ボクは彼女

48.ベタベタな展開


 エミと舞が『マザー2』に降りた時、遊漁船はまだ『マザー2』に追いかけられていた。 2隻は、別々の方向に分かれ、『マザー2』は、戸惑ったように速度を

落としたが、すぐに片方の後を追い始めた。

 「こっちさきたぞ!」

 追いかけられた船の船頭は、舵を巧みに操って『マザー2』を交わし、もう一隻は『マザー2』の背後についた。

 「エミ先生たちだけで大丈夫ですかね?」

 太鼓腹が山之辺刑事に尋ねる。

 「大丈夫とは思えん。 応援に行きたいが……これじゃ無理だ」

 『マザー2』は20ノット程度のスピードで疾走している。 遊漁船を並走させても、飛び移るのは無理だ。

 「ヘリを呼んで、上から……無理ですね」

 映画などではよく見るシーンだが、スタントマンならいざ知らず、ただの学生や、無理な話だ。

 「止まってるならともかく、動いてるんだ。 しかも、急に向きを変える。 しくじれば海に落ちるぞ」

 その時、上空に影が差した。 上を見上げると、大きな鳥が羽を広げている。

 「おお、キキとクー! こっちだ、こっち!」

 ランデルハウス教授が手を振ると、鳥が下りてきた。

 「おわぁ」

 鳥と見えたのは、ランデルハウス教授が連れてきた、鳥人の娘達だった。 教授は、彼女達に何か話している。

 「教授!?」

 鳥人二人が教授の肩を足で掴み、空に舞い上がる。

 ”私もいくぞ……”

 
 キキとクーは、上手く速度を合わせ、『マザー2』の上に教授を下ろした。 教授は、ごつごつした表面を這うように進み、エミが飛び込んだ穴にたどり着く。

 「麗君も中に入ったのか?」

 穴の中をのぞいてみたが、下の様子が判らない。

 「よし」

 教授は穴に身を躍らせた。

 ゴチゴチゴチ、ドスン!

 「あいたたた」

 ミスティがあけた穴は、下まで真っすぐに開いていたわけではなく、教授はあちこちにぶつかり、最後に5m程落下して、床にぶつかった。 腰を押さえ

つつ、立ち上がる。

 「二人はどこだ?」

 探すまでもなかった。 すぐ近くにエミが立っていて、麗がその手を引っ張って何か言っている。 教授は二人に駆け寄った。

 「二人とも無事か?」

 「教授? エミ先生が……」

 「ど、どうした?」

 エミは壁に手を当て、その壁を凝視したまま、彫像のように立っている。

 「何があったんだ」

 「わかりません。 ボクが飛び込んだ時は、もうこの格好で……」

 泣きそうな麗の肩を叩き、教授はエミに近寄り、背中を叩いてみた。

 「……あ、教授!?」

 「おお、正気に戻ったか。 いったい……」

 「見てください教授! 本物の異星人の宇宙船なんですよこれ! 凄い、何てこと……」

 興奮して、機関銃の如くしゃべり始めたエミに、教授と麗は顔を見合わせた。

 「どうしたんでしょう? 『マザー2』が何かしたんでしょうか?」

 「いや……知的興奮によるそう状態に陥っているらしい」

 「はい?」

 教授は頭を振りつつ、エミに向き直った。

 「エミ君、得難い体験に興奮するのは判るが、今は木間君を助ないと……」

 「ああ、この感激! この体験をなんと言葉にすればよいか……」

 エミの興奮は収まりそうにない。 教授は肩をすくめ、麗の方を見た。

 「仕方がない。 先に、木間君を探す準備を整えよう。 キキとクーに通信装置を運んでもらい、あの穴から有線で外と連絡を取れるようにしよう」

 「どのくらいかかります?」

 「一時間ぐらいかな」

 「そんなに待てません! ボクは先に木間君を探します!」

 「これ待ちなさい」

 教授が止めるのを振り切って、麗は『マザー2』の通路に飛び出した。

 
 「木間君! どこ! 返事して!」

 ”……ああー……”

 「そっち!?」

 麗は通路を突っ走り、穴に飛び込み、しらみつぶしに中を調べていき……木間と『スーパー・ドローン』を見つけた。

 「木間君!……何してんのよ!」

 木間は、乳液の風呂の中で『スーパー・ドローン』にのしかかられていた。 どう見ても、男と女の行為の最中にしか見えない。

 「このドロボウネコォー!」

 麗は背後から『スーパードローン』にとびかかった。 乳液風呂のなかに水柱ならぬ乳柱が立つ。

 どっぷん、ドッポン

 乳液の中で、女の子二人と男の子一人が、くんずほつれずの騒ぎが始まった。

 
 ”アーアー、マイクテスト。 聞こえるかね?”

 「教授、よく聞こえます」

 太鼓腹が、中継サーバの調子を見ながら答えた。

 「中からの情報は、ばっちりとれて、大学に中継してます」

 ”画像と音声、それから脳波計と心電図の信号は取れているな”

 「心電図?……教授のですか?」

 ”壁に、心電図と脳波計のパットを繋いだ。 これが生き物なら、なにがしかのデータが取れるかもしれん”

 「ははぁ……ああ、規則正しいパルスが入っていますね……音声はと……」

 ”……の……や……”

 「あれ?……何か小さい音が入ってますね」

 ”フィルタリングして、増幅して見たまえ”

 「はい」

 太鼓腹は、音声データをいくつかに分け、フィルタをかけて個別にクリアにしていく。

 ”麗……”

 ”木間君は、あたしの!”

 ”侵入者が乱入。 どうしますか?”

 ”……認識……分析……侵入者を特定……”

 「……なんか、ややこしいことになっているようですけど」

 
 「『マム』、侵入者は本来のターゲットです。 侵入者と、捕獲した男子の間で、魂交換が行われているようです」

 ”……歓喜……興奮……速やかに調査を開始します。 貴女は、乳液より退避なさい”

 「はい、『マム』」

 『スーパードローン』は、木間を解放し、乳液風呂から外に出た。 残った麗が、木間を助け起こす。

 「木間君!大丈夫?」

 「やぁ……力が入らないけど……まだなんとか……」

 麗は木間に肩を貸して、立ち上がらせた。 その時、天井や、壁から、細い蔓のようなモノが伸びてきて、二人に絡みついた。

 「きゃ?」

 「なんだい……これ」

 麗は、蔓を払いのけようとしたが、手足に絡みつかれ、体の自由を奪われていく。

 「うわ、ヌルヌルの乳液に『触手攻撃』? なんてお約束な攻撃!」

 「……麗……にげて」

 「逃げるよ! 一緒に!」

 麗はそう言ったが、蔓に足を取られ、乳液に中にひっくり返ってしまった。

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