教会[シスター]

1.絶望


「夢魔の魂」の浄化の儀式の終了後、ファーザーは、シスターリズを呼んだ。
「シスター、浄化が終わりましたが、聖水がなくなってしまいました」
「はい、では次の教会への報告で、聖水の補充をお願いします」
「…ああ、それと、『私の転区の件に関して了承します』と追記しておいてください」
リズは愕然とする。
「転区…ファーザーが?…」
「ああ…シスターには話していませんでしたね、実は上級ファーザーの研修の話がありまして…」
「…そうでしたの…それでどのくらい…」
「いえ、その後のことは私にも…おそらく中央の教会で上級ファーザーの補佐につく事になると…」
「……」
「心配は要りません…すぐに新しいファーザーが派遣されてきますよ…」
ファーザーは、うつむいたシスターの泣き顔には気が付いていなかった…

シスター・リズは、ファーザー・ケインがこの教会に派遣されてきてから、淡い恋心を抱いてきた。
シスター・リズはこの村で育った、いわば現地採用の事務職であり、中央から派遣されてきたエリート候補のファーザー・ケインとは立場が違う。
ファーザーとシスターが結婚することは珍しく無い。
ただ、立場が大きく異なる者同士の結婚となるとまれである。
どちらにしても、ファーザーがこの教会を離れてしまう事は、シスター・リズにとってはファーザー・ケインとの別れになることは間違いなかった。

その夜、手紙を書き終えたリズは、暗い顔でベッドに入った…今夜の夢見は最悪であろう…
その真上の天井裏に、黒い霧がたゆたう。
ゆっくりと、シスター・リズの胸元に降り、薄く広がりながらシスターの体を包み込む。
”しすたー・りず…カナエテアゲル…アナタノ願イ…”

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