ボクは彼女
35.融合と変異、拉致対策
”どこへ?”
微かな疑問は、体を包む滑りに拭い取られる。
ヌルリ……ヌルリ……
”あぁ……”
ふくよかな胸、張り出した腰、細い腕と足、体の全てが滑る肉に包まれ、愛撫される。
”もっと……”
内から溢れる思いのままに、足が前へ進む。 一歩、また一歩、前に進むたびに、心が快感に洗われていく。
”あ……あ……”
自分の秘所がヒクヒクと呻き、愛の滴がつきることなく湧き出すのが判る。
”あっ……くぅ……”
達するのと同時に、滑る壁から解放された。 床にへたり込んで辺りを見る。
”……”
そこは薄暗く赤い空間。 壁が静かに脈打っていた。
『到達……終点……さぁ全てを委ねなさい』
『声』がして、前方の壁が揺れた。 形のはっきりしないものが、蠢きながら近寄ってくる。
”なに?……”
半透明の塊から、人の頭……女の頭が現れ、上に伸びていく。 肩、胸、腹……植物が地面から生えるように、塊から半透明の女が『生えて』きた。
”……”
ズッ
『女』が一歩前に出た。 『外』にいたクラゲ女に似ているが、こちらの方が柔らかい感じがする。
テヲ……
女が手を前に差し出す。
ズクン……
女の手を取った。 柔らかく、粘っこい手に指がめり込む。 そのまま吸い寄せられるように立ち上がった。
オイデ……
女が手を引く。 体が女の腕に抱き留められた。
ヌチャァ……
女の胸に自分の胸が密着した。 が、そこで止まらない。 ゆっくりと自分の胸がにめり込んでいく。
”あ?”
戸惑いと、恐れに声が漏れる。 反射的に女から離れようと、腕に力が籠った。
イイコ……
女が唇を奪う、 女の両手が背中に回り、肌に張り付く。 女の足が、自分の足の間に入り込み、太腿が秘所に粘りつく。
ジュン
”あっ……”
触わられた箇所が熱くなった。 熱はすぐに冷め、生暖かい何とも言えない、不思議な感触に変わる。
”これ……なに……ああ……”
弄られる場所が熱くなり、そしてヌルヌルに覆われていく。 得も言われぬ心地よさに、ため息が漏れる。
”蕩けそう……”
『正解……的中……その通り。 手をご覧なさい』
言われるままに手を見る。 女の手が、厚手の手袋のように自分の手と重なっている。 そして女に包まれた、自分の手の皮膚が溶け始めていた。
”溶けちゃう……”
他人事のように呟く。 本当に肌が溶けているのであれば、酷く痛むはず。 なのに痛むどころか……
”どうして……痛くない……の……”
女にズフズブと呑み込まれながら、ぼんやりと呟く。
『回答……説明……その『女』は貴女の肌と入れ替わっている……痛みを感じさせない様に……』
”そう……なの……”
うつろな声で応える。 女に包まれているところから、文字通り蕩けるような感覚が伝わり、それが広がっていく。 そして、女の体と自分の体が溶け合い、
一つになっていくのがわかる。
”あっ……”
体から力が抜け、崩れる様に床に倒れる。 絡みついた女も一緒に倒れた。 そのまま二つの体は一つに溶けあっていく。
”気持ちいい……”
『融合……合一……そのまま浸っていなさい。 融合が完了するまで』
”は……い……”
二つの女体は、蠢きながら一つに溶けあい、新しい形に変わっていった。
−−麗の家−−午後10時−−
「それじゃ私は帰るわね」
今日は刑事さんが泊まり込み、エミ先生は『帰宅』することになった。 明日は、刑事さんが別の人と交代するらしい。
「二交代だときついな」と刑事さんがぼやく。
「私は民間人(?)よ」
そう言ってエミ先生が変えると、麗がほっとした様子になった。
「嬢ちゃんは、エミが苦手かい?」
「そうじゃないけど……あのひと、男子学生に女の手ほどきしてるのよ、講義で」
刑事さんがお茶にむせた。
「高校生相手に、なんてことをしてるんだ、あいつは!」
「いえ、大学部で20歳以上の学生限定の講義ですよ」
僕がが弁護に回る。
「それに講義の内容は、避妊の大切さ、SEXは互いの気持ちが肝心とかいうことを……」
「でも希望者には体位の手ほどきとか、腰の動かし方を教えてるとか……」
「あいつ……まぁ、正式な講義ならどうこう言う話じゃないか……。 おっとそうだ」
刑事さんは背広のポケットから、スマホを2つ取り出した。
「連絡と、位置確認用だ。 これを肌身離さず持っていろ」
僕らはスマホを受け取る。
「万一、拉致されたとしても、これで位置が判る」
「肌身離さず? 入浴中も?」
「その方がいい。 相手は宇宙人、いつ、どんな手で来るか判らん」 真顔で応える刑事さん。
「宇宙人……姿を消すとか、知人に化けるとかできるんでしょうか?」
「さぁどうだろうな。 もっとも、そういう能力なら、『盗み』や『スパイ』には便利そうだが、『拉致』に向いているわけじゃない」
隣で麗がうんうんと頷く。
「考えてみれば、特定の人間を狙って拉致するのは、大変だぞ。 宇宙人でも無理じゃないか?」
「でも、海岸で誘拐された人たちがいたとか」
「彼らは、狙って拉致されたわけじゃない。 拉致しやすい条件がそろっていたから、宇宙人が拉致したんだ」
刑事さんは僕らの顔を見つめた。
「目標を決めて拉致するにしてもだ。 学校と家では困難だろう……危険なのは通学路……いやまてよ」
刑事さんは首をかしげた。
「拉致の実行前に問題があるな。 宇宙人は、君らをどうやって特定するつもりだ?」
『え?』
「宇宙人は、君らの……『特殊能力』か? それを持っている人間がいることは知っているらしいが、『誰が』ターゲットだか知っているのか?」
『さぁ?』
刑事さんは盛大なため息をついた。
「あす、大学の宇宙人に確認せんといかんな。 『マザー2』とやらが『目標』の情報をどれだけ掴んでいるかをだ」
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