ボクは彼女

27.『拾った』わけ


 『体を動かしてみなさい』

 声に言われるまま、手足を動かしてみる。

 ズキッ

 うずくような痛みがあったが、動くのに支障はない。

 ”動く……よ”

 『では起きて』

 ”ん……”

 手足を動かしてみる。 ゆっくりと。

 ”よいしょ……”

 手を突っ張り、上体を起こす。 体が重くなり、肌から水が滴り落ちる。

 ”あれ?”

 見回すと、自分が『ぬるま湯』に座っているのに気がついた。 『ぬるま湯』の温度が体温と同じぐらいなので、気がつかなかったらしい。 手ですくうと、

掌が白くなった。 匂いを嗅ぐと、微かに牛乳の匂いがする。

 ”これは?”

 『栄養のある液体……『乳液』よ。 体を浸していれば、傷の回復が速くなるわ』

 体を触ってみる。 最後の記憶では、かなりの痛みがあった。 手足が折れていても不思議はないはずだが、深い傷はなく、手足も動く。

 『かなり壊れて……ひどく傷ついていたから、そこに浸して直した……回復させたの』

 ”そう……あの……”

 『?』

 ”ありがとう”

 感謝の言葉を口にしたのは随分久しぶりだと、頭の片隅で思った。

 
 チャプ……

 近くで水音がした。 そちらを向くと、白い肌をした裸の女性が立っていた。 彼女を見て気がついたが、自分も裸だった。

 ”あ……”

 顔を赤らめ、もぞもぞと前を隠す。

 『どうしたの?』

 彼女が声の主かと思ったのだが、声は別の処から聞こえた。

 ”えと……裸だと恥ずかしいんだ……ですけど……”

 『恥ずかしい?……良く判らない……裸?……服……服を着ていないと恥ずかしいのね?』

 ”うん……あ、いや……はい”

 『これから貴方をもらう……私のものにするのに……服を着ていると、障害が……服が邪魔なのだけど……』

 ”そうなんですか?……わかりました”

 同意をしめすと、傍に立っていた女性が手を差しだした。 その手を取ると、手を引っ張って立たせてくれる。

 『ありがとう……ございます』

 礼を言ったが、女性は無反応だ。 いぶかしんでいると、声がした。

 『戸惑っている?……なにか?』

 ”あ、この人が……なにか人形みたいで……”

 『その人間……女性は、私が完全に制御……支配……操作しているの。 だから、あなたの声に反応しないの』

 ”そうなんですか……”

 少し寒気を感じ、震える。

 ”僕も、あなたのモノになると、こんなふうになるの?”

 『いえ……自律……意志……あなたには、意志を持って動いて、私にに外界との連絡……私の眼と耳になってもらうの』

 ”眼と耳”

 『そうよ』

 話が終わると、女性は手を引いて歩き出した。 彼女に従い、『浴槽』から出て歩いて行くと、別の『浴槽』があり、別の女性が二人、『浴槽』の脇の床に

蹲っていた。 ここに入れという事かと思いながら、『浴槽』の中を見る。 さっきの『浴槽』と同じように白い湯のようなもので満たされていた。 甘ったるい

匂いが、あたりに漂っている。

 ”ここに……入るの?”

 『ええ……こちらは変態……変身……成長液……クリームよ』

 ”成長クリーム?”

 『そう……このクリームは、あなたの体を成長させるの……受胎可能体……母体……女性として』

 ”え……まさかここに入ると……女の子になるの?”

 『そう……動揺?……ネガティブ?……嫌……なの?』

 ”……どちらかと言うと……嫌かな?”

 崖から自分を『捨てた』時は、どうなってもいいという気分だった。 だから『あげる』と言ってしまった。 でも『女の子』にすると言われると、流石に抵抗が

あった。

 ”男のままじゃ駄目なの?”

 『ええ……人間……ひとの体は、女性の方が基本なのよ。 男の体だと、私がうまく支配……制御……通信ができない』

 ”そうなんだ……”

 声が言っているのは、たぶん、恐ろしい事なのだろう。 でも……

 ”いやと言ったら……ぶつの?”

 『ぶつ?……殴打?……苦痛による強制?……そんなことはしないわ』

 ”……そう……その……そこに入ると、痛いとかないの?”

 『多分……ないはず……貴方の感覚だから……確実ではないけど』

 ”そう……”

 息を吸って考えをまとめ、最後の質問を言葉にする。

 ”どうして、無理やりそこに入れないの? その女の人たちを使えば、簡単でしょう。 体を直した後で、そのままここに入れてもよかったはずでしょ? 

どうして?”

 『最初は……その方針……強制……そのつもりだったわ』

 やっぱりそうかと思った。

 『でも、あなたが自分を捨てたと言った。 ならば、自発……自由意志……自分の意志で、私のモノになってくれるなら、その方が良いと判断したのよ』

 ”だから、どうして?”

 『強制……強引……無理やり。 その女たちは、無理やりに私のモノにしたの。 支配を拒んだので、抵抗を排除したら、壊れてしまったのよ』

 ”……”

 『あなたは、私のモノになってくれると言った。 それならば、壊れないかもしれない』

 ”確実じゃないんだ”

 『ええ』

 どうしようか考える。 いまさら嫌だと言っても、逃がしてもらえるとは思えない。 なによりも……

 ”わかったよ……ここに入ればいいんだよね?”

 『ええ……同意するの?』

 ”うん……どうせ誰も助けてくれなかったんだ……あなた以外誰も……”

 そっと『浴槽』に手を入れてみる。 トロリとした白いモノが手についた。 さっきのが牛乳なら、これはヨーグルトみたいだ。

 ”あなたはぶたない。 聞いた事にも答えてくれた。 だから、最初の約束通り、僕をあげる”

 足から『浴槽』に入っていく。 こちらも体温と同じで、熱くも冷たくもない。 肩まで浸かり、力を抜いて『浴槽』の縁に体を預ける。

 『どう?……』

 ”特に何も……いや……アソコが”

 大事なところを触ると、突っ張って固くなっている。

 ”固くなってる?”

 『男性生殖器が女性のモノに変わり始めたの……苦痛はない?』

 ”よく……わかんない……変な感じ……”

 あそこの辺りを触る。 あまり触なと、ぶたれたのを思い出し、手を離す。

 『少し、手伝ってあげるわ』

 女の人の一人が『浴槽』に入って来た。 この『浴槽』はちょっとしたプールほどの大きさがあり、10人ぐらいは余裕で入れそうだ。

 ”ちょっと……恥ずかしいよ……”

 『気にしないでいいの……』

 女の人は、僕を抱きしめ、体を摺り寄せ、手であちこちを撫でてきた。 最初はくすぐったかったが、だんだん心地よくなってくる。

 『どう?』

 ”気持ち……いい……アソコが……痺れて……”

 固くなったアレが、自分のモノでなくなっていくみたいだ……と思ったら、出したくなってきた。

 ”大変!……漏らしちゃう!”

 『漏らす?……失禁?……恥?……ああ、それは違うわ。 出していいのよ』

 ”そんな!?……あ、ああっ”

 止める間もなく、アソコがジーンと痺れて、熱いモノを吐き出してしまう。 すごく……気持ちいい……

 ”あ……あ”

 力が抜けてた僕を、女の人が抱いて支えてくれる。 心地よい感覚に身をまかせて目を軽く閉じる。

 『気持ちよかった……でしょう』

 ”ええ……とても”

 声が頭に染み込んでくるようだった。 もっと聴いていたい、そう思った、心から。

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