悪魔と魔女とサキュバスと

第一章 悪魔のカイホウ(7)


 「ア……アアッ」

 マリアは『角』から手を離して静かになった。 傍から見ると、耳を済ませているようにも見える。

 「お嬢さん……」

 飯田がマリアに話しかけたが、マリアは返答の代わりに腰を揺すった。

 「うっ……」

 マリアは、外見だけでなく中も様変わりしていた。 少し体を動かしただけで、飯田の男根に肉襞が絡み

つき、うねってくる。

 「あぁ……」

 そうやってマリアを感じているだけで、意識が朦朧としてくる。 飯田は、ものを考える力が衰えつつある

のを感じていた。


 (誰……)

 マリアは、誰かの存在を感じた。

 ”娘、聞くがよい”

 『声』が聞こえた、マリアの頭の中に。 マリアは、瞬きをする。

 ”男の精を吸い尽くしてはならぬ”

 『声』が命じる。 なぜかマリアは、声に逆らう意思が生まれなかった。

 (はい)

 ”その男は、精気が回復するま待つのだ。 その間は、別の男より精を吸うのだ”

 マリアの心に、不快感が生じる。

 (それは……別の男は……いや……)

 ”では男に命じよ、日輪が一回りする間に回復せよと”

 (おおせのままに)


 「飯田さん、私の目を見て」

 マリアに呼ばれ、飯田は彼女の顔を見た。 

 「目?……」

 マリアの目が金色の光を湛えている。 飯田は彼女から目が離せなくなる。

 「飯田さん、今夜はここまで。 明日、続きをしましょう」

 「……はい」

 飯田は、半ば呆然と応えた。

 「それまでに回復……いえ、もっと精力をつけてね。 そうすれば、もっと長く楽しめるわ」

 「お嬢さん……」

 飯田は言いよどんだ、心の中に葛藤が生まれたようだ。 マリアはそれに気がつき、腰をゆっくりと動かす。

 「うっ……」

 マリアの秘所がネットリと纏わりつき、飯田の思考力を奪い去る。

 「いいわね?」

 飯田の中に、マリアの言葉が刻み込まれていく。

 「は、はい……むっ」

 応えた飯田に、マリアが口付けを交わしてきた。 甘く、妖しい感触が口の中に溢れる。

 「好きよ」

 マリアの囁きに、飯田は頷くことしか出来なかった。


 飯田が身支度を整え、図書室を出て行く。 後には『赤い悪魔の像』とマリアだけが残った。 いつの間にか

『角』が見えなくなっている。

 (娘、お前も休むが良い)

 「は……はい?」

 マリアは答えながら、自分は誰に応えているのだろうと思った。

 (明日……愛しい男との逢瀬を想像するが良い) 

 「あ……飯田さん」

 マリアの心に期待が沸き起こり、頬がピンク色に染まる。 

 (そうだ……それでいい……そして欲するままに……愛しい男を貪るがよい……) 

 「飯田さん……アハッ……」

 マリアの目に金色の光が渦を巻き、髪の間から『角』が姿をみせる。

 (そう……少しずつ……変わるのだ……)

 『赤い悪魔の像』の最後の囁きは、マリアには聞こえなかった。


 その頃、アパート『コーポコポ』にエミが来ていた。 

 「!」

 ミスティの部屋の窓やドアから、盛大に白い煙が噴出している。 エミは大慌てで中に飛び込む。

 「何よ!この白い煙は!? スーチャン」

 「アノネ、オ熱ガ高イカラ、あいすくりーむ、ヒヤスノ冷タイノ、イッパイ、イッパイ」

 「それはドライアイスよ!」

 凄まじい白煙がミスティの部屋から噴出し、消防車がやってくる騒ぎとなった。

 スーチャンとエミにとっては不幸中の幸い、白煙の規模が大きすぎ、消防署は発生源を特定できなかった。

ただ……

 「うーん……うーん……」

 過冷却状態となったミスティ、その風邪が一段と悪化した事をこに記載する。

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