ボクは彼女

46.ミスティ、猛攻


 警察がチャーターした遊漁船2隻に分乗し、エミ、ミスティ、麗、『クイーン・ドローン』、ランデルハウス教授、緑川助教授、太鼓腹、そして山之辺刑事が

沖に出た。 人魚達が集まっている地点で、船を止めた。 船頭は、海の上に漂う人魚達を、珍しそうに眺めている。

 「いんや、この商売長いども、『人魚』を見るのははじめてだなぁ……やっぱあれか? 映画の撮影用のコスプレか何かか?」

 エミが困惑し、山之辺刑事の方を見ると、パタパタと手を横に振っている。

 (面倒だから、適当な話をしたのね)

 エミは肩をすくめて、船頭に適当な返事をすると、隣の船の太鼓腹に声をかけた。

 「ドローンの用意はできてる?」

 ”はーい。 でも、ミスティさんが送り出す前に、一度水に潜らせますね”

 「まかせるわ」

 太鼓腹が持ってきたのは、長さ30cmほどの小型の水中用ドローンだった。 下にドリルのようなアルキメディアン・スクリューが2つついている。 それに、

ナイロン・ケーブルを取りつけ、海に浮かべた。 それから、ゲームのコントローラの様なものを操作すると、ドローンが進みだし、海中に潜っていった。

 「ケーブルをつけないと、動かせないの?」

 ”命綱みたいなもんです。 ミスティさんが『送り出す』ときは、外しますね”

 太鼓腹は、コントローラを何やら操作した。 すると、ドローンが少し先の海面に浮かび上がった。

 ”よし、大丈夫だ。 このドローンは、下げ舵で動力潜航するタイプで、動力が切れると浮いて来るんです”

 「なるほど、動力が切れると、浮いてきて回収できるわけね」

 船に乗っている他の面々も、興味深そうにドローンを見ている。

 ”それじゃあ、始めましょう。 そちらに近づけますから、回収して、ケーブルを外してください”

 水中用ドローンは、ゆっくりとエミの乗っている船に近づいてきた。

 「よっと……もう少しよせて」

 エミは身を乗り出して、ドローンをすくい上げようとするが、手が届かない。 船頭からたも網を借り、なんとか拾い上げる。

 「これを外して……ウキをつけてと……いいわケーブルを回収して。 次はミスティ、貴女の番よ」

 「これを……下に送るの〜?」

 「そう、真下に……って流されてない?」

 エミはスマホを取り出し、GPSで位置を確認する。

 「やっぱり流されてる……船頭さん、さっきの場所に戻して、そこから動かない様にして」

 「そんなご無体な。 これは船で、ここは海の上だべ」

 文句を言いながらも、船頭は船を細かく動かして、なんとか位置をキープする。

 「よーし、ミスティ、やって」

 「はいな」

 ミスティが水中用ドローンを捧げ持ち、目を閉じた。 ドローンが突然透明になり、次の瞬間、海水がミスティの足を濡らした。

 「濡れちゃったぁ……」

 「また海の中か……太鼓腹君、ドローンの映像はどう?」

 ”ちょっと待って……あ、人魚が手を振ってる”

 ドローと一緒に、人魚が一人浮いてきた。

 ”なに?……もう少し下?……どのくらい? 1キック分?”

 ランデルハウス教授が、人魚から聞き取りをしている。

 ”位置はあっているようだ。 深さが、あと2m程下らしい”

 「2mか……『マザー』の外郭の厚みはどのくらい?」

 エミが『クイーン・ドローン』に尋ねた。 少しして答えが返ってくる。

 「個体差がありますが、5mから6mはあるようです」

 「そんなに? 中の空間の……そう天井までの高さは?」

 「場所によります。 垂直方向は3から4mぐらいで、多層構造です」

 エミは頭の中で『マザー』の構造を想像してみた。

 「さっきより2m下で外殻表面、そこから5〜6m行くと、最上階の天井で、床まで3〜4m……さっきより約9m下なら、内部の空間にでる計算になるわね」

 「確実ではないですが」

 エミは『クイーン・ドローン』に感謝の意を示し、海面に浮いてきたドローンを引き上げて、ミスティに渡す。

 「さっきより、9m下に送って」

 「9m?……簡単に言うなぁ……」

 ミスティはぶつぶつ言いながら、目を閉じてドローンを捧げ持つ。 手の中からドローンが消えたが、今度は消えただけだった。

 「どうなったの?」

 「さぁ?」

 エミは太鼓腹に手を振った。 太鼓腹が、モニターの画像を確認する。

 ”おおっ? なんだか部屋みたいなところに居ますよ”

 「部屋ぁ?」

 ”ちょっとお待ちを……移動します。 おお、進む進む。 さすがアルキメディアン・スクリュー”

 ドローンの底には、ねじ型のスクリューがついていた。 これを回転させると、陸上でも進むことが出来る。

 ”ややっ? 人がいる”

 「人!? 木間君なの!?」

 麗が身を乗り出し、船が大きく揺れて海に落ちそうになった。 エミが慌てて、麗を捕まえた。

 ”顔までは判りませんけど……巨乳の女の子が、男の子にのしかかってます”

 「木間君よ! 間違いないわ!」

 「落ち着いて、木間君と決まったわけじゃ。 『ドローン』かも知れないじゃない」

 「『ドローン』は巨乳なんでしょ! 男がいるなら『ドローン』じゃないわよ!」

 「なるほど」

 エミは納得したが、麗はそれどころではない。

 「早く助けに行かないと! 木間君が『ドローン』にされちゃう!」

 「それはそうなんだけど……ミスティ?」

 ミスティの方を見ると、首を横にブンブンと振る。

 「中には行けるかも知れないけど……ミスティ一人で、何すればいいの」

 「うーん……教授! 人魚達で『マザー2』の中に突入できませんか!?」

 ”入り口を探しているが、みつからんようだ。 見つかったとしても入れるかどうか……”

 「警察の潜水夫とか、自衛隊とか、潜水艦は!?」

 麗がエミの肩を掴んで揺すぶる。

 「潜水夫や潜水艦より、人魚達の方が有利よ。 それでも中に入れずにいるのよね……」

 「ドリルか何かを人魚に貸して、穴開けられないんですか!?」

 「そんなものあるかしら。 あったとしてもどのくらい時間がかかるか……」

 ハックション

 ミスティがくしゃみをした。 海水で濡れて、冷えたらしい。

 「大丈夫? 防寒着を……ちょっと待って?」

 エミはポンと手を打った。

 「ミスティ、貴女『空気』を送ることできる」

 「はい?」

 ミスティが小首をかしげた。

 「『くーき』?」

 「そう、『空気』。 それを……さっきドローンの送った辺り、そこから……そう5mほど上に送れる?」

 「は?」「なに?」

 皆がキョトンとする。 エミが何を言いたいのか、判らないようだ。

 「できる……と思うけど……」

 「やってみて」 きっぱりとエミ。

 「えーと……」

 「やって」

 真顔で言われ、ミスティは首をかしげながら目を閉じ、両手を前に出し、『ボール』を持つような格好をした。

 「やるよ」

 「ええ」

 ボン!

 派手な音がして、ミスティの手の中に、ボーリングの玉ほど茶色の球体が出現した。 その重さにミスティがつんのめる。

 「やった!」

 「え? なにこれ!?」

 「多分、『マザー2』の外装の一部よ。 ミスティが送った空気と入れ替わって、ここに送られてきたのよ」

 『なるほど!』

 船の一同が頷く中『クイーン・ドローン』が耳に手を当てた。

 「……『マザー』から連絡……『マザー2』の様子が変なようです」

 「変?」

 「ええ……取り乱しているようです……」

 「よっしゃ!」

 エミはこぶしを握り締めた。

 「さぁ、ミスティ! この調子でガンガン攻めて!」

 「うー……ミスティ一人がつかれる事ばっかり」

 ミスティは口をとがらせつつ、再び目を閉じて、手を前に出す。
 
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