ボクは彼女
43.結成、救出部隊
教授と助手、奥さんと『クイーン・ドローン』は、助手がレンタルしてきたマイクロバスで移動することになった。 一行がバスに乗り込む時、助手の
コットン氏が教授に話しかけた。
「教授。 彼女を『クイーン・ドローン』と呼ぶのは何故です? 『ドローン』は働きバチですから、女王バチは『クイーン・ビー』ですよね」
「君の言う通りだ」
教授は奥さんが乗り込むのを手伝いながら、コットン氏の疑問に答えた。
「彼女達のリーダが『クイーン』なのは確かだが、『ドローン』を生み出すことはできない。 また、『マザー』が『ドローン』達の上位にあるのは確かだ。
蜂やアリは『クイーン』が最上位だ」
「そうですね」
「彼女たちは、蜂やアリに例えるのが適当と思ったので、『ドローン』と呼ぶことにしたのだが、『クイーン・ビー』と呼ぶと、彼女が最上位者と誤解される
かもしれない。 だから『ドローン』のリーダを『クイーン・ドローン』と呼べば、彼女に上位者がいると判ると思ったのだ」
「はぁ、なるほど」
コットン氏は首をひねりつつ、運転席に納まり、バスを発進させた。
−−「妖品店ミレーヌ」−−
エミが店のドアを開けると、奥で言い争う声が聞こえてきた。
”ソレ、アタシノ!”
「スーチャンのだい!」
「ミスティの!」
「何の騒ぎなの?」
エミが尋ねると、フード姿のミレーヌがぼそぼそと答えた。
「……朝の食事の……スイーツが余ったので……ミスティと……スーチャンと……ナンドラゴラが……取り合いを……」
「判ったわよ」
疲れた声で言い、エミは手を打ち鳴らして三人の注意を引いた。
「聞いて! この間大学に攻めてきた宇宙人の同族が、男の子を拉致したの」
三人ともキョトンとした顔でエミを見る。 『それがどうした』という顔だ。
「救出しに行くの。 ミスティ手を貸して」
「なんでー?」
「昨夜は『帰れ』と言ったじゃない」
”ソーダソーダ”
(やっぱ、根に持っていたか)
「悪かったわ。 手伝ってくれたら、好きな物を買ってあげるから」
”ハチミツ!”
「プリン!」
「ケーキ!」
あっさり応じた三人だったが、ミレーヌが首をかしげた。
「……何をさせる……つもりですか?……」
「相手は宇宙人というか、『生きた宇宙船』で、しかも海中に隠れているの。 大学に同類が攻めこんできたとき、私達には成すすべがなかった。 ただ……」
「ミスティが、撃退したもんね〜♪」
得意げなミスティだが、ミレーヌは懐疑的な様子だった。
「……詳しい状況が判りませんが……人質の救助が目的……ミスティには向いていないかと……」
「うん、それは考えたんだけど。 他に手段が思いつかなくて」
「……ご武運を……」
エミは、喜び騒ぐ三人を連れて妖品店を後にした。
−−マジステール大学ーー
一足先に戻っていた教授が、学長に掛け合って有志を募っていた。
「どうだねこれは!」
ロボットメイド(身長5m以上)を試作中の緑川助教授が、上半身が人型、下半身が潜水艦のようなメカを持ち出し、得意げに説明している。
「水中作業用メイドロボットだ! その名も……」
『マーメイドンガー』
オチを先に言われ、いじける緑川助教授。
「だいたい、メイドさんが水中で何をするのですか」
とエミは突っ込んではみたが、水中で動くロボットなら、何かの役に立つかもしれないと、戦力に加えることにした。
「エミ君が連れてきたのは……おお、この間の超能力少女か」
「小悪魔だい」
「そうか、そうか。 いや、心強い」
教授の言葉に、エミが目を剥く。
「『心強い』!? これがですか?」
「この間は宇宙人を撃退しているからな。 君も、それで彼女を連れてきのだろう?」
「そうですけどね……後は、」
「うむ……他にはいないのか?」
エミは顔を曇らせた。
「連絡はしてみたけど……急すぎるし、夜型の人(?)が多くて」
エミは大学に向かう道すがら、『人外部隊』のメンバに連絡を取ってみた。 しかし、いい返事はもらえていない。
「仕方あるまい。 海に向かおう」
−−E海岸−−
エミたちが海岸に到着すると、山之辺刑事と川上刑事、警官が数名来ていた。
「船は?」
「上に掛け合ったが、船もヘリもすぐには都合がつかんと言われた。 海上保安庁も、『海難事故ならば対応しますが……』と言われたよ」
「お役所仕事なんだから……」
「近くの船宿に掛け合って、釣り船を3隻借りた。 今はこれが精いっぱいだ」
山之辺刑事が、沖の方を指さすと、小さな釣り船が3隻浮いている。 海岸にはゴムボートもあった。
「ないよりはましか……」
エミが呟いたとき、低い唸りを立てて、重車両運搬用のトレーラーが海岸に入って来た。 ブルドーザやユンボを乗せる為の荷台に、『マーメイドンガー』が
乗せられている。
「な、なんでぃあれは!」
警察関係者が驚く中、トレーラは跳ね上げていたスロープを倒し、『マーメイドンガー』を砂浜に下ろす。
「大学の潜水艇よ」
「あ、あれがかぁ?……おおっ!?」
砂浜に下ろされた『マーメイドンガー』は、下半身の潜水艇部分の下から無限軌道をせり出し、砂浜を下って海に入った。
「自力で走行できるの? 思ったよりすごいわ」
海に入った『マーメイドンガー』は、波をかき分けて沖に向かう。 潜水艇部が海面下に隠れ、人型部分も沈み、やがて完全に見えなくなった。
『……』
「助教授? 沈んじゃったけど……」
「浮くわけがなかろう。 エンジンに無限軌道の重量があるのだぞ。 あのボディの容積で浮力がつくか」
「じゃあ……」
「『マーメイドンガー』は、海底を移動し、水中作業を行うのだ! 凄いだろう」
「え、ええすごいですね」
エミはがっくりと肩を落とした。
「ところで助教授。 海底は真っ平という訳ではない事はご存知ですよね。 道路や砂浜を走るようにはいかないんですけど」
「なに?」
助教授が目を剥いた。 その時、海上で盛大に泡が吹きあがった。 丁度『マーメイドンガー』が進んでいった先だった。
『……』
一同言葉もない。 エミの懸念が的中したのかと一同が思い始めた時、海岸近くの波間に、ひょこっと人の頭が浮いてきた。
「おや? 誰かいるぞ」
山之辺刑事が手をかざし、波間に浮く人の顔を見極めようとする。
ひよっこ、ひよっこ
次から次に、人の頭が浮いてくる。 濡れた髪の毛は白か銀で、日本人には見えない。
「お、おおあれは」
”お姉チャン達ダァ!”
ランデルハウス教授の持つ金魚鉢から、『リトル・マーメイド』のシーラが身を乗り出して手を振る。 その時、沖合にひときわ大きな水しぶきが上がった。
『婿殿ぉ! 久しいですわねえ!』
海から巨大な女の顔が現れた。 白い人魚達の長、巨大人魚(全長約50m)だった。
「うわ、海坊主だ!」 山之辺刑事が叫ぶ。
『海坊主とは何よ!』
怒った巨大人魚が尻尾を振り、そのあおりで海岸に大波が打ち寄せた。 砂浜にいた一同は危うく海に流されかけた。
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