ボクは彼女

34.一つのアイデァ、誘う裂け目


  (麗の)家に帰り着くと、舞さんから連絡がきた。 仕事で一週間ほど帰れないと言うことだった。

 「舞さん、なにしてるんだっけ」

 「ファッションモデル。 あ、衣装のコーディネイトもやってた」

 それを聞いた刑事さんが、残念そうな顔をした。

 「お茶いれますね」

 「いや、かまわんよ。 それより、どこか寝泊りできる部屋はあるか?」

 麗が驚いた顔になった

 「居間ぐらいしか……でも、寝具が用意できない」

 「上等上等。 車の中で寝泊まりすることを思えばな」

 「エミ先生も来るんじゃ?」

 「ああ、そうだったな」

 麗がお茶と茶菓子を持ってきた。 しばらく雑談していると、エミ先生がやって来て、居間で今後の事を話し合うことになった。

 
 「さて、エミさんよ。 正直なところ『宇宙人』がこの二人を狙っているという話、信じられないんだが」

 エミ先生はお茶を飲むと、刑事さんの顔を見つめなおした。

 「上の人は、護衛の件、承知してくれなかったの?」

 「いや。 しぶしぶだったが、この二人の護衛の件は承諾してくれた。 名目は『不審者がこの家に侵入し、その後も近くで目撃されている』という事で、

被害届も出ていることになっている」

 「えー? そんなの出してないよ?」 麗が面食らった顔で言った。

 「そこは話を合わせてくれや。 届け出も無しに、護衛にはつけないんだ」

 「そこは警察に感謝ね」 エミ先生が言った。

 僕は首をかしげた。

 「あの。 良く判らないんですけど。 どうして『宇宙人』が僕らを狙うと確信してるんですか?」

 「そうだよ。 ストーカー被害や誘拐未遂があったわけじゃないのに」

 麗が頬を膨らませる。 彼女は、刑事さんとエミ先生が止まるのを歓迎していないようだ。

 「大学で少し話したけど、『宇宙人』の情報は『クイーン・ドローン』を通じてもたらされたの」

 「そこが判らないんです。 だって『クイーン・ドローン』も『宇宙人』……の手先なんですよね? なんでそんなことを教えてくれるんですか?」

 「同じ『宇宙人』でも、立場が違う……らしいの」

 さっぱりわからない。

 「そうねぇ……例えば……大学では『宇宙人(の手先)』を保護し、自由に行動させているわよね」

 「ええ」

 「ところが、某国では彼らを侵略者と考え、潜水艦で攻撃した……らしいの」

 「そんなことがあったんですか」

 「同じ地球人の組織なのに、大学と某国では全く違うアプローチで彼らに接している。 これと同じで『宇宙人』も、立場が異なる者がいるらしい……のよ」

 「『宇宙人』同士が敵対しているのですか?」

 「敵対まではいかないみたい。 この場合はそうねぇ……研究対象に対して、放置して観察するか、捕獲して解剖するか、そう言う方法論の違い

みたいなものかな」

 僕と麗は顔を見合わせ、憤然として抗議する。

 「そんなの冗談じゃないですよ。 知的生命体同士なんでしょ!? 平和的な話し合いはできないんですか!?」

 「こっちがそう望んでも、向こうがこちらをどう見ているか、なのよね」

 エミ先生は難しい顔になった。

 「例えば……ペットを飼った経験はある?」

 「実家で犬を飼っています」

 「犬の方は、人間を対等の仲間、もしくは群れの上位者と認識しているというわ。 一方で人間は、ペットを所有物と考え、生かすも殺すも気分次第……」

 「そんな!? 家族同然だと思っています!」

 「貴方はそう思っても、他人はどう? よその家のペットを人間と同等とはみないでしょ? 商品と見る人もいるし、食用にする人もいるでしょう」

 「なるほど」

 刑事さんが頷いた。

 「『クイーン・ドローン』の上位者の『マザー』は人間を対等な相手として接し、『マザー2』は人間を格下の相手として、捕獲して研究しようとしていると

いうことか?」

 「それで正解だと思う」

 エミ先生は淡々と話したが、狙われている僕らにしてみたら、とんでもない話だ。

 「じゃあ、僕らは『宇宙人』に捕まったら……実験動物として解剖されるんですか!?」

 「『マザー2』が、貴方達をどう扱うかまでは判らないわ。 『マザー』と『マザー2』は情報を共有しているけど、データを共有している程度で、互いの考え

までは判らないらしいの。 ただ『マザー2』が、貴方達のデータを詳細に分析し、居場所を特定しようとしていることから、捕獲しようとしていることは間違い

ないと『マザー』は判断したらしいわ」

 「じゃあ、『マザー』は僕らの味方なんですか?」

 「多分、味方じゃないわね。 『マザー』は研究対象が消失するのを避けたいだけと思う」

 僕は唇をかみしめた。

 「じゃあ『マザー』に匿ってもらう訳にもいかないですね」

 『ええーっ!?』

 エミ先生だけでなく、麗と刑事さんが驚きの声を上げた。

 「そんなことを考えてたの!?」

 「だって、相手は『宇宙人』なんでしょ? どんな手を使ってくるか判りませんけど、同じ『宇宙人』なら対抗できるんじゃないですか?」

 エミ先生は、黙り込んで何か考えだした。

 「『マザー』なら、二人を守るか??……いえ、『マザー』の行動基準が判らない……」
 

 …

 ……

 ………

 目を開ける。

 ここで目覚めるのは何回目だろう。

 そんなことを思いながら起き上がった。

 ”ん……”

 体のあちこちがだるい。 痛みはないが、力がうまく入らない。

 『起床……覚醒……目が覚めた?』

 ”はい”

 『声』の問を理解する前に、口が勝手に答えていた。

 『成長……確認……立ち上がって、よく見せて』

 体を起こして、立ち上がる。 背筋を伸ばして前を向いた。 正面には薄い膜のようなモノが壁があり、そこに姿が映っている。

 ”あ……”

 均整の取れた女の体が映っている。 見慣れない姿だが、それが今の自分だと判る。

 『良好……十分……準備はできたわ』

 ヌチャァ……

 横手の壁で、湿った音が響いた。 そちらを見ると、肉色の壁が縦に、縦に細長い裂け目が開いていた。

 ”それは?……”

 『受容……変異……そこは、貴女を私のモノにすたるめの……』

 ”ママの……”

 トロトロと透明な滴を流しつつ、裂け目が口を開け、赤黒い闇が見えてくる。

 フワリ……

 ”あ……”

 肉の……そして甘い匂い……それを吸い込む……意志が……消える……

 『招致……誘引……おいで……』

 スタ……スタスタスタ……

 ヌル……ヌルリ……

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