ボクは彼女

14.修羅場


 ”木間くん、ちょっと……”

 アパートの外から麗の声がして、ボクの顔が蒼白になった(多分)。

 「た……マイさん、隠れて!」

 「わたしが隠れてどうするのよ」 とボクの顔をしたマイさんが言った。

 「そ、そうか、隠れるのはボクで、マイさんがボクのふりを(えい、ややこしい)……」

 あたふたと慌てるボクが何かする間もなく、扉が開いた。

 
 「木間……」

 玄関で麗が立ちすくむ。 ボクのアパートは玄関を開ければ僕の部屋が丸見え。 麗は、裸で胸を隠している舞さん(ボク)と裸で立っている僕(マイさん)を

見て凍り付いた。 部屋の気温が氷点下まで下がった(様な気がした)。

 
 「どっち?」

 地獄の底から響いてくるような麗の声。

 「あ、あの、こ、これは」

 舞さんの顔のボクが口を開きかけた。 それだけで麗は全てを察し、靴を脱いで玄関に上がり、つかつかつとボクに歩み寄る。

 バッチーン!

 彼女の平手がボクの頬を張り飛ばす。

 「麗、わたしの体に手荒なことをしないでよ」

 僕の顔のマイさんが文句を言うと、麗はそちらを睨みつけた。

 「あ……とにかく元に戻るから、詳しい事はそれから……」

 バッチーン!

 二度目の平手でボクはベッドに倒れ込んだ。

 「最低!」

 言い捨てて、麗はアパートを出て行った。

 
 「あーあ、手形クッキリ」

 マイさんが、ボクの顔に濡れタオルを当てる。

 「手加減なしねぇ」

 「二回目の方が痛かったです」

 ボクが言うと、マイさんが呆れたように笑った。

 「それはそうでしょう」

 「?」

 「『元に戻る』って言ったでしょう。 あれじゃ、わたしと『もう一度ベッドインします』と言ったのと同じじゃないの」

 ボクは絶句し、頭を抱えた。

 「……」

 「ま、他に方法は無いし。 落ち着いたら、しよっか」

 「マイさん……」

 あまりにもあっけらかんとしたマイさんの態度に、ボクは頭を抱えた。

 「そんなことしたら、今度こそ麗は口をきいてくれなくなります」

 「かもね」

 マイさんは、散らばった衣服を拾い上げ、裏返してみたりしている。

 「じゃあどうする? しないと、あたしたち入れ替わったままよ?」

 ボクは絶句した。 ボクとマイさんが元に戻るには、もう一度ベッドインするしかなのだ。 しかし、元に戻ると自動的に麗にそのことが判ってしまう。 ボクは

頭を抱えた。

 
 5分ほどして、ボクは顔を上げた。

 「……どうするかはともかく、麗と話をします」

 「ほほう……」

 マイさんはにっこりと笑った。

 「麗に『もう一度、お姉さんとベッドインするのを許して』と言うの?」

 「マイさ〜ん」

 情けない声を上げるボクをマイさんは面白そうに見ている。

 「他人事みたいに言わないでください。 半分、いや大部分はあなたのせいなんですよ」

 「そうねぇ……」

 マイさんはふっと言葉を切り、真顔になった。

 「ま、貴方がどう切り抜けるか、見させてもらうわ。 それまで、この体は借りとくわね♪」

 「大事にしてくださいよ」

 「努力はするわ」

 
 一時間後、ボクとマイさんはアパートを出た。 時間がかかったのは、ボクの身支度に時間がかかっただ。 胸が大きいだけで、あんなに身支度に手が

かかるとは思わなかった。

 「先に帰る家を決めとこうか。 どっちがどこに帰る?」

 「えーと……ボクが僕のアパートに帰る……のはまずいです」

 「身の回りの品が無いし、ご近所の眼があるものね。 じゃあ、わたしがここに、貴方は麗の所に泊まりなさい」

 「いいんですか?」

 「見た目は『舞』だから問題無いでしょ。 それに、女同士なら……それとも?」

 ボクは言葉に詰まった。 男同士は問題外だが、女同士なら……一瞬そう考えたが、麗が怒り狂うのは目に見えていた。

 「大丈夫です」

 「ならいいわ。 ま、麗にOKをもらって戻るか、別れるか、その両方かしかないでしょうし」

 マイさんの言葉に、ボクは再び落ち込んだ。

 
 「麗、どこに行ったのかなぁ」

 麗は帰ったかと思い、麗のマンションに行ってみたが留守だった。 ボクは麗を探すことにしたが、マイさんとは別行動を取ることにした。 誰かに見られて、

僕が舞さんとデートとしていたと噂になるのが嫌だったのだ

 「へい、そこの彼女」

 (またか……)

 これで3人目のナンパ野郎だ。 される身になると、うっとおしいことこの上ない。

 「空気清浄機買いませんか? 会社がつぶれて、最後の給料が現物支給で……」

 ナンパの方がましだった。

 
 「やれやれ」

 泣き言をいうおじさんをなだめて追い払い、ため息をつく。 そのとき、聞き覚えのある声がした。

 「あ〜れ? あの子、また入れ替わってるよぉ♪」

 「大きな声を出さないで、ミスティ。 すみません、この娘ちょっと、いうかなりアレでして」

 振り向くと、エミ先生が、ミスティと彼女の妹(だったっけ?)と一緒に立っていた。

 (おっと)

 体か入れ替わっている時は、知り合いに気をつけないといけない。 レイと入れ替わっている時、さんざん経験したことだった。 自分は初対面だと言い

聞かせつつ、にっこりと笑ってみせる。

 「すみません、どちらかでお会いしたでしょうか?」

 「ミスティ?」

 エミ先生がミスティをちらりと見た。

 「んー、外見は違うけど、中身は学校であった男の子だよ〜♪」

 「だよだよ」

 (見抜かれてる。 このミスティという少女はボクの『魂』が入れ替わっていることが判るんだ)

 ボクは演技をあきらめ、エミ先生に助けを求めることにした。

 「先生。 ボクは木間です」

 「しばらく見ないうちに、色っぽくなったわねぇ……ははぁ、それがあなたの本当の姿とか」

 「違います!!」

 全力で否定した。
 
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