ボクは彼女

37.迫りくる魔の


 「それで……僕と麗は具体的にはどうすればいいんですか?」

 放課後になって、僕と麗は、エミ先生たちに呼び出され『一層注意するように』と言われた。

 「注意しろと言われても」

 「ねぇ」

 頷き合う僕らに、エミ先生も困り顔だ。

 「『マザー2』の『スーパー・ドローン』がどんな手を使うのか、皆目わからないのよ」

 「その辺が、今一つ理解できないんですけど……だって『マザー2』と『マザー』は、情報を共有しているですよね? そして『スーパー・ドローン』は

『マザー2』の指示を受けている。 なのに判らないんですか?」

 「うーん……そうねぇ……『マザー』達は人間の事が良く判らないみたいなの」

 「判らない?」

 「そう。 人間の思考方法、生活パターン、行動原理よ」

 「それはそうでしょうね」

 「だから、特定の人間を捕まえる方法が判らないの」

 「でもぉ、海岸にいた人たちを拉致したんでしょう?」

 「あれは、捕まえやすいところにいた人間を捕獲したのよ。 特定の人間を狙った訳じゃないわ。 例えて言うなら、サルの群れから『どれでもいいから

一匹』捕まえるのと『特定の一匹』を捕まえる場合の違いね」

 「サルゥ? むー」

 サルに例えられ、麗がむくれた。

 「そう言われると、少しわかった気がします。 それにしても、『マザー2』はどうしてそんな乱暴な手段に出るんですか?」

 僕が言うと、同席していた太鼓腹先輩が同意する。

 「ホントですよ。 『マザー』はここに攻めこんできましたけど、その後は『ドローン』を通じて、僕らと平和的な関係を持とうとしていますよね? なのに

どうして『マザー2』はこんな手段に出たんでしょうか」

 太鼓腹先輩の疑問に、ランデルハウス教授が答える。

 「これは、私の私的な意見だから、そのつもりで聞いて欲しい。 『マザー』は宇宙人というか、知性を持った宇宙船の様な存在だ」

 「はい? それは聞いた気がします」

 「うむ。 そして『マザー』達は、探検家で科学者だ。 地球の生物の生態を調査するためにやってきた」

 「学者さんですか? それにしては随分と乱暴な事をしていますが」

 「そうだよ」 麗が同意した。

 「確かにそうだ。 我々から見ればな。 しかしだ、逆の立場から見たらどうだ? 未知の生物が済む惑星にたどり着いた。 そこには興味深い性質を

備えた生物が生息している。 幸い大量にいるみたいだから、何匹か捕まえて、研究材料にしても問題ないだろうと考えるのではないか?」

 「……ええー!」

 「それはそうかもしれませんけど……知的生物に対しては、あんまりじゃないですか!?」

 抗議の声を上げたのは僕たちだけだったけど、太鼓腹先輩と刑事さんも驚いた顔で教授を見ている。 エミ先生は、さもありなんという顔で話を引き継ぐ。

 「研究される側からしたら、たまったものじゃないけどね。 おそらく『マザー』達の人類に対する考え方なんて、そんなものでしょうね。 『マザー』にしても、

私達を対等の相手とは見なしていないと思う」

 僕らは唖然とした。 『クイーン・ドローン』さん達を通じて『マザー』と友好を結べていると思っていたのだけど、エミ先生とランデルハウス教授は、そう

思っていなかったという事のようだ。 そうなると、不安材料が増えたことになる。

 「じゃぁ『クイーン・ドローン』さんが、裏切ることもあり得ると?」

 「その可能性は小さいと思うわ」

 エミ先生は僕の不安を否定した。

 「『クイーン・ドローン』は『マザー』の支配下にあるわ。 裏切るつもりなら、『マザー2』の事を秘密にしてるわよ」

 「……」

 エミ先生の話を聞いても、一抹の不安は拭えなかった。

 「せめて、『スーパー・ドローン』の特徴だけでも判れば……」

 「そんなの簡単じゃないですか」

 言い放ったのは太鼓腹先輩だ。 僕らは驚いて先輩を見た。

 「『ドローン』化された人間は、皆ものすごい巨乳になっていました。 『スーパー・ドローン』というからには、巨乳を通り越して、爆乳に違いありません」

 「おいおい」 苦い顔をする刑事さん。

 「……いえ、その通りかもしれないわ」

 皆がエミ先生を見た。

 「『ドローン』化された人間の、乳房の部分には、『マザー』との通信器官や未知の分泌器官が収められているの。 多分、『スーパー・ドローン』の乳房は

Gカップかそれ以上あるはず」

 「ほんとかよ……まいったねどうも」

 「山之辺さん。 署に連絡して、巨乳の女性を見かけたら連絡するようにしてもらえます?」

 「……了解」

 
 ザワザワ……

 雑踏の中。

 無遠慮な視線を感じる

 ’よう嬢ちゃん’

 ”……”

 ’シカトかよ’

 伸びてきた男の手を軽く払う。

 ’つっ?’

 驚いて手を押さえる男。 力を入れすぎたようだ。 幸い、その男は踵を返して姿を消した。

 ’きみ?’

 今度は誰何の声。 振り向くと背広姿の男性が立っていた。

 ’君は……学生か? まだ授業中だよ

 ああ 補導員だ。

 ”私、そんなに幼く見えます?”

 作り笑いをし、胸を張る。 締め付けられて、服が張り詰める。

 ’……い、いやすまん’

 顔を赤くして、去っていく。 たわいのない男だ。

 ”くすっ……”

 他の『ドローン』達からいろいろ教わってきたが、男のあしらい方が一番役立つようだ。

 ”さて……”

 『目標』の二人を探さねばならない、二人の通う学校の場所、二人の名前までは判っている。 『マザー2』からはそれ以上の情報が来ていない。

 ”知人のふりをしてみようかしら……”

 『マザー2』は、人間社会の情報をほとんど持っていない。 だから、二人を特定し、拉致する手段は一任されている。

 ’きみきみ、待ちなさい’

 またも誰何の声。 振り向くと、警官だった。

 ’どこに行くのかね’

 妙に表情が固く、視線が下向きだ。

 (おや?……ああ)

 ”くすっ……うふふふっ”

 ’な、なにかおかしい事を……あ、待ちたまえ’

 小走りで路地に逃げ込み、急停止して半回転しながら軽くジャンプ。 慌てて追いかけて来た警官の顔が、胸の谷間に埋まる。 

 ’うわっぷ’

 ”くすっ……”

 素直になる乳を噴霧。 警官はすぐに大人しくなる。

 ”どうして追いかけてきたの?”

 ’おっばいの大きい女が……高校生を狙って……’

 ”まぁ、それは大変。 誰が狙われているの?”

 警官が口にした名前は、私の目標と一致した。

 ”その事を知らせてあげないと。 二人のおうちはどこ?”

 ’それは……’

 警官は、二人の住所を教えてくれた。

 ”ありがとう、お巡りさん”

 ’いえ、どういたしまして……’

 警官が去っていくのを見届け。 反対方向に歩き出す。

 ”では、夜這いをかけましょうか……ふふっ”

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