ボクは彼女
7.女の子の気持ち
「まてぇ〜♪」
「いやぁ〜」
迫るレイ(体は僕)。
逃げるボク(体は麗)。
絵的には、裸の男の子が女の子を追い回しているが、中身は逆(ややこしい)。
「捕まえたぁ♪」
「待って、心の準備が……」
ボクがレイに組み伏せられたその時、ドアが開いた。
「麗、ケーキ買って来た……」
開いたドアの向こうに、レイによく似た女の人が立っていた。
(誰?)
(姉貴)
小声で情報交換したボクたちは、レイのお姉さんへの言い訳を急いで考える……が裸の男女が絡み合っている図では、言い訳などあるはずがない。
「あ、あの……これは……訳が」
ボクが口を開きかけけると、レイのお姉さんは右手を突き出しで、ボクを制した。
「大体判ったわ……麗」
『お姉さん』はレイ(体は僕)をじっと見つめた。
「いい体の男の子じゃない。 でかした!」
「は?」
ボクは間の抜けた声を上げた。
「あんたの趣味だと、ひ弱そうなのを捕まえて来るかと思ったけど、これなら使い減りしそうにないじゃない」
『お姉さん』はずかずかと部屋の中に入って来て、ボクの体の方をペタペタと撫でまわした。
「きやっ! やめてよ、変態姉貴」
「何言ってんの。 今は男の体でしょう。 女に触られたら喜ぶべきでしょうに」
「あの、とりあえずレイ。 離してくれない?」
ボクの頼みは、ひどく間抜けに聞こえた。
(今後、僕と麗、舞の名前がカタカナ表記の時は、魂が入れ替わった状態とします)
「やぁ、ごめんなさい。 いきなりで驚いたでしょう」
『お姉さん』は舞と名乗った。 麗のお姉さんで、当然彼女も性行為をすると、相手と魂が入れ替わるらしい。
「もっとも、自由自在に入れ替わる訳ではないんだけど」
「へぇ、そうだったんだ」
答えたのはレイだった。 のんきな答えに、ボクは呆れた。
「そうだったんだって……良く知らないのに……事に及んだの!?」
「アレするときに、深く考えないよ」
あまりにあっけらかんとした態度に、ボクはむっとしたが、彼女の言う通りかもしれないと思い直す。
「それで、元に戻るには……やっぱり」
「私は他の方法は知らないわ」 あっさり舞は答えた。
「そうなんですか……」
「じゃあさっそく」
腰をあげようとするレイを舞が止める。
「今すぐやっても、戻らないかもしれないわ」
「ええっ! な、何故です?」
慌てるボクに舞が説明してくれた。 魂が入れ替わるのは、二人が同時に絶頂に達したときで、かつ、それなりに快感が高まっている必要があると言うのだ。
「貴方の体は、一度出したんでしょう? いくら若くても、間を置かないと一度目程の絶頂感は得られないと思うわ」
「間を置くって……どのくらいですか?」
「さぁ? 1週間ぐらいまでば確実でしょうけど」
「そ、そんな!」
「取りあえず、明日まで待ってみた方がいいと思うけど? 無駄打ちする程、戻るのが遅くなるわよ」
舞の提案は理にかなっていると思ったが、明日まで待つとなると……問題があった。
「学校はどうするんです?」
「1日ぐらい休めば? と言いたいところだけど、取りあえず登校した方がいいと思うわ」
「その根拠は?」
「お互い、その体で生活するのに慣れておいた方がいいでしょう? そういう事をするのに、学校ほど適したところはないわよ」
「そう……かもしれませんけど」
「それとも、元の体に戻るまで、家から一歩も出ない生活を続けるつもり?」
ボクは不承不承頷き、立ち上がった。
「じゃあボクは帰ります。 レイちゃん、明日学校で……」
「待ちなさいよ。 帰るってどこに?」
「もちろん自分の家です。 一人でアパートに住んでいるんで、この体で帰っても、問題ありませんよ」
「服は? 下着は? 女物の下着を持ってるの」
「え?」 ボクは愕然とした。
「一人暮らしなら、帰らなくても誰も心配しないでしょう。 泊まっていきなさい」
ボクは顔が赤くなるのを感じた。
「で、でも……女性の二人暮らしの家に泊まるなんて……」
「今は女でしょう?」
そうだった。 ボクは女の、レイの体になっているんだった。
「でもそうすると……レイは?」
「体は男でも、魂が女でしょう? 何の問題もないわ」
「そうそう」 レイが同意した。
「そうですか?」
ボクは首をひねった。 この理屈はどこかおかしい、おかしいはずだ……なのだが、おかしい点を指摘できない。
「貴方は居間で休みなさい。 ソファがベッドになるから」
「そうしなよ」
結局、二人に押し切られる形でボクはレイの家で一泊し、翌日はレイと一緒に登校することになった。
「女の子の生活があんなに大変とは思わなかった」
「男の体って楽だねぇ。 いろいろと」
性別を交換しての生活は、驚くほど大変だった。 レイと舞に手伝ってもらわなければ、まだ下着もつけられていなかったろう。
「体は華奢だし、力は出ないし……こんな時に暴漢にでもあったら……」
心細さに涙がにじんできた。
「大丈夫だよ、ボクがついている」
レイがポンと自分の胸を叩く。 自分の姿をしたレイが、まぶしいくらいに頼もしく見えた。
(……女の子が男を頼りにするのは、こういう気持ちからなのかなぁ)
ボクはちょっぴり女性心理を理解した(つもりになった)。
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