ボクは彼女

19.白い略奪者


 太陽が沈み、夜が来る。 都会の中心部や歓楽街は賑わい始める時間だが、商店街は早々に人通りが減っていき、店のシャッターが閉ざされていく。 

それは妖品店『ミレーヌ』も同じだった。

 「……」

 ミレーヌは店の入り口のカーテンを下ろし、戸締りをした。

 ズルリ……

 微かな音が彼女を振り向かせる。 マントの前を手で引き寄せ、滑るような動きで裏口から裏庭に出た。

 「……」

 『ナンドラゴラ』が見当たらない。 それが埋まっていたところには、黒々とした穴が口を開けている。

 「……どこへ?……」

 ミレーヌはスマホを取り出し、ミスティに電話をかけた。

 
 「世界史の課題は、今週末に提出……え?」

 僕は教科書と参考書を広げ、見比べた。 参考書と言っても、公立高校では教科書として使用されている本だ。

 「なんだって? 『産業革命前の欧州の歴史について、両者の視点を比較し、400字以内で意見を述べよ』……なんだこれ」

 中学の歴史なら、『マグナカルタとは何か』とか『フランス革命は何年?』という問題が出ていたけど……

 「高校の問題は難しいなぁ……」

 両方を見比べると、随分書いてあることが違う。

 「本校がヨーロッパにあるせいなんだろうな」

 参考書の方は、政治や芸術についての記載が数ページにまとめられている。 比べると教科書の方は、50ページに渡って、政治から庶民の暮らし

までが述べられ、欧州から中東の各国の勢力図の変化が図入りで紹介されている。

 「へぇ」

 教科書が厚いのはいただけないと思っていたが、読み込んでみると興味深いことがいろいろ書いてある。

 「……おっと」

 読みふけってしまっていた。 時計を見ると10時を回っている。

 ……コン

 「?」

 ……コン

 「なんだ? 窓?」

 レースのカーテンを開き、窓を開けて外を見た。 白い人影が、少し離れたところに立っている。

 「え!?」

 一瞬”幽霊”かと思う。 目を凝らすと、白一色の人が佇んでいるのが見えた。

 「君は……ひょっとして、ナンドラゴラか?」

 前日に、僕はナンドラゴラに『誘惑』されたらしい。 『らしい』というのは、あまりはっきりと覚えていないからだ。

 ”ソウ”

 ナンドラゴラが喋った……わけじゃない。 彼女がそう言ったのを僕は『感じた』んだ。

 ”オマエ、コナカッタ。 ダカラ……”

 「だから?」

 ”キタ”

 
 僕は夢を見ていた。 いや、眠ってはいない。 起きているのに夢を見ている。 そんな感じた。

 ’入って……’

 外にいたナンドラゴラを部屋の中に招き入れる。 明るいところで見ると、彼女は一糸まとわぬ少女の姿をしていた。 彼女は手を広げ、僕を腕の中に

捕まえる。

 ”ン……”

 ナンドラゴラの唇が僕を捕まえる。 冷たく柔らかい口づけだ。

 ”ア……”

 彼女の舌が、僕の中に入って来た。 やはり冷たい舌が、僕の体温で温まってくる。

 パサ

 背中が柔らかいモノに埋まる。 ベッドに押し倒されたらしい。 

 ”ハァ、ハァ……”

 息遣いが荒くなってきたようだ。 それとも僕の息だろうか。 頭の片隅にそんな考えが浮かぶ。

 ゾワリ

 背筋を異様な感覚が走り抜けた。 冷たい手が、僕自身を捕まえて弄りだしていた。

 ”ハウッ!”

 指先に冷たいものを感じた。 彼女が僕の手をアソコに導いて……違う。 僕の手が自分から彼女を求めたのだ。

 ”アアッ……キテ……サァ……”

 体が動く、勝手に。 頭の中が凍り付いたようで、何も考えられない。 それでいて、体の方は積極的にナンドラゴラを求めていく。 僕の体は、

ナンドラゴラを引き寄せて抱きしめる。

 ”クッ”

 ナンドラゴラが僕に跨る。 屹立したモノが、狭く冷たいところにズフズブと呑み込まれていく感触。

 ’うぁっ’

 声が漏れる。 僕の上でナンドラゴラがよがり狂う。

 ”アッ、アアッ”

 ナンドラゴラの中は冷たかった。 それを僕のモノが温め、代わりに僕が冷たくなっていく。

 ”アツイ! チョウダイ、アツイノヲ!”

 腰がナンドラゴラを突き上げる。 程よく温まった彼女の中から、生暖かい蜜が溢れ出し、僕のモノを包み込む。

 ’ひゃぁ’

 蜜の滑りが心地よい。 たまらなく気持ちいい。 止まらない、止められない。 制御できない快感に、股間が縮み上がり、体が硬直する。

 ’あああっ!’

 ”キ……タッ?”

 ドクン、ドクドクドクドクッ

 僕のモノが、ナンドラゴラの中に精を放つ、たっぷりと。 ナンドラゴラの奥を突き上げながら、僕は快感に身を委ねた。

 
 ぺろり

 頬を冷たい舌が舐めた。 目を開けるとナンドラゴラの顔(?)が目に入った。

 ”コナカッタ……”

 「え? 来なかった?」

 頭が働きだした。 今ので、呪縛が解けたのかもしれない。

 ”オマエノタマシイ”

 「タマシイ、たましい……魂!?」

 跳ね起きようとしたが、体に力が入らない。 ナンドラゴラは、僕に重なったまま続ける。

 ”タマシイ ワタシノナカ ニ トラエル”

 「ええー!?」

 昨日の事を思い出す。 と言ってもナンドラゴラに何をされたか、僕自身は覚えておらず、舞さんから聞いたのだけど(麗にきいたら、引っぱたかれたので)

 「ちょちょっと待って。 それはもういいんだよ」

 ”ワタシ、チットモヨクナイ”

 そう言うと、ナンドラゴラは僕のモノを冷たい手で嬲り出した。

 「あ、だめ……やめて」

 ナンドラゴラの手はヌルヌルしていて、たちまちモノが固くなっていく。 ひょっとすると、ヌルヌルに何か混じっているのかもしれない。

 ”コンドハ、シッカリヌイテアゲル ウフッ、ウフッ、ウフフフフフフ”

 何が楽しいのか、ナンドラゴラは含み笑いをすると、僕の体に自分の体を擦り付ける。 彼女の冷たい体がヌルヌルになり、僕を冷たい滑りで覆うつもりの

ようだ。

 ”サッキヨリ、ズットヨクシテアゲル ズト キモチヨクナッテ タマシイ ヌケル”

 「た、助け……」

 叫ぼうとした口を、ナンドラゴラが塞いだ。 唇もヌルヌルだ。

 「んー……」

 体が冷たく固まっていく。 そして恐ろしいことに、それが何とも心地よい。

 ”ダンダンキモチヨクナッテ ジキニ、ワタシノモノニ……”

 ナンドラゴラの言う通り……気持ちよくて体が動かない……そして……彼女の中に魂を出してしまう……

 「気持ちよく……してぇ」

 そうしたい。 ナンドラゴラのモノになりたい。 僕はそれしか考えられなくなってきた。

 ”イレテ……アゲル”

 再び僕のモノがナンドラゴラに呑み込まれる。 さっきと違い、頭はしっかりと働いている。

 「動くよ」

 そう言って、腰を動かす。 ナンドラゴラの中は、まさに極楽だった。 ここに魂をだしたい、早く出したい。 頭の中がそれだけでいっぱいになっていく。

 アアッ

 ナンドラゴラが喘いだ。 僕は幸せな気分で、彼女を愛した。
 
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