ボクは彼女

42.迫る危機


 …

 ……

 ………

 「麗?」

 体がだるく、頭が重い。 目を開けると、あたりは薄暗い。

 「しまった、寝過ごしたか!?」

 跳ね起きて、辺りを見回し……辺りの異様さに驚いた。 寝ていたのは、赤っぽい壁の『小部屋』だった。 部屋の壁は湾曲していて、角がない。 天井も

同じだ。 

 「ここ、どこ?」

 口に出したが返事はない。 起き上がって、自分の体を確かめる。

 「パジャマを着ていて……『ついてる』から、自分の体だ」

 最近は麗と『して』そのまま寝ることが多かったから、起きた時、今の自分の体がどっちなのか確かめるのが癖になっていた。

 「えーと……そうだエミ先生たちが来て……『スーパー・ドローン』が麗を狙って……」

 寝る前の事を思い出しているうち、変な夢を見たことを思い出した。

 「見たことない女の子が迫って来たような……」

 ペタペタペタ……ポン

 肩を叩かれ振り返る。 見たことの無い女の子が、背後に立っていた。

 「ああそう、君だ……って、君は誰?」

 女の子は、白いワンピースを着ていたが、胸周りがはち切れそうで、全然にあっていない。

 「……おいでなさい」

 女の子は、僕の手を握り、先に立って歩きだした。 訳の分からないまま、彼女に連れられて別の部屋に入った。

 「……?」

 空気が暖かく、湿気を感じる。 お風呂場の空気に似ているけど、微かに甘い匂いを感じた。

 「『マム』指示をください」

 彼女がそう言うと、どこからか声が聞こえてきた。 落ち着いた女の人の声だ。

 『実験……準備……彼の服を脱がせ、乳液に浸しなさい』

 「服を脱がせる!?」

 女の子が僕のパジャマに手をかけた。 手を払いのけようとしたが、彼女は意外に力が強く、パジャマを脱がされ、下着をはぎとられる。

 「や、やめてよ」

 抗議の声もむなしく、僕は素っ裸にされた。 思わず手で前を隠す。

 『隠蔽……防御……警戒行動?』

 「何を言ってるか判らないけど、話を……わぁ!」

 女の子が、僕を突き倒す。 不意を食らい、僕は背中から転がる。 そこには、穴が開いていたようだ。

 ドッポン……

 「……ぶはぁ」

 訂正、穴というほど深くなく、せいぜい『くぼみ』というべきだろう。 そこにネットリトした白い液体が溜まっていて、ぼくはそこに転がり落ちていた。

 「なんだよ、もう」

 ぶつぶついいながら、『くぼみ』から出ようとすると、女の子が前に回って、僕を押し戻した。

 「そこに座り、身を浸しなさい」

 そう言って、彼女はボクの肩を押さえつけ、僕を『くぼみ』の床に座らせた。

 「……」

 立とうとしたが、身動きできない。 そのうち心が落ち着き、どうでもよくなってきた。

 「なんだかなぁ……」

 周りの白い液体をかき回してみる。 粘り気があり、肌に纏わりついてくる。 さっきの言葉から、これが『乳液』らしいと思った。 ちょうど体温ぐらいに

温まっていて、目を閉じると『乳液』の存在が判らなくなる。

 「ねぇ……ここはどこで、君は誰なのさ。 それにさっきの……『マム』っ呼んでたっけ? あの人は何者なの」

 「……何故、問う?」

 少女が首をかしげた。


 「気になるから……」

 そう言うと、少女は怪訝な顔になった。

 「気になるのか?」

 僕は頷いた。

 「焦ることはない。 いや、直に焦ることはなくなるし、気になることもなくなる」

 「え……」

 彼女の答えに、僕は首をかしげた。 意味が判らない。

 「どういうことさ……」

 そう言って、『乳液』をかき回した。 牛乳風呂と言うのは、こういうものかもしれない。

 「その『乳液』に身を浸していれば、余計な事は考えなくなる」

 「え?……まさか」

 彼女の言葉に、僕は恐怖を感じた。 ここに居てはいけない!! 慌てて立ち上がろうとし、彼女に押し戻された。

 「放せ!」

 「そのまま浸かっているのだ」

 じたばたと暴れているうちに、手足が重くなり、頭がボーっとしてきた。 気がつくと僕は抵抗を止め、『乳液』の中でじっとしていた。

 「それでいい」

 「それでって……どうなるのさ……」

 それだけ喋るのが大変だった。 夢を見ているように、現実感が失せていく。

 「直に君は、思考力をなくし、体は受胎可能体に……女になる」

 「そん……そうなんだ……」

 女になるんだ……ふーん……

 「そのまま……」

 何か言ってる……いいか……ここは気持ちがいいし……

 
 −−麗宅−−

 ランデルハウス教授の助手と、教授の奥さんがやって来た。 少し前に、日本へ呼び寄せていたらしい。 その助手が、教授に渡したものを見て、エミが

驚愕した。

 ”キョージュ、キョージュ!”

 「おお、元気そうで何より。 長旅は大変だったろう」

 ”ヘッチャラダイ!”

 教授が話している相手は、金魚鉢の中で泳いでいる『人魚』だった。 体の長さは20cmほどで、文字通りの『リトル・マーメイド』だ。

 「話に聞いてはいたけど……これは凄いわ!」

 「この子は私の娘……の一人なのだよ」

 教授は慈愛に満ちた眼差しで、『人魚』を見ている。

 「すまんが頼みがある」

 ”ナニ、ナニ!?”

 「母君たちの力を貸して欲しいのだ。 呼んでもらえるだろうか?」

 ”ハハギミ! ハハハハハハ、マッカセナサイ!”

 『人魚』はそう言うと、金魚鉢の中で手を組み、祈り始めた。

 「教授、どうなさるおつもりですか?」

 「彼女の母君と姉妹たちを呼んで、『マザー2』を探してもらう。 例の海岸の沖合に居るとしても、範囲が広すぎて、ダイバーや潜水艇では時間が

かかるだろう。 その点、『人魚』達なら、ずっと早く見つけられるだろう」

 「良い考えです」

 「ただ、その後が問題だ。 場所が特定できたとしても、どうやって木間君を救出するかだ」

 教授がそう言うと、麗が泣きそうな顔で教授とエミを見比べる。

 「海の中だと……水雷か爆雷?」

 「木間君が死んじゃうじゃない!」

 「『マザー』を撃退した手はどうだ? ほれ、あの『ミスティ』に頼んでだなぁ……」

 エミは首を横に振った。

 「あの手で『マザー2』を攻撃すると、木間君の安全が保障できません。 それに、彼女のテレポートは『自分のみ』か『自分以外の10kg』程度の物体しか

テレポートはできないそうです。 木間君を10kgずつテレポートして、組み立てる訳にはいきませんし」

 「それではバラバラ死体だのう……テレポートで侵入し、彼を連れて他の手段で脱出してもらうないか?」

 「中の様子が判りませんから、計画の立てようが……策も無しに彼女を送り込むと、どんなことになるか……」

 「むむむ……」

 「教授、私は『人外部隊』と知り合いの知恵を借りに行きます。 教授は、『人魚一族』に『マザー2』の捜索をお願いしてください。 それと、大学に連絡して

『マザー』の研究チームに相談してください」

 「そうか、『マザー』の遺留物を調べてい目研究班がいたな」

 教授は、助手と奥さん、人魚を伴って外に出た。

 「『クイーン』、『マザー』から『マザー2』の情報を引き出せない?」

 「どのような情報をお望みだ?」

 「彼女たち内部への侵入、脱出方法、捕獲した研究材料の取り扱い等よ」

 「聞いてみよう」

 「私は知り合いの所に拠って、それから大学に戻るわ」

 「俺たちは?」

 山之辺刑事が聞き、エミが振り返る。

 「ヘリと、出来れば船を用意して。 まだ、どうなるか判らないけど、相手は海の中。 必要になるはずよ」

 「おぅ」

 山之辺刑事とエミが外に出る。

 「私達も」「一緒に行く」

 麗と舞が、エミの後に続いた。
 
【<<】【>>】


【ボクは彼女:目次】

【小説の部屋:トップ】