角が、ギリギリ音を立てそうな勢いで伸びて存在感を

増し、微かだった目の光が隆の顔を照らすほどに強くなる。

 「キヒッ!……ヒァッ!」

 一声鳴いた真子の尻の辺りから、鞭のような尻尾が伸びた。 生えたばかりの尻尾は、隆の腰にしっかりと巻きつき

彼の体をぐいぐい引っ張る。

 「おっ……」

 隆はがっくりと膝を突き、真子に倒れ掛かる。 そして、たった今彼が『女』にしたばかりの真子自身に、熱い口付けを

受けることになった。


 「フヒィ……」

 真子は隆をそっと床に寝かせた。

 「少し危なかったようですけど、なんとか『尻尾付き』になれたようね」

 第三音楽室には、真子以外にマリア、美咲、さらにもう一人が居た。 三人とも『尻尾』が生えている。

 「会長……」

 真子はボーっとした表情でマリアを見つめ、マリアは部屋の中央の『赤い悪魔の像』を指し示す。 マリア以外の三人が

その像を見ると、像が赤い揺らめく光を放ち始めた。

 「……」

 それを見つめる三人、その顔に次第に妖しい影が張り付いていく。 マリアは、三人の様子を観察し、クリップボードに

なにやら書き込んでいる。


 「美咲さん。 しばらくは貴方がリーダになって『仲間』を増やして」

 「はい、会長」

 「当面、仲間にするのは、生徒会役員か各部長クラス、但し公認の相手がいる子だけ。 儀式は、休み時間、放課後を

選んで行うこと。くれぐれも授業に支障が出ないように」

 「会長? それはどういう事でしょうか?」

 マリアは微笑んで見せた。

 「男を『外食』にすれば質と量を好きに選べますが、事が露見するリスクが高まりますし、風紀も乱れます。 『お弁当』

なら、二人の仲が進んだと思わせることが出来ます」

 「なるほど」

 「そして生活態度が乱れれば、生徒指導を受けるリスクが高まります。 今は隠密に事を進める時です」

 「了解しました。 他には?」

 「私は、知り合いの警官とお父様に目をつけられ、『お弁当』を取り上げられ、監視が付きそうです。 明日以降は、

儀式に参加できませんから、あなた方の精気を分けてください」

 「了解しました」

 マリアはクリップボードを見て、さらに細かい指示を出す。

 「『尻尾』が生えるまで時間から、儀式の時間は1回辺り……」


 こうして、『赤い悪魔の像』に魅入られサキュバスと化した大河内マリアの指揮の下、『サキュバス増殖』プロジェクトが

始動した。 それは、Feb祭の二週間前の出来事だった。

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