悪魔と魔女とサキュバスと

第一章 悪魔のカイホウ(2)


 マジステール大学付属高校日本校。 マジステール大学日本校に隣接する敷地に立てられたその学校は、

放課後の賑わいを見せていた。 ほとんどの生徒達が課外活動に取り掛かり、一部の生徒は家路につく。

 「大河内さ……生徒会長」 如月麻美は、校門で生徒会長の大河内マリアを見かけ声をかけた。 「お帰りですか?」

 長身の少女が振り返り、赤いセルフレームの眼鏡越しに、戸惑いの視線をかえした。

 「……書記の如月さん? 貴方は……ああ2年生だから『フェブ祭』は手伝いだけなのね。 私は家の方でちょっと」

 『フェブ祭』とは、マジステール大学、高校が合同で行う文化祭で、卒業が近い大学4期生と高校3年生が主役であり、

2月に行われることから『フェブ祭』と呼ばれている。 この時期、学生達はその準備に忙しい。

 「そうなんですか。 私は、知り合いの方に呼ばれたんです」

 大河内マリアは微笑んで頷くと、校門の近くに止まっていた黒塗りの高級車に乗り込んだ。

 「やっぱ、お嬢様は違うのね」

 麻美は生徒会長を見送ると、踵を返して『妖品店ミレーヌ』に向かった。 この後彼女は、悪魔と使い魔のバナナの

取り合いを目撃することになる。

 
 マリアは、家に帰るとリビングに居た父親に挨拶した。

 「お父様、お帰りなさい」

 娘の声に、マリアの父、大河内伊周(これちか)が顔を上げる。

 「ああ、お帰り。 面白い物が手に入ったよ。 飯田君、あれを」

 父親の秘書を務める飯田は、鞄の中から数枚の写真を取り出し、リビング・テーブルに並べる。 マリアは毛足の長い

絨毯を踏みしめ、リビング・テーブルに歩み寄った。

 「お父様? これはどの様な由来の品ですか?」

 写真に写っていたのは、赤く透き通った素材の『赤い悪魔の像』だった。

 「うむ、古美術の堂々堂さんから手に入れたのだが、なんでも紀元前の遺跡の発掘品だったそうだ」

 「お父様……」 マリアは困った顔をする。 「そんな怪しげな品、偽物でありませんか」

 伊周は愉快そうに笑う。

 「いいじゃないか、偽物でも。 なかなか美しい像でね。 こう、人を引き付ける魅力があるのだよ。 離れの図書室に

飾ってあるから、後で見てごらん」

 「そうですの? お父様が宜しければ、私が口をだすことではありませんが」

 マリアは首を傾げつつ、リビングを後にする。


 「綺麗、なんて美しいの……」

 マリアは、図書室の中央に据えられた悪魔の像に目を見張った。 写真では判らなかったが、『赤い悪魔の像』の実物には

人を引き付ける不思議な魅力があった。

 「それほど古いものとは……?」

 マリアは顔を近づけて、像の中を覗き込むようにする。 光を透過する素材に見えるが、形が複雑な為か、中で光が

揺らめいている様にみえる。

 「光……」

 赤い光が、揺らぎ、渦を巻く。 マリアは引きずり込まれるような錯覚を覚えた。

 「!」

 思わず一歩下がる。 と、像から赤い光があふれ出し、マリアを呑み込んだ。

 「!?」

 赤く染まった光の中で、マリアは意識を失った。


 飯田秘書は、マリアを探して図書室にやってきた。 木製のドアを軽くノックするが返答はない。 首をかしげ、

扉から離れようとする。

 うーん……

 くぐもった声が図書室の中からした。 飯田はノブをまわす。 鍵はかかっていない。

 「お嬢様?」

 床にマリアが倒れていた。 飯田は駆け寄って、マリアを抱き起こす。

 「お嬢様!? どうなされました!」

 「飯田さん……なにか眩暈がして」

 マリアが目を開けた。 赤いセルフレームの眼鏡の下越しに潤んだ瞳が彼を見ている。

 「ありがとう……」

 「い、いえ。 とりあえず母屋に戻りましょう。 立てますか?」

 飯田はマリアが立ち上がるのを助け、かばう様にして図書室から出た。

 部屋から出るとき、マリアは『像』にチラリと目をやった。

 「今夜……」

 「お嬢さん?」

 「いえ、なんでもないわ」

 
 同じ頃、『妖品店ミレーヌ』の裏口。 高熱で倒れたミスティを乗せたリヤカーが、出発しようとしていた。

 「それじゃスーチャン。 ミスティをお願い」

 ガッテン、ショウチ!

 ヘルメット(パトランプ付き)を被ったスーチャンは、リヤカーの前に回りハンドルを持ち上げた。

 シュッパーツ! モクテキチー、コーポコポ!! ターポーォ! ターポーォ! ターポーォ!

 遠ざかっていくリヤカーを見送りつつ、エミが呟いた。

 「怪獣Gメン仕様のパトランプ付きヘルメット……どこから持ってきたのかしら」

 「何それ……」 

 「まぁ、スーチャンが責任持って介抱するって言うんだから、まかせるか」

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