ボクは彼女

41.『マザー2』探索計画


 「それで?」 麗が平板な声で尋ねた。

 重苦しい沈黙が居間に満ちる。

 「彼は……木間君はどこに行ったのさ?」

 チュンチュンチュン……

 答えを返せるものは、早起きのスズメだけだった。

 「貴女と舞さんが、『スーパー・ドローン』のターゲットだったはず……なんだけど。 なぜか木間君が拉致されたらしいの……」

 エミが答える。 彼女にしては歯切れが悪い。 

 「俺たちもそのつもりだったが……」

 山之辺刑事の声も力がない。 警察が家の内外で警護していながら、目の前で拉致されてしまったのだ。

 「……」

 麗が肩を振るわせている。 怒りで爆発寸前だ。

 「麗、この人たちを責めても意味がないわ」

 舞が助け舟を出す。

 「私達が狙われているということで、警察とエミ先生たちが警備してくれていたんでしょう? あなたと私が無事だったんだから、役目は果たしてくれたのよ」

 「代わりに木間君が拉致されたのに? 一つ屋根の下にいたんだよ! どうして朝まで誰もで気がつかなかったのさ!」

 麗の言う通り、『スーパー・ドローン』が木間を拉致したのに気がついたのは、朝になってからだった。 警察は近くの街頭カメラの画像を調べ、午前一時

ごろに木間と『スーパー・ドローン』らしき少女の姿が映っていることを確認した。

 「ごめんなさい、私のミスね」

 エミが深々と頭を下げた。

 「どういうことさ……いや、どういう意味です、エミ先生」

 麗は無理に落ち着き、口調を改めて尋ねた。

 「人外部隊と大学の『ドローン』達を呼んだのがまずかったの。 警備の主力は警察の人達だったけど、彼らは『人外部隊』や『ドローン』達と初対面だった

でしょう?」

 「そうらしいけど……だから、紛らわしい『巨乳』は家の中に集めたんですよね?」

 「そう。 でも、家の内外に、面識のない人間が集まっている状況は変わらなかったのよ。 だから『スーパー・ドローン』が目立たなくなってしまったんだわ」

 エミの言葉に、山之辺刑事が頭をかく。

 「それを言われたら、おれの立場がないぜ。 ここは、警官の俺が仕切るべきだったよ。 相手が宇宙人だと聞いて、あんたたちに頼りすぎちまった」

 ため息と、後悔の言葉で、居間の空気は絶望的に重くなった。

 
 「ミズ・エミ。 『マザー』と情報を交換しました」

 『クイーン・ドローン』に皆が注目する。

 「木間君はどこにいるの?」

 「『スーパー・ドローン』が捕獲し、今は『マザー2』内で調べられているようです」

 それを聞いて、麗の怒りのボルテージが上がる。

 「調べるって!……何をどう調べているの! まさか、解剖とか」

 「いえ、貴重な『意識交換』の体験者ですから、いきなり生命を奪うような事はしない様です。 まずは会話で情報を引き出し、その後体を綿密に調べ、

『意識交換』のプロセスを分析するようです」

 「木間君はモルモットじゃない!!」

 「ええ、彼はどこから見てもホモ・サピエンスで、モルモットとは似ても似つきませんが……」

 当惑した様子の『クイーン・ドローン』に麗が食ってかかろうとするのを、エミが間に入って止める。

 「『マザー2』はどこに居るの?」

 「多分、海中でしょう。 『マザー』にも位置は把握していないようです」

 エミは少し考えてから、携帯でどこから連絡を取る。

 「……もしもし、ミスティ?」

 ”ほーい……なぁにぃ”

 「貴女、『マザー』と交戦したとき、『テレポート』で中に石を放り込んだわよね」

 ”うん、それが?”

 「貴女自身が、『マザー』、いえ『マザー2』の中に『テレポート』できる?」

 ”できる……と思う”

 「頼りないわねぇ……まぁいい、それをやってもらいたいんだけど……」

 ”いいよぉ……で『マザー2』はどこにいるの?”

 「……え?」

 ”行先も判らずに『テレポート』なんてできないよぉ”

 「……悪かった。 私の思慮不足だったわ」

 エミが電話を切ると、周りの一同がため息をついた。

 「その『マザー2』の居場所を突き止めるのが先だが……どうしたもんか」

 山之辺刑事の言葉に、麗が泣きそうな顔になる。

 「ねぇ、なんとかなんないの? 宇宙人探知機とか、レーダーとか、何かないの?」

 エミは首を横に振り、逆に質問する。

 「スマホかICタグのようなモノは持ってなかった? 位置特定に使えるモノ」

 今度は麗が首を横に振る。 エミは、今度は『クイーン・ドローン』に尋ねる。

 「……『マザー』は『マザー2』の居場所は判らないって言ったわよね? でも情報交換はしているんでしょ? 何かヒントになる様な情報はない?」

 「ヒントと言われても……」

 『クイーン・ドローン』は、困った顔になる。 

 「『マザー2』が何処にいるか、推測もできない?」

 「推測ですか……」

 『クイーン・ドローン』は、直立不動の姿勢になり、目を閉じた。 『マザー』と交信しているらしい。

 「おそらくですが……」

 『判るの!?』

 麗とエミが『クイーン・ドローン』に迫り、彼女は一歩後ずさった。

 「おそらく、先日『マザー2』が『ドローン』を上陸させた海岸、あの沖合でそう遠くないところにいるかと」

 「え?……そうか……そうね、その可能性はあるわね」

 頷くエミに対して、山之辺刑事は懐疑的だった。

 「それはないんじゃないか? どこか安全な場所に移動すると思うがな」

 「『マザー2』が人間を脅威だと思っていればそうするでしょうね」

 エミがそう言うと、山之辺刑事が首をかしげた。

 「『マザー2』は人間を恐れていない、と言いたいのか?」

 「『マザー』達は、人間を研究対象の動物としか見ていないのよ。 例えば……動物学者が猛獣を調べるとしときどうすると思う? 警戒されない様に

隠れることはあっても、捕まらない様に逃げ回ることはしないでしょう?」

 「うーむ……まぁそういうこともあるか」

 山之辺刑事は、納得していない様子だが、他に探す当てもない。

 「でどうする? 簡単に沖合というが、探すのは大ごとだぞ。 自衛隊に潜水艦の出前でも頼むか?」

 「自衛隊には頼むのはちょっと……大学で持ってないかしら」

 エミは大学に電話をかけた。

 「研究用の潜水艇は?……できれば有人のが……え? レンタルしている……今日明日は無理?そこを何とか……」

 エミは肩を落とした。

 「早くても半年先だって」

 「大学以外は駄目なんですか? 警察とか、海上保安庁とか」

 「ダイバーなら手配できるかもしれんが、潜水艇はなぁ……それに、当てもなく探すのは……」

 山之辺刑事が難色を示し、エミの方を見た。

 「それこそ、『人外部隊』に居ねぇのか? 海の中が得意な奴」

 「うーん……思い当たらないわねぇ……」

 「この間、風紀関係で取り締まられたろう『人魚』が。 あれはどうなんだ?」

 「ああ、『人魚すくい』ね? あれは、一人だけだったし、数が……ん? 待ってなにか……あ!」

 エミは再び電話をかけた。

 「あ、教授! じつはお願いがあって……ええ、教授に縁のある人魚の……え? 娘さん達? それは好都合! ぜひ、お願いします」

 エミは電話を切った。

 「取りあえず、探索のとっかかりはできそうよ」

 「ほんと!? よかった……」

 「喜ぶのはまだ早いわ。 『マザー2』を探し当てたとして、その後どうやって木間君を助けだすかを考えないと」

 エミは三度電話をかけ始めた。

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