教会[シスター]

2.囁き


馬車が止まっている。ファーザー・ケインが乗り込もうとしている。
”では、シスター、後の事は宜しく。”簡潔に行って馬車に乗り込む。
ファーザーはリズを一顧だにしなかった…彼にとってリズは単なるシスター…
馬車は去っていく…リズは一人ぼっちだ…永遠に…
涙がこぼれる…止まらない…ファーザー…

夢の中、リズはうずくまって泣いている。
”そう、ファーザーとシスターでしかないの…私たちは…”
”ソウ?…”
”そうよ…夫婦でも…恋人ですらないの…キスどころか…手を繋いだことだって…”
”ソレナラ…イマカラソウナレバ…”
ドクン…リズの心臓が大きく鼓動する。
”そんなこと…考えた事もなかった…告白…告白すれば受け入れてくれるかも…そして…約束さえあれば…”
”…ウマクイクカシラ…”
”…わからない…でも…誠意を持って…そう、きっとうまくいく…神様はそう教えてくれたもの…きっと…”

リズはファーザーに告白する。

”ファーザー”
”シスター、なんですか…”
”ファーザー、私と…その…あの…『永遠の誓い』を…”
”シスター、私は…君が好きだ…しかしそれは人間としてだ…私にも立場がある…すまない…”
”ファーザー!神は己に正直であれと…”
”シスター、これが私の正直な気持ちなんだ…本当にすまない…”

寝ているリズの両眼から涙があふれている…
夢の中でもリズは泣いていた…
”どうして…どうして…どうして…”
”ドウシテカシラ…”
”私の何が不満…いえ私なんか…ファーザーは…”
”ヤサシイカラ…”
”ファーザーはやさしいから…”
”ジブンカラハ…”
”ファーザーは自分からは…”
”ダカラ…ワタシガ…”
”だから、私が…私が…ファーザーを誘ってあげれば…でも…私なんか…”
”オンナ…”
”?…”
”ワタシハオンナ…”
”わたしは…私は女…”
”オンナハサソウ…”
”女は誘う…”
”オンナハサソウ…オトコオサソウ…オンナハサソウ…オトコオサソウ…”
「女は誘う…男を誘う…女は誘う…男を誘う…」
寝ているリズの口から、いつしか呪文のような寝言が漏れてくる…

やがて、すっとリズの目が開かれる。
その表情には、決意の色がみてとれた。
「ファーザー…私を見て…」

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