ボクは彼女

23.巨乳、上陸


 僕らは『クイーン・ドローン』としばらく話を続けた。 彼女によると、『マザー』は麗とミスティに強い興味をもっているとのことだった。

 「貴方達が簡単に行っている『体の交換』は、それほど凄い事だという事なの」

 「そうなんですか……」

 僕も麗もいまいちピンとこなかった。

 「ところでミスティって、あのピンク色の……『小悪魔』さんですよね? 彼女のどこに興味があるですか……あれ?」

 『クイーン・ドローン』はフリーズしたように動かなくなった。 まずい事を聞いたかなと思っていると、瞬きして急にしゃべり出した。

 「失礼。 『マザー』と交信していたの。 『ミスティ』は、『マザー』の中に……いろいろなモノを送り込んで来たわ。 彼女は、『マザー』から見て未知の

技を持っている存在。 だから、強い興味を持っている。 だから私達をここに残していったの」

 僕は、隣にいたエミ先生に小声で尋ねた。

 「いいんですか? 今の『スパイをしにきました』と公然と言っていると思いますけど」

 エミ先生は小さくうなずいた。

 「仮に彼女を拘束したとしても、別の『ドローン』が送り込まれるだけよ。 それより、自由に行動してもらったほうが、私達も彼女から情報を得ることが

出来るわ。 第一、ここは大学で治安機関じゃないわよ」

 「そうですけど……」

 反対を向いて麗の考えを聞く。

 「んー……いいんじゃないの? 害がなければ」

 「いいのかなぁ……」

 それからしばらく『クイーン・ドローン』が麗と僕を質問攻めにした。 主に『体を交換』する技についてだったが、麗自身が何も知らないのだから、答え

ようがない。 もっとも『クイーン・ドローン』はその答えを予想していたようだったが。

 「大学で研究する予定はないの?」

 『クイーン・ドローン』がエミ先生とランデル教授に聞いたが、二人は首を横に振った。

 「医学部はで、研究テーマに取り入れることを考えているようだ。 しかし、調査方法がないからなぁ……」

 「この二人に協力を依頼すれば?」

 『お断りします』

 麗と僕が即答した。 当然だろう。 『体を交換』するにはエッチする必要があるのだから。 それを調査されるなんて、いくら何でも嫌すぎる。

 「駄目か……」

 『クイーン・ドローン』はそう言ったが、あまり残念そうには見えなかった。 むしろ、エミ先生とランデル教授の方が残念そうだった。

 
 『UMA研究クラブ』の会合が終わり、僕と麗が部屋を後にするときになって、エミ先生が声をかけてきた。

 「よかったら、時々で良いから顔をださない?」

 「暇があれば」

 僕はそう答えたが、麗は気乗りしなさそうだった。

 
 −− その日の夜、E海岸 −−

 E海岸は、崖に挟まれた小さな海岸だった。 行楽客の姿を見ることはまれだった。 というのも、崖が身投げの名所で、その『結果』が砂浜に流れ着く

からだった。 そうした事情を知らないか、人気のない場所を求めた少数の人間しか、ここで見かける事はなかった。 その砂浜に、一台のSUVが

止められ、六人の男女がバーベーキューを楽しんでいた。

 「穴場だねぇ、ここは」

 「まぁいやらしい」

 海パンに水着姿の男女は、食べ物と酒を散らかし、嬌声をあげながら戯れている。 日は沈み切り、灯りはSUVのライトだけだ。

 「お? おい、あっちの崖の上に人がいるぞ」

 一人が崖の上を指さす。 真っ暗な崖の上で、懐中電灯らしき灯りが動いている。

 「ああ? こんな時間に何やってんだ」

 「まさか……飛び込むつもりかよ?」

 六人は顔を見合わせ、大笑いをした。

 「初めてだぜ。 あんな馬鹿を見るのは」

 「スマホでとっとけ。 UPしたら再生回数かせげるぞ」

 一人が、スマホで崖の上を撮影する。 しかし、明かりの無い崖の上が、スマホのカメラで映るわけがない。

 「ちっ、だめか」

 「近くに行って、後ろからとればいいぜ」

 「あんな所に上るのか? 今からじゃ、間に合わねぇよ」

 酷い事を言っているうちに、崖の上から灯りが海に落ちていった。 どうやら飛び込んだらしかった。

 「飛び込んだのか?」

 「じゃねぇのか。 つまんねぇな、見えなかった」

 「実は、飛び込みの選手の秘密特訓だったとか!」

 「あはは、ばっかでぇ」

 「なら、砂浜から上がってくる……い?」

 砂浜を指さして下品な笑い声をあげていた男が、笑いを納めて目を細める。

 「なんだ?」

 「何か……あがってくるぜ」

 「はぁ?」

 男の見ている方を全員が凝視する。 真っ暗な海は墨を流したようで、波頭が青白く光って美しい。 その海の上に、他の波とは違う青白い筋が見えた。 

それは、こちらに向かっているようだ。

 「さっき飛び込んだ奴か?」

 「にしては早いぜ……一つじゃねぇぞ」

 青白く光る筋は、砂浜に近づくと波紋に変わった。 何かが海から上がってこようとしている。

 「ライト!」

 「え?」

 「照らせよ、バカ!」

 「命令するな!」

 口げんかしながら、一人が大型の懐中電灯で波打ち際を照らす。

 「ひっ!」

 海から上がって来たのは、予想通り人間だった。 白い肌を女達が六人、上陸しようとしていた。

 「……なんでぇ、女か……脅かしやがる」

 「しかもマッパ、たまんねぇなぁ」

 「ラリってんじゃねぇか」

 鼻の下を伸ばし始めた男どもに、一緒に来ていた女の子達が冷たい視線を投げる。

 「はん、女ならだれでもいいのかい」

 「全くよ。 あんなイカレタ連中のどこがいいのよ」

 女の子たちの抗議に、男でもがへらへら応じる。

 「まぁまぁ、焼くなって」

 「そうそう。 どうせイカレタ……やっ……」

 ライトで女達を照らしていた男の口調から、ふざけた調子がなくなった。

 「ほんとにイカレテるのか?」

 『え?』

 全員の視線が女達に向き、その異様さに気がついた。 女達の体は真っ白で、白人の肌の色よりまだ白い。 体は見事なぐらいに均整がとれているが、

乳房だけが異様に大きい。 多分Bは100を超えているだろう、そして顔は……

 「ひっ!」

 「ま、まさかゾンビか!?」

 目は白く濁り、黒目がない。 どこを見ているか判らぬ上に、表情が全くない。 得体のしれない女達に大して、若者たちは恐れを抱いた。

 「か、関わり合いにならない方が」

 「逃げよう!」

 はじかれた様に全員が走り出し、SUVに先を争って乗り込む。 運転席に座った女が、キーを回した。

 キュルルル

 「かかれ、このバカ車!」

 「何してやがる! かせ!」

 助手席の男が、キーを掴み、強引に回した。

 キュルル……ブロロロ……

 「かかった!」

 女がギアをバックに入れると同時に、SUVのボンネットに白い女の一人が飛び乗り、顔面がフロントグラスに押し付けられる。

 「いやぁぁ!」

 半狂乱になった女の子が、ドアを開けて外に飛び出す。 続いて男が一人逃げ出した。

 「馬鹿野郎!……うわぁ!」

 開いたドアから白い女が中に飛び込み、男の1人に抱き着いた。

 「ひぃ」

 女の肌は、氷のように冷たかった。

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