悪魔と魔女とサキュバスと

第一章 悪魔のカイホウ(4)


 マリアは意識せず『赤いマリア』から後ずさり、背後にあったソファにふくらはぎをぶつけ、そこに座り込む。

 ”フッ……”

 『赤いマリア』の口元に嘲笑が浮かび、マリアは柳眉を逆立てる。

 「何がおかしいのですっ」 押し殺した声の端に、マリア怒りが透けている。

 ”フフッ……”

 『赤いマリア』はソファの背に手をつき、マリアに迫る。 マリアは身を固くして『赤いマリア』を睨みつけた。

 「怖くなんかありません」

 ”子供の言いそうなことね”

 怒りで顔を赤くするマリア。 その固く閉じた足の付け根に『赤いマリア』手を触れ、くすぐる。

 「なんです、それは?」 今度はマリアが嘲笑する。

 ”やってみたのでしょう?”

 「!」 マリアは動揺した。

 ”ひとりで、こっそり、どうなるかと……なんにも起こらなかったけど”

 「やめなさいっ」

 『赤いマリア』は、指先でマリアの神秘をなぞる、何度も。 しかし固い蕾はほころぶ気配を見せない。

 「愚かなことはやめなさい」

 マリアがやや余裕を取り戻す。 しかし『赤いマリア』の嘲笑は消えない。

 ”体は『女』。 でも心はお子様なのね”

 「侮辱なさるのですかっ」

 ”誰に触って欲しいの”

 「え……」

 ”『女』には……『男』が必要。 さぁ、誰に触ってもらいたいの?”

 『赤いマリア』の目が不気味に光る。 マリアはその光の中に、近しい男の顔を見た。

 「飯田……さん?」

 ヒクッ……

 マリアの神秘が微かに震えた。 


 「あ……何を……」

 『赤いマリア』は、マリアの神秘を優しくなぞる。 何度も、何度も。

 ”想像してごらんなさい。 飯田さんが貴方の前にひざまずいて、ここに優しい事をしてくれるのを”

 「飯田さんが? あ……」

 それは不思議な体験だった。 飯田秘書の顔を思浮かべただけで、動悸が増し、マリアの神秘が疼く。 

それが判るかのように、『赤いマリア』は疼く箇所を優しくなでている。

 「あ……」

 神秘の疼きが熱に変わっていく。 その熱は体の芯に沿って、中に中にと入り込んでくる。

 「暖かい……」

 ”ほら……貴方は『女』なのよ。 判るでしょう”

 『赤いマリア』の指に、マリアの神秘が湿り気を絡ませ、恐る恐る蕾が開いていく。

 ”ウフ、綺麗なピンク”

 『赤いマリア』指を少しずつ奥に、禁断の地へと沈めていく。

 「うっ……」

 未知の感覚に声が漏れ、心の中に不安の黒雲が湧き上がる。 しかし『赤いマリア』の指が巧みに動き、

マリアの心にピンク色の霞を送り込んでくる。

 「ふ……ぅ……」

 ピンク色の靄がマリアの中に広がり、気だるいような、熱いような、えもいわれぬ心地に彼女を誘う。 

 ”マリア……”

 「な……なぁに……」 マリアはぼんやりと答えた。

 ”どんな気分……”

 「気分……」 頭がぼうっとして答が浮かばない。 マリアは熱い息を漏らしつつ、答えを探す。

 ”気持ちいいの?……”

 「気持ちいい?……」 

 マリアは答えを見つけた。

 「気持ちいい……なんだか気持ちいいの……」 

 ”もっと……気持ち良くなりたい?……”

 「もっと……」

 マリアはぼんやりした頭で考える。 

 「もっと……気持ちよく……なりたい」

 『赤いマリア』は艶然と微笑み、開きかけた蕾に優しく口付ける。

 「あん……」

 新しい感覚に身をよじるマリア。 

 (そう……これが”よがる”ってことなのね)


 区議会議員を務める大河内氏は、邸内に資料や書類を保有しており、その整理は飯田秘書に任されていた。 

 「ふぅ」

 一息つこうと、飯田秘書はミニキッチンにコーヒーを入れにいく。

 家族以外の人間が日常的に出入りする大河内邸は、一つの建物の中に、外部の人間が使う事務所と家族が

生活する住居部分があった。 ミニキッチンは事務所の人間が使う為の物だが、水周りの関係から住居空間に

近い位置にあった。

 「おや?」

 『住居』と『事務所』の境界は、通常カーテンで仕切られているが、それが開いていた。 その向こうには、マリアの

部屋があるのだが、その扉が開いている。 飯田秘書は肩をすくめて、カーテンを閉めようとする。 その時、廊下の

先の窓から離れが見えた。 窓に明かりが付いている。

 「?」

 深夜である、離れには図書室や客間、客用寝室があるが、今は誰も居ないはずだった。 と、今度は赤い光が揺らめいた。

 「火事!?」

 飯田秘書は、119番への通報を考えた。 しかし、赤い光はすぐに消える。 短い逡巡の後、飯田秘書は離れに向かった。

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