ボクは彼女

51.混沌の3P


 「何という事だ……」

 呆気にとられるランデルハウス教授と対照的に、エミはいつになく興奮していた。

 「凄い! 麗さん! 『マザー2』の体は扱える!? どんな気分!?」

 ”他人事だと思って……変な感じです、みんなの姿は『見える』んですけど……手足は……いや、どうやってしゃべっているの? 僕”

 「うむむむ……興味深い現象なのは確かだが、麗くん、異常はないかな? 頭が痛いとか、苦しいとか」

 ”とりあえず……大丈夫みたい……あれっ!”

 「なんだ、どうしたね!」

 ”何かこう……『背中』がチクッと……あ、また”

 「『背中』?……ってどこなの?」

 「ふむ……船体の『損傷』を『痛み』として感じているとしたら……ミスティ君の『攻撃』ではないかな?」

 「あ!」

 エミはスマホを取り出し、ミスティを呼び出す。

 ”エーミちゃん、まだやるの? 疲れちった……”

 「ストップストップ! もういいから!」

 ”むー……”

 「ご苦労様、後でケーキ買ってあげるから」

 ”わーい!!”

 エミはスマホを切り、上を向いて『麗』に呼びかけた。

 「どう? これで『痛み』は止まった?」

 ”うん……あー! こら、『ボク』、木間君に何してるの!”

 「え?」

 
 「うそだろ……麗」

 僕は、慌てた様子の『麗』(中身はマザー2)と、『マザー2』(中身は麗)を交互に見た。

 (えいややこしい……)

 「驚愕……混乱……なに、これは何!?」

 『麗』は自分の体をペタペタと障っていたが、だんだん泣きそうな顔に変わってきた。

 (あ、これは泣く……)

 そう思っていたら、予想通りに……

 「不安……孤独……う……うぇーん」

 顔を手で覆い、しくしくと泣き出した。

 「落ち着いて、麗……じゃなくて、『マザー2』?」

 「うえっうえっうえっ……」

 「ああ困った……大丈夫だから」

 何が大丈夫なのか、自分でも良く判らないけど、取りあえず『麗』を抱きしめ、背中を擦ってあげる。

 「うえっ……うえっ……」

 抱擁で落ち着いてきたのか、『麗』の泣き声が収まってきた。 他の人達はと顔を上げると、エミ先生はスマホでミスティさんと連絡を取り、教授が

『マザー2』と話をしている。 先生たちに話しかけようとしたら、腕の中の『麗』が身じろぎした。

 「おちついた?」

 声をかけると、潤んだ瞳の『麗』が僕を見詰めている。

 「安心……欲求……これは?……なに?」

 「え?」

 『麗』は僕の首に腕を回し、唇を求めてきた。

 「むう!?」

 「むうう……むむむ……むむむむむむ!」

 『麗』の舌が僕の口の中を舐めまわし、彼女は僕に体を預けてきた。 不意を突かれ、僕は『麗』に押し倒された。


 
 『マム』の声の調子が変わり、侵入者たちと会話を始めた。

 「『マム』?」

 呼びかけに『マム』が答えてくれない。

 「……」


 不意に『マム』が言葉を発した。

 ”うん……あー! こら、『ボク』、木間君に何してるの!”

 捕獲した男の子と、ターゲット女の子が、再び抱き合っている。 先ほどまで『マム』は、二人にこの行動を求めていただった。 今はそうでないらしい。

 「『マム』。 中止させますか?」

 ”止めて!”

 「はい『マム』」

 女の子の背中から抱き着き、男の子から引きはがそうとする。 女の子がこちらを見た。
 「妨害……拒否……やめなさい」

 「中止してください。 『マム』の指示です」

 
 「うーむ」「これは……」

 教授とエミの前で、木間と麗と『スーパー・ドローン』が絡み合い、くんずほつれずの2ラウンド目に入っていた。

 ”止めてぇ!”

 「そうしたいんだけど……えーとどうすればいいかな?」

 じたばたと、乳液まみれの3人がもがいている。 誰を止めればいいのか、エミにも良く判らなかった。

 ”ええ、もう!”

 ダランとブラがっていた触手が、息を吹き返したように蠢きはじめ、絡みついてきた……エミと教授に。

 「ちょっと『麗』さん!?」

 「わしらを捕まえてどうする!?」

 ”動かし方が、良く判んない……えーと……あやとりの要領かな?”

 うねうねと動く触手が、『ハシゴ』『朝顔』を作る。

 「器用じゃないの、その要領で、木間君と『麗』を引きはがすの!」

 ”こ、こうかな?”

 触手がおずおずという感じで、木間、麗、『スーパー・ドローン』の3人に近づき、くるくると巻き付く。

 「『マム』?」

 「麗!?」

 「動揺……混乱……きゃあっ!?」

 ”やたっ! はずれた!”

 「よーしそのまま! 捕まえてるのよ」

 エミは教授の方を見た。

 「この後どうしましょう」

 「……入れ替わった状況を再現すれば、戻れると思う」

 「なるほど!」

 「問題は、再現できるかだ」

 難しい顔でランデルハウス教授は唸った。

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