ボクは彼女

39.ヨバイの相手は


 「何をやっているのよ」

 エミが眉を吊り上げる。 表が騒がしくなったので、駆けつけてみる……

 「むー……だってぇ……」

 膨れっ面のミスティとスーチャン、それにナンドラゴラの三人が外国人らしき男たちとトラブルを起こしていた。 引き上げたとみせかけ、戻って来た者が

いたらしい。

 「あの怪しい人たちが……あれ?」

 エミが振り返ると、男たちは姿を消していた。 目立つのを嫌ったのだろう。

 「諜報関係の人かな?……貴方達はこっちに来なさい」

 路地裏にミスティ達を引っ張り込み、声を潜めて事情を聞く。

 「深夜の住宅地なんだから、大声を出しちゃだめよ。 で、何をされたの」

 「『夜遅いから、子供は帰りなさい』って」

 予想外の『常識的な忠告』だった。

 「それで? 貴女はどう答えたの」

 「『子供じゃないもん、ミスティだもん』って」

 「あっちの方がまともだわ。 ミスティ、見ての通り取り込み中なのよ。 また、トラブルになると困るから、貴方達は帰りなさいな」

 『えー』

 ミスティ、スーチャン、ナンドラゴラが揃って不満そうな声を上げたが、エミは再度、帰宅するよう促した。

 「貴方達が必要になったら連絡するから」

 言い含めて、三人引き上げさせた。 

 「良いの? 帰して」

 見習い魔女の麻美がエミに聞いた。

 「あの子たちは悪目立ちするから。 それに、お巡りさんたちに見つかれば、同じことを言われるわよ」

 「それもそうね」

 うんうんと頷いた麻美だったが、エミは彼女にも帰宅を促した。

 「えぇー!! あたしもぉ?」

 「当然でしょ。 高校生が出歩く時間じゃないわよ」

 「あたしの使い魔、獣っ娘たちが見張りにいるのよ? リーダーがいなくてどうするの」

 「そういうセリフは、自分の使い魔を統率できるようになってから言いなさい」

 麻美の使い魔は、牛、馬、猫など、動物を麻美の魔法で人に変化させた者たちだ。 しかしエミの言う様に、麻美の言うことを聞かず、好き勝手に動き

回るし、人型になっているだけで、それほど変わったことができる訳でもない。 一番の巨乳の『牛女』が麗宅内に入り、残りの使い魔娘たちは外回りに

なったのだが……

 「使い魔たちの数が減っていない? 猫と犬、ウサギの姿が見えないけど」

 「あー……その、機嫌を損ねたみたいで……『帰る』と言って……でも、一番戦力になる『虎娘』は残っているし」

 言い訳をする麻美に、帰宅を促したエミは、げんなりした顔で麗宅に戻った。


 「騒がしかったですね」

 僕がエミ先生に言うと、先生は肩をすくめた。

 「もう少し計画を立てるべきだったわ」

 「そうだな」

 隣の刑事さんが相槌を打った。

 「署の方にも苦情が来てるみたいだ。 明日は、表の有象無象を減らさないとな」

 エミ先生は、黙ってうなずくと、僕には、もう寝る様に言った。

 「明日も学校があるんでしょう?」

 「そうですけど……こんな状況じゃ寝られませんよ」

 「そうだよ」

 麗が顔を出した。

 「『宇宙人』が襲ってくるんでしょ。 とても寝てなんか……」

 「今日襲ってくるとは限らないでしょう。 第一、これからずっと夜通し起きているつもり? もたないわよ」

 「大丈夫! 昼間寝ていれば……」

 「授業中に寝るなぁ!」

 エミ先生は、僕と麗を部屋に追い立てた。 ちなみに、麗は自分の寝室で、僕は客間だ。

 「えー。 別々なの? いつもはいっしよに……」

 「あんたら……自分たちの立場を理解しているんでしょうねぇ?」

 『おやすみなさい』

 僕と麗は自分のベッドにもぐりこんだ。

 
 キシ……

 寝台が軋んだ。

 ”来た……でも、まだ早い……”

 息を殺して時を待つ。


 侵入は呆れるほど簡単だった。 黒服の女と入れ替わりに、屋内に入ってすぐ、別の女と鉢合わせした。 しかし、愛想笑いを浮かべ、トイレを聞くと、

彼女は笑顔でトイレの場所を教えてくれた。

 ”人が多ければ、一人ぐらい紛れても判らない……”

 トイレの中でしばらく待機し、人の気配が絶えたところで外に出て、寝台の下に潜んだ。 大きな乳房には向いていない場所だが、何とか収まった。

 ”ここまでは、上出来……”

 気づかれずに潜めたことを満足に思いつつも、使命はこれからだ。

 ”時を待つ……”

 程なく、室内に寝息が満ちる。

 ”では……”

 慎重に乳首を露出し、意識を乳房に集める。

 ”誘い、惑わせる……”

 モゾリ……

 乳房が、そこだけが別の生き物のように脈打ち、やがて乳首から霧状の『乳』が噴き出した。 『乳』の霧は、床の上を這うように広がり、部屋の空気に

混じっていった。

 ’ん……’

 寝台の上から声が漏れた。

 ’うん……’

 キシキシ……

 寝台が、細かく揺れる。 上の人が動いているようだ。

 ”ふ……”

 息を吐き、強引に胸を引いて寝台の下から滑り出る。 音をたてぬように慎重に動いて、足の方に回る。 膝立ちで体を起こし、『乳』の霧をそっと噴霧

する、寝台の上の人影に向けて……

 ’ん……ん……’

 布団がモソモソと動いている。 足の方の布団をそっと持ち上げ、並んだ足の上に乳房を滑らせる。

 ’あ?’

 流石に気がついたようだ。 が、構わずに下腹部に手を伸ばした。

 ビクン……

 固く反り返ったモノが手の中に納まった。

 ”え?……男?……”

 ターゲットではなく、そのつがいの相手の方だった。

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