ボクは彼女

38.乳来たる


 「まさか……こんなことになるなんて」 エミ先生が呻いた。

 「ああ……全く」 刑事さんが苦い声で応じる。

 「それで? どうなさるのですか?」 舞さんが固い声で尋ねた。

 「取りあえず……このうっとうしいのを、なんとかしてぇ!」 麗が悲鳴を上げる。

 「うっとうしいとは? 意味が判りませんが」

 首をかしげたのは『クイーン・ドローン』さんだ。 ここは、舞、麗姉妹の家の応接間だ。 六畳一間の応接間に、僕を含めて11人の人間(?)が集まり、

入りきらず廊下にはみ出している。 残りの5人は、『ドローン』達4人と、初対面の女性が一人(エミ先生は牛女と呼んでいる)という構成だ。半分以上の

6人がGカップを超え、室内の『乳圧』が凄いことになっている。

 「だめだ、耐えられん。 俺は表に回るぞ。 外の連中も抑えないとな……」

 刑事さんが、乳をかき分けて玄関に行った。 外の喧騒が伝わって来る。

 「もう9時を回っているのに、なんてぇ騒ぎだ」

 「ご近所様から苦情がきますわ」

 「はぁ」

 僕は深々と溜息をついた。

 
 騒ぎの発端は、今日の夕方に起こった。 街中で『スーパー・ドローン』を警戒していたお巡りさんが、失神した状態で発見されたのだ。 お巡りさんの

話では、『スーパー・ドローン』とおぼしき女に襲われ、僕と麗の住所を聞きだされたと報告したのだ。 お巡りさん曰く『とても人間とは思えない、巨乳で

した』とのこと。 それで、『スーパー・ドローン』の襲撃が、現実味を帯び、エミ先生、刑事さんが応援を頼んだのだったけど……

 
 「失敗したかなぁ……」

 エミは窓から外を見た。 夜も遅いのに、人影が絶えることはない。 警戒中の警官も居るが、それは少数で、若い男、やたらに色っぽい女、明らかに

日本人ではない男女が散見される。

 「若い男は、『巨乳宇宙人襲来』のうわさを聞き付けた大学生ね……」

 どこから話が漏れたのか。 『スーパー・ドローン』襲来のうわさを聞きつけ、暇な学生が大挙してやって来たのだ。 さすがに高校生は警官が追い返し

たが、大学生となるとそうもいかない。 そして彼らが『巨乳宇宙人』を探して、この辺りをうろついているという訳だ。 見ていると、学生の一人が白人

男性とぶつかった。 早口の外国語で文句を言われ、学生が頭を下げている。

 「あの男達は……諜報関係かしらね……」

 マジステール大学に『クイーン・ドローン』達が居ることが知れ渡ってから、大学の周りでは、職業不明の外国人を見かけることが多くなった。 エミ自身も、

一度ならず尾行されている。 おそらくは、『宇宙人』の情報狙いの諜報関係者だと推測しているが、確たる証拠はない。

 「『宇宙人』情報のアンテナを広げていたのね。 迂闊だったかも」

 トラブルの現場に、警戒中の警官がやって来ると、外国人はその場を立ち去った。 しかし、今度はご近所の住人がやって来て、警官に文句を言っている。

 「無理もないか……」

 警官、諜報関係、学生が群れを成してやって来て、夜も遅いのに辺りをうろつきまわるのだ。 しかも

 「『おっぱいはいたか』、『おっぱいは出たか』だものね」

 住民は警官に宥められてその場を離れ、学生も、数人が帰宅したようだ。 しかし、外国人の方は数が減らず、色気たっぷりの女達も……

 「応援のつもりで呼んだんだけどなぁ……」

 女達とひとくくりで呼んだが。 若い娘も居れば、やや年のいった女もいる。 スポーツ選手のように逞しい女もいれば、たおやかで儚げな女もいる。 

この女達は、エミの知り合いの人外の者達、通称『人外部隊』と、魔女『如月麻美』の使い魔たちだった。 集まった当初は、それなりに張り切っていのだが、

今は皆、不機嫌そうな顔で辺りをうろつつき、時折こちらに刺すような視線を投げつけてくる。

 「まずったなぁ……」

 表にいる警官、学生、諜報関係者、人外部隊は、仲間内はともかく、違う集団同士では互いに面識はなかった。 それが、普通の住宅街に集まり、顔も

知らない『巨乳宇宙人』を捜し始めたのだ。 当然の結果として、誤認によるトラブルが頻発、そのたびに警官が駆けつける騒ぎとなった。 『巨乳宇宙人』と

間違えられたのは、大学に身を寄せている『ドローン』達と、人外女達の一人、巨乳牛女。 彼女たちは、警官に職質されたり、諜報関係者に襲われかけ

たりと散々な目にあった。 そこで、間違えられやすい面子を、舞、麗姉妹の家に招き入れた。 これで誤認によるトラブルはなくなった。 しかし。

 「『巨乳』を隔離した。 という事は、他の連中はそこまでは大きくない、と明言したようなものだもねぇ」

 おかげで、外に残った人外部隊の面々の機嫌が一気に悪くなった。 怒って帰ってもおかしくなかったのだが、それでは、何のためにここに来たのか

判らなくなる。 今晩だけでも、働いた実績を残さないと『報酬』が得られないからだ。

 「ま、いいか。 諜報関係の連中を引き受けてもらえば、機嫌も直るでしょう」

 エミは呟き、空を見上げる。 月が明るい。

 「今回は空を警戒する必要はないわよね……」

 エミはカーテンを閉め、その場を離れた。

 
 ”警戒がきびしい……”

 陰に身を潜め、辺りを伺う。 通りごとに、2、3人の人影がある。

 ”もう少し、待つべき?”

 ザッ……ザッ……

 足音が近い。 胸を弄ると、蠱惑的な香りがあたりに漂う。

 ザッ……ザッ……

 足音の主は、目の前を通り過ぎて行った。 乳から放った香りの効果で、見張り達は自分を認識できない。

 ”でも、数が多すぎる……”

 見張りの中には、自分の同類もいる。 気づかれたら、誤魔化しきれない。

 ガヤガヤガヤ……

 見張りが騒いでいる。 見張り同士のトラブルだろう。 数人がその場を離れ、去っていったようだ。

 ”待っていれば、数が減る……今の半分ぐらいなら……”

 見張りの数が少ない場所に移動し、様子を伺う。

 見張りの数は次第に減り、通りを歩く見張りが途切れがちになってきた。

 ”……”

 気配を誤魔化しつつ、目標の家に近づく。 さすがに入り口の前に見張りがいる。

 ガヤガヤガヤ……

 近くでトラブルが起こり、見張りがそちらに行った。 さらに扉が開き、黒服の女が出てきてトラブルの方に歩いて行った。

 ”いま……”

 足音を忍ばせ、開いた入り口から中に入った。

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