悪魔と魔女とサキュバスと

プロローグ(1)


 後に中東と呼ばれる場所、そこは大河があり、大勢の人間の暮らしを支えていた。

 しかし、いかな大河でも支えられる人の数には限りがある。

 地を満たすほどに増え続ける人間は、やがて互いに争いはじめる。

 その頃から話が始まる。


 一人の娘が、果実の入った籠を頭に載せ、谷底を歩いていた。 若いと言うより、幼いという表現が似合う顔立ちだ。 

 この谷は、母なる河に注ぐ支流の一つが長い年月をかけ、岩の台地を抉って作り上げたものだ。

 娘は立ち止まって空を見上げ、息を吐く。 彼女の行き先は、この辺りを治めている、女呪い師の一族の長、彼女に

豊穣の祈りを求める為の献上品を運ぶ途中だった。

 セゥ……

 一つ息を吐き、歩き出す娘。 その背後から一人の男が襲いかかった。

 ヒッ!?

 サワグナ!

 男は、太い腕を首に回し、青銅のナイフを娘の首に当てた。

 サワゲバ……コレ!

 尖った刃先が、娘の首筋に食い込み、鋭い痛みが走って、血が流れる。

 ア……アァ……

 震える娘に、男は言った。

 イケ!……呪イ師ノトコ!


 男は、南からやってきて最近この辺りに住み着こうとした族の者だった。 彼等は、近隣の村に使者を送り自分達を

受け入れるよう求めた。 しかし、呪い師の長は彼らを受け入れる余地はないと言い放ち、この地を去るように告げたのだ。 

村の長たちは、呪い師の長の言に従い、南からきた部族を追い払おうとしていた。

 ナニ、スル気……

 娘の呟きに、男は答えない。 彼は娘を脅し、呪い師の住まいへ案内させた。


 彼らが呪い師の住まいに着いたのは、陽が落ちてだいぶたった頃だった。 今は青白い月明かりが辺りを照らしている。

 ココ……カ?

 そこは、谷が二つに分かれる場所だった。 目の前の岩肌に、洞穴の様にぽっかりと穴が開いている。

 イケ!

 男は娘を突き飛ばすようにして、洞窟に入った。 微かな明かりが岩肌に灯されている。 夜に明かりを灯せるのは、この

洞窟の住人が高い地位にあることを示していた。

 イケ、イケ!

 男は娘を先頭にして、奥に進む。 20歩ほど進むと、やや広い空間に出た。 その中央に何か像のようなものがあった。

 ム?

 それは、紅い透き通る素材−−彼等はそれを『玉』と呼んでいる−−から削りだされた、等身大の人像だった。 もっとも、

その背中には翼がついてたが。

 オォ……

 男は驚愕と感嘆の眼差しで像をる。 『玉』は稀少で、部族の宝として族長が小さな『玉』の腕輪を所有していた。 ところが

ここには、人の背丈ほどの像があるのだ。 

 ウーム……

 彼には物々交換程度の経済観念しか無かったが、それでもこの像に、彼らの部族が数年食べていけるだけの穀物と交換

できる価値があるぐらいの見当はついた。 唸りながら像の周りを回る。

 一方、脅されていた娘は彼の背後に立っていたが、彼女もこの像に驚愕し逃げ出すことを忘れて見入っていた。


 その時だった、像がほのかに光り始めたのは光が当たった。

 ヌ?

 男は気がついていなかったが、洞窟の天井に穴が開いており、そこから月光が差し込み像に光が当たり始めたのだ。

 オォ……

 像が放つ赤い光は、水が満ちるように洞を満たしていく。 その光景に男は畏怖を覚え、像から離れようとする。

 ウ? オッ!

 足が動かなかった。 男はバランスを崩し、前のめりに転ぶ。 顔を守る為、体をひねって背中から地面に倒れた。

 アゥチ! 

 痛みに顔をしかめつつ、起き上がろうとする……が、今度は体が思うように動かない。 赤い光のせいだと思い当たったが、

全身に光を浴びている為どうにもならない。

 ウヌ……呪イ師メ! ヌァ!?

 男は、自分が脅していた娘に目をやり、様子がおかしいのに気がついた。


 ア……

 赤い光を目にした娘は、不思議な感覚に囚われた。 体の中から沸き起こる息苦しいような、もどかしいような感覚だ。 

娘の手が動き、身に巻いていた布を払い落とす。 未成熟な体が露になり、その素肌に赤い光がまといつく。

 ハァ……

 娘はため息をついた。 素肌が赤い光に晒されると、頭の中が冷えていくような、夢を見ているような不思議な心地になる。 

娘はフラフラと歩き出し像に、いや床に倒れた男に歩み寄る。

 ム?

 男が娘の行動をいぶかしむうちに、娘は男が身にまとっていた物を全て剥ぎ取ってしまう。

 ナニヲスル! ヤメロ!

 体が動かないので抵抗できない。 素肌が赤い光に晒されると、男はもう指一本動かせなくなった。 世界はまだ人間に

とって厳しい。 体が動かなくなれば、時をおかずして死が訪れる。 男は、激しい恐怖を感じた。

 ウッ!?

 男は足の付け根に、温もりを感じ、慌ててそちらに目をやった。 なんと、娘が男の股間を撫で、あろうことか男のシンボルを

舐めようとしている。 彼の部族には、そのような行為を行う習慣はない。

 ソ、ソコヲ、喰イチギルキカ!?

 慌てる男にとり合う様子も無く、娘は男のモノを口に含み、舌を絡みつかせてきた。

 グゥ!……

 彼はソコを舐められた経験は無かった。 湿ったぬくもりの中で。軽やかに動き、巻きつく女の舌の感触は新鮮な体験だった。 

一方で、無力な娘に怯え、好きに嬲られている自分に屈辱も覚えていた。

 オレヲ、ハズカシメルノカ!……オォッ!?

 なんと、そそり立った彼のイチモツに、娘が腰を宛がおうとしていた。

 ヤメヌカ!

 彼の常識では、成人前の娘はそのような事はしない。 が、娘は彼の制止を無視し、腰を落としていく。

 ウッ、ウァッ!!

 明らかな苦痛の声を上げ、娘が悶える。 しかし、娘の体は当人の意思に反し、男のものを胎内に収めていく。

 ……

 男はあまりの事に声を失う。 娘の中を抉っていく己の分身は、手で握り締められているようだ。

 アウッ!!

 ついに娘の中に、男のモノが納まりきった。 一瞬の、静寂が訪れる。 と、それを待っていたかのように、像の赤い光が

揺らめき始めた。

 ム?

 赤い光が、細く絞られていき、行く本かの細い光の糸になった。 その赤い光の糸が、踊るように動き、娘と男の素肌を走る。

 オォ!?

 『赤い光の糸』の軌跡が、二人の肌に不可思議な文様を描きだす。 

 ズクン!!

 二人の体に、熱い快感が走る。

 ウァ!?

 ヒィ!?

 悪魔の儀式が始まろうとしていた。

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