ボクは彼女

15.関係修復


 エミ先生は(舞さんの体の)ボクを喫茶店に誘い、ボクは今までの経緯を洗いざらい話すことになった。

 「浮気がばれて、どこかに行った彼女を探していると……」

 呆れた様子のエミ先生は、そう言ってコーヒーを口にする。

 「あーそれはだめね」

 「だめだめ」

 ミスティとエミ先生、それとスーちゃんいう小さな女の子がボクの向かい側で口を揃える。

 「それなら元の体に戻る方が先じゃないの?」

 「そうも思ったんですけど……そうすると、マイんと二度目の関係を持たないと……」

 ボクの体にはマイさんが入っている。 元通りになるには、マイさんと『関係』するしかない。

 「ふむ……」

 考え込むエミ先生。

 「あの、何かいい方法はないでしょうか?」

 エミ先生は顔を上げて、僕の顔をじっと見る。

 「いい方法も何も、方法は一つしかないでしょう?」

 「え?」

 「貴方が言った通り、元に戻るには『マイさん』と関係するしかない」

 「……」

 「貴方にできるのは麗さんをどうやって説得するか、だけじゃないの?」

 「……そうですね」

 ボクは、麗への言い訳をあれこれと考えだした。

 「一応忠告するけど、『他に方法がありません』というのは禁句よ」

 「え?」

 ボクは驚いてエミ先生の顔を見た。

 「どうしてですか?」

 「その言葉は言外に『仕方ないから、お姉さんともう一度関係します』と言っているのと同じよ」

 「それはそうですけど」

 「それは貴方の都合でしょう? このままだと貴方は元に戻れないから」

 「ええ」

 「でも、その解決手段は麗さんにとっては、もう一度つらい思いをさせることになるわけよね」

 「……」

 「その場合、貴方は自分の都合を、麗さんの気持ちより優先させたことになるの」

 「そんな……」

 「自分が麗さんの立場だったらどう感じるか。 それを考えなさい」

 うーん……

 ボクは頭を抱えてしまう。

 「でも、麗の気持ちを優先するなら……元に戻ることはできないんじゃ」

 「そのとおりね。 でも選択肢の一つとして検討すべきじゃないかな」

 「えー!」

 エミ先生はとんでもないことを言い出した。

 「そ、それじゃボクはこのままだし、マイさんだって男の体のままで……」

 「そうね。 でも麗さんの気持ちを第一に考えたら、それも『あり』なんじゃないの」

 「……」

 絶句するボク。 と同時に、麗にたいしてどれだけ酷いことをしてしまったか、それが判って来た。

 
 「ほーう、もう次の女とデート。 いやーもてる男、いや女はつらいわね」

 背後から絶対零度の冷たい声が聞こえてきた。 振り返ると、麗と(ボクの体の)マイさんが立っていた。

 「や、やぁ……」

 「麗さんと木間君……じゃないわね。 貴方が麗さんのお姉さんですね?」

 エミ先生が、マイさんに挨拶をする。

 「ええ。 舞と言います」

 「私はエミと言います……」

 エミ先生と舞さんが挨拶を交わしている間、ボクは麗の冷たい視線にさらされて縮こまっていた。 自己紹介が終わると、エミ先生は麗とマイさんに

座るように促した。
 
 「それで? 先生とは何を?」

 冷たい声の麗が、ボクに尋ねる。

 「えーと……その、どうすればいいかと相談を」

 「もう一度、マイ姉と『する』言い訳でも考えていたわけ?」

 麗の声が冷たく、ボクの胸を容赦なくえぐる。

 「そのことですけど」

 エミ先生が口をはさんだ。

 「その『入れ替わり』は他の手段では無理なのですか?」

 マイさんが驚いた顔になった。

 「他の手段ですか?……考えたこともなかったわ。 でも、何故そんなことを尋ねられるのですか?」

 「木間君と舞さんが元に戻るには、その……アレすればいいわけですけど、そうすると麗さんと木間君の関係は、多分修復不可能になるかと」

 『……』

 ボクは麗の表情を伺い、エミ先生の言葉が正しいことを確認した。

 「でしょうねぇ」

 すました顔のマイさん。

 「マイ姉!」

 麗の顔が怒りで真っ赤になる。

 「人の恋路を邪魔して、そんなに面白いの!?」

 「結果としてそうなったけどね、私はしたいようにしただけよ」

 「え?」

 マイさんがボクの顔を見た、真剣な顔で。

 「最初は遊びのつもりだったけわ。 でもね、試してみたら気に入ったわ、この子」

 「ちょちょっと……」

 「私に乗り換えない? それなら、万事解決するわよ」

 とんでもないことを言い出したマイさん。 それに対してボクは……

 「ごめんなさい、お断りします」

 反射的に断っていた。

 「え?」「まぁ」「木間君!?」

 ボクは居住まいを正した。

 「麗を傷つけたのはボクの責任です。 それは、言い訳できない。 だから、これ以上は傷つけたくないんです」

 自分でも驚くほど簡単に言葉がでた。

 「それで、この後ずっと『私』の体のままでいいの?」

 「よくはありません。 でも、麗をこれ以上は………わっ」

 麗が僕に抱き着いてきた。 泣いている。 ボクは彼女を抱きしめる。

 「青春ねぇ……乱れているけど」

 
 「さて、互いの気持ちが確認できたわけだけど。 体の問題は残っていわね」

 エミ先生が冷静に指摘する。

 「気持ちは判ったんだし、麗が認めればいいんじゃないの?」

 「マイ姉!」

 麗が毛を逆立てる。

 「そう言う問題じゃない!」

 「変なところで潔癖なんだから」

 マイが呆れたように言うと、それまで黙々とパフェを食べていたミスティが顔を上げた。

 「そーれならミスティにお任せあれ」

 『は?』

 全員がミスティに注目する。

 「悪いようにしないから」

 「あんたが関わって、良い方に転んだ試しがないんだけど」

 エミ先生が小声でつぶやいた。
 
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