ボクは彼女

47.j逆襲『マザー2』


 ガン、ゴン、ドン!!

 ミスティが『エア・転送』する度に、『マザー2』の外装の一部だった『ボーリングの玉』が現れ、船の中に落ちてくる。

 「おっとアブナイ!」

 ”アブナイ!”

 「うるさーい!」

 『玉』が現れる場所が、一定しないため、船の中の一同は『玉』を避けるために右往左往する羽目になった。

 「あんたら! この玉はなんだね! このままじゃ、船底に穴が開くか、重みで船が沈んでしまうがね!」

 船頭さんの警告に、一同は顔を見合わせた。

 「しかたない、みんな、『玉』を受け止めて、海に捨てて」

 「えー無理」

 ”エームリムリムリ”

 スーチャンとナンドラゴラを除いた一同は、中腰で構え、玉を受け止めては海の中に放り込む。 しかし、誰かの近くに現れるとは限らないため、揺れる船の

上で走り回る羽目になった。

 「こらこら、そんなに走ると海に落ちるぞ」

 船頭さんが注意したが、時遅く、太鼓腹、山之辺刑事が海に落ち、人魚の助けを借りて船に戻ってくる。

 「あ、全部捨てないように。 2、3個残してくれるか。 大学に持ち帰って調べてみよう」

 ランデルハウス教授の指示に従い、エミが『生け簀』に『玉』を放り込む。 その間にも、『玉』が次々と降ってくる。

 「おっと!……エミ先生、『マザー2』を攻撃して大丈夫なんですか?」 太鼓腹が尋ねた。

 「我々を『敵』と認識して、攻撃してくるかも」

 エミは、舳先で『玉』を受け止めながら答える。

 「たぶんだけど、大丈夫よ。 『マザー』達は、私達を研究対象の動物としか認識してないから」

 「動物……ですか」

 「そう。 『マザー2』の立場に立つと今の状況は……そうね、『昆虫学者が蜂の巣をつついき、反撃にあって慌てている』感じかな」

 「……あちらに『殺虫剤』の用意がない事を祈りますよ」

 
 『不可解……想定外……外殻に欠損が生じている』

 「『マム』?」

 『原因不明……異常事態……外殻貫通!』

 
 ボコボコボコッ……

 2隻の遊漁船の間に、泡が立ち上り、その周りに人魚が浮上してきた。

 ”ピーッ、ピーッ!!”

 「慌ててるわね? 教授、彼女たちは何と?」

 「『マザー2』から泡が吹き出しているらしい。 外装の穴が、内部に達したようだ……なに!」

 教授の顔が険しくなった。

 「『浮上してくる』じゃと!」

 「げ!」

 「げげっ!」

 ”ゲゲゲノゲ!”

 「船頭さん、急いでここから離れて! 下から何か浮上してくる」

 「なんじゃと!」

 船頭は慌てて舵を取り、マイクを取ってもう一隻に退避を呼び掛ける。

 『逃げろ! 下から来るぞ!』

 2隻は舳先を並べて、その場から離れた。 間一髪、『マザ−2』が海面をかき分け、その場に姿を現した。

 「出た! 船頭さん戻って、そばにつけて」

 「馬鹿言うな!……ややっ!」

 浮上した『マザー2』は、波をかきわけ、2隻の方に向かってきた。

 「前言撤回! 全速前進!」

 「おう!」

 2隻は全速で『マザー2』から離れる方向に進みだした。 その後を、『マザー2』が追ってくる。

 「こ、攻撃してはないと言ったじゃないですか!」

 「追ってないとは言ってないわよ!」

 船の面々が青い顔になる中、麗は船尾に陣取り、『マザー2』を睨みつけている。

 「泡が出たという事は、穴は上に空いたはずですね、先生」

 「え? あ、ああ、そうかも」

 「ボクはそこから中に入ります!」

 そう言って、麗は海に飛び込もうとした。 エミが慌てて彼女を止める。

 「焦らないで! 結構速度が出てるわ。 泳いで近づいても、上に上るのは無理よ」

 「根性で登ります!」

 エミは首を横に振る。

 「仕方ないわね……教授、後を頼みます」

 「なに?」

 エミは上着を脱いだ。 下着姿……と思いきや、競泳用のスイミングスーツの様なものを下に来ていた。 なぜか背中が大きくあいている。

 「麗さん。 これからみた事は、口外しない様に」

 「え?」

 首を傾げた麗の目の前で、エミの背中から翼が現れた。 絶句する麗を抱え、エミは空に舞い上がった。

 「えー!?」

 「騒がないで……これが『マザー2』……上から見ると、果実の種みたい」

 水面を走る『マザー2』は、先のとがった楕円形をしていて、エミの言う通り大きな種のように見えた。

 「あそこに降りるわよ」

 エミの言葉に麗が頷く。 エミは『マザー2』に速度を合わせ、其の上に舞い降りた。

 「さて……穴はどこに……あった」

 着地した箇所の近くに、穴が開いていた。 近寄ってみると、直径30cmほどの穴が開いている。

 「小さすぎる」

 「そんな」

 麗が穴に飛びつき、中に向かって叫んだ。

 「木間君! 中にいるの? いま助けるから!!」

 エミは、麗の背後に立って辺りを見回した。 と外装の一部が動いている。

 「あら?」

 近寄ってみると、そこにも穴が開いていた。 その穴が広がっていく。

 「麗さん」

 エミが麗を呼び、麗が駆け寄って来る。

 「先生? この穴は?」

 「今、開いたのよ……」

 穴は、人ひとりが楽に通れそうだ

 「誘いかな?……私が入ってみるわ」

 「私も!」

 「少し待って」

 エミ翼をしまい、穴に身を躍らせた。 

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