ボクは彼女

31.お久しぶりの主役の二人


 −− 一週間後 マジステール大学付属高校 −−

 (なんかひさしぶり)

 僕は、朝のクラスの喧騒に年よりじみた感慨を覚えた。

 ドン

 遠慮のない一撃が背中にヒットする。 振り向くと、屈託のない麗の笑顔があった。

 「なーに黄昏てんだよ。 さては中間考査の結果が悪かったな」

 「元気だね、麗は」

 「元気が一番!」

 先週の中間考査期間中、麗は別人のように元気がなかった。 当人曰く『魂が試験用紙を拒絶して、体から逃げ出しそう』な状態だったらしい。 麗が

言うと、シャレにならないけど。

 「試験も終わったし、今日あたりから『代わらない』?」

 「そうだね……」

 「なんだよ。 その、気の無い態度」

 プクッと麗が頬を膨らませ、不満を表明する。 麗が『代わらない』と言っているのは、ベッドインして『体』を交換しようと言うことだ。 試験中は控えて

いたし、麗と過ごしたい気分でもあるけど……

 「今日はクラブに顔出ししない?」

 「クラブ?……ああ」

 先日僕たちは、大学の『UMA研究クラブ』を見学した。 その時に『クイーン・ドローン』と名乗る巨乳の外人さんに引き合わされた。 なんと彼女は

『宇宙人』のエージェントだと言うのだ。 巨乳外人ではなく、巨乳人外と言うことになる。 彼女は、『魂の交換』ができる麗(と僕)に強い興味を示し、僕ら

(主に麗)に『魂の交換』の方法について根掘り葉掘り聞いてきたのだった。

 「また質問攻めにあうんじゃない?」

 「でもこの間はっきり答えたよね。 『なんでこんなことが出来るのか、判りません』て。 『クイーン・ドローン』さんも納得してくれたし」

 「でもねぇ……」

 「時々顔だししてって言われし、そろそろ顔出ししたほうがいい様な気がするんだ」

 「『先手必勝』か」

 「誰に勝つの?」

 
 放課後、僕らは大学部の構内を横切り、『UMA研究クラブ』に向かった。 しかし到着前に、新研究棟の前でエミ先生にばったり出会った。

 「木間君、シェアーズさん?」

 「エミ先生。 これからクラブに顔だししようかと」

 「ちょうどよかったわ。 これから私と、教授の所に来てくれない?」

 「あのラン……教授ですか」

 僕らは、エミ先生と一緒に、新研究棟のランデルハウス教授の部屋に入った。 そこには先客がいた。

 「『クイーン・ドローン』さん?」

 教授の部屋には『クイーン・ドローン』と、初老の男性、ランデルハウス教授が向かい合って座り、何か話していたようだ。 表情からして、あまり楽しい

話ではなさそうだ。

 「教授、丁度二人と会ったので、一緒に来てもらいました」

 エミ先生が言うと、初老の男性の表情がさらに険しくなった。

 「おいおい。 学生に聞かせる話じゃないぞ」

 その人は、僕らに向き直る。

 「すまんが、君達は外で待って……」

 エミ先生が男の人を制する。

 「山之辺さん。 この二人は関係……『警護対象者』なんです」

 「なに」「え?」「どういうこと?」

 男の人(多分、山之辺さん)と僕、麗が戸惑いの言葉を口にした。

 「説明します。 貴方達も座って聞いて」

 
 エミ先生が僕たちに話したのは、にわかには信じられない話だった。 『クイーン・ドローン』の『上位者』として『マザー』と呼ばれる存在がいて、その

『マザー』が、『魂の交換』に強い興味を示している。

 「クラブで『クイーン・ドローン』が貴方達を質問攻めにしたのは、この『マザー』の意向に沿ったからなの」

 「それはこの間、聞きました」

 「そうそう」

 「その後の事なんだけど……」

 エミ先生は、『E海岸』に『マザー』と『ドローン』の同類が現れ、そこにいた男女6人を拉致した事件が起こったことを告げた。

 「この件は、山之辺さんは詳しくご存知ですね」

 「ああ。 まだ捜査中の資源で、外部に漏らしていいわけじゃないぞ。 それと、その二人が『警護対象者』になると言うことの説明がないぞ」

 「それは……」

 エミ先生が、口を開きかけた時、扉が開いてピンク色の少女(小悪魔ミスティ)が入って来た。

 「それはねぇ、ミスティが教えちゃう♪」

 「何?」「出たぁ!」「大根娘の親玉!」

 僕は腰を浮かし、麗が『戦闘態勢』をとり、山之辺さんはあっけにとられている。

 「だから、お茶とお菓子、頂戴な」

 「あんねぇ……」

 話の腰を盛大に折られたエミ先生が、握りこぶしを固め、ワナワナと震えていた。

 
 「そんでぇ、この二人を『守る』理由が知りたいのねぇ♪ それはぁ……」

 バキッ

 エミ先生の手の中で鉛筆が折れた。 怒りに震える目でミスティを見ている。

 「手短に」

 「はいっ。 『E海岸』に現れたのは、『マザー』とは別の『マザー2』と彼女の配下の『ゾンビ・ドローン』なの。 『マザー2』は、『マザー』と同じく、『魂の

交換』に非常な興味を持ち、その技が使える木間、シェアーズ両氏を拉致し、研究しようと画策しているのよ。 よって、二人を『マザー2』から守る必要が

あります。 以上!」

 『……え?』

 全員の表情の変化は見事だった。 山之辺さんはあっけにとられ、エミ先生とランデルハウス教授は驚きを隠せず、『クイーン・ドローン』もやや驚いた様子。

そして僕と麗は……さっぱり訳が判らないと言う顔をしていた。

 「ミスティ、なんでそんなことを知っているのよ」

 「えーと……この台本にそう書いて……」

 「わわ、判った判った」

 エミ先生がミスティを慌てて止め、こちらに向き直った。

 「彼女の言ったことは、この1週間、私、教授、『クイーン・ドローン』が、情報を分析して出した推論と同じよ」

 「その推論、確かなのか?」 山之辺さんが首を傾げた。

 「さっきまでは、確信が持てなかったわ。 だけど、最悪の場合、この二人の身が危ないと思って、警察に連絡したの」

 『け、警察ぅ!?』

 僕と麗の声がハモッた。

 「この人は、刑事さんなんですか?」

 「ああ、警官だよ」 山之辺刑事はむすっとした顔で言った。

 「それよりエミよ、確信が持てなかったと言っていたが、今は確信しているんだな?」

 エミ先生が頷いた。

 「証拠と推論の過程は、別途まとめてあるから帰りに渡す……渡します。 とにかく、この二人を保護してもらえないかしら」

 「しかし……」

 「保護を依頼したのに、警察が渋って二人が拉致されたりしたら、問題よね」

 山之辺刑事が思いっきり顔をしかめる。

 「上には話を通すが、正式に動くには時間がかかる。 俺と川の字だけじゃ人手が足りん、お前さんにも協力してもらうぞ」

 「仕方ないわね……使えるのは……あの子の使い魔から牛と馬と兎を……」

 ぶつぶつ言い始めたエミをよそに、山之辺刑事は僕と麗に向き直った。

 「お前さん……あ、いや、そう言う訳だ。 君らの身辺警護を、俺たちと彼女の友人で行うことになった」

 「はぁ……」

 話が飛びすぎて、僕と麗はまだ事態が理解できていなかった。

 「木間君とシェアーズさんだっけ? それぞれの住所と電話番号を教えてくれるか」

 山之辺刑事が手帳を取り出し、麗が応じた。

 「あ、それならぼくんちだけでいいよね。 木間君はいつも泊まりに来るから、しばらく泊まりっぱなしにすれば」

 「おうそうか、それなら……なに?」

 山之辺刑事が顔を上げた。

 「泊まり? 君と君が?」

 コクコクと頷く僕ら。

 「親戚か? いとことか?」

 『とんでもない』

 山之辺刑事が手帳をゆっくりと閉じ、怖い顔で僕らを見た。

 「よし、お前らを『不順異性交遊罪』で逮捕する。 留置場に放り込めば、これ以上安全な場所はない」

 「えー!」「そんな罪ありませんよ!?」

 「やかましい! さかりのついたガキどもがぁ!」「ちょっとちょっと!」「いやー、こりゃ大変♪」

 大騒ぎになった。

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