ボクは彼女

4.彼女の手触り


 麗の家に来るのは二度目だった。 初めての時との違いは麗との……距離感、いや距離だった。

 「食べて、食べて!お礼だよ!」

 ソファの隣に座って、ケーキやクッキーを勧めてくる。

 「あ、お酒の方が……」

 「ちょちょっと! いくら何でも……!」

 「やだなぁ、冗談だって。 紅茶にブランデーを入れるだけだよ」

 といいつつ、ブランデーのビンを傾ける麗。

 「それは『注ぐ』だよ!」

 「あははは……」

 正直、僕は戸惑っていた。 この間きた時には、彼女との間には心理的な壁があり『値踏み』されているように感じた。 今日は、距離を置くどころか、

さかんに『ゼロ距離攻撃』をかけてくる。

 「お礼だよ」

 麗はそう言うけど、ちょっと変わり身が速すぎるような気がする。

 「にしても、態度が変わりすぎのような気がするんだけど?」

 そう言ったら、麗は二三度瞬きし、僕から少し離れて笑顔を消した。

 「ごめん、はしゃぎすぎた」

 そう言った麗が、しょんぼりしていたように見えたので、今度は僕が慌てる。

 「怒ったわけじゃないよ。 ただ、女の子とあんまり仲よくしたことが無くて」

 「経験はあるのに? エミ先生と」

 うっと詰まる。 あれは強引に押し倒された……となんとなく言い訳する。

 「抵抗したの?」

 「え……いや、びっくりしたから……」

 「で、生きずりの女の人に童貞をあげちゃったと」

 「……そうだけど……いや」

 空気が重くなった。 麗は何かが気に入らないらしいけど、僕にはそれが判らない。

 「例えば、木間君が誰かを好きになったとして」

 「うん」

 「その娘が、ハンサムな男の人と初体験していて。 それも、まんざらでもないって言ったらどう思う?」

 「それは……やだなぁ……うん」

 好きになった人の元カレとか、経験談なんて、不愉快に決まっている……あれ?

 「それって、麗は……」

 「君の事は、初めて会った時はから気に入ってたんだよ」

 「……それは、有難う……」

 「でもねぇ、中学生の時にあんな色っぽい女の人と『しちゃってた』と聞いて、見損なったかなと、がっくり来てたんた」

 「……すみません」

 「そしたら今日のアレ! 見かけは『気弱なボクちゃん』だと思ってたら! 三対一で、しかも先輩をあっさり投げ飛ばすなんて!」

 「三対一といっても、相手にしたのは一人ずつだよ。 三人に一度に襲われたら、袋叩きにされてたさ」

 「いやー、ご謙遜! あれはなかなかできることじゃないよ、師匠!」

 麗がまたはしゃぎだした。 悪い気はしないけど、喧嘩が強いとか褒められても嬉しい気はしない、正直に麗にそう告げた。

 「そう? でもボクは助けてもらったことはすっごく嬉しい。 だから感謝している。 ありがとう」

 「うん。 感謝してもらえると、僕もうれしい」

 そう告げると、麗は少しだけ笑った。

 
 「ところで、木間君。 お腹見せてもらえる」

 「はい?」

 唐突な麗の言葉に面食らう。

 「ほら、鍛えた人の腹筋は6つに割れているとか、言うじゃない。 さっきは外だったから、確かめられなかったんだ。 ゆっくり見せてよ」

 「そこまで鍛えてないよ」

 「いいから見せてよ」

 麗は笑いながら僕に掴みかかり、シャツをまくり上げようとする。

 「あーれー……」

 僕も笑いながら、麗の腕をよけて、シャツを押さえつける。 麗は思ったよりも素早く、僕に馬乗りになってシャツをまくり上げた。

 「わぁ」

 麗がペタペタとおへその周りを撫でている。

 「くすぐったいよ」

 「割れてないんだ。 あ、力を入れてないからかな? ね、力を入れて見せて」

 麗にねだられ、僕は腹筋に力を込めた。 つるんとした僕のお腹が、ぐぐっと盛り上がる。

 「わ……すごっ」

 「体力維持に、腹筋運動とかしてるからかな? 本格的に鍛えている人ほどじゃないよ」

 「これだけ腹筋が盛り上がれば、十分凄いじゃない」

 そう言って麗は、僕のお腹をペタペタ触っている。 ヒヤリとした女の子の手の感触が心地よい。

 (あ……まずい)

 麗は僕の太腿に跨り、お腹を撫でている。 当然、僕の下半身には麗の体重が掛かり、その温もりが伝わってきている。 そう思ったら、僕自身が反応する。

 ムクッ……

 「ん?」

 麗が小首をかしげ、視線をボクのお腹から下の方に移していき、ズボンのふくらみに気がつく。

 「んー……」

 麗の視線が上に移動していき、真っ赤になったボクの顔の処で止まる。

 「……スケベ」

 グサッ

 胸に麗の言葉が突き刺さった。

 「女ならだれでもいいんだ」

 「そ、そんなことはないよ」

 慌てて言い訳する。 もっとも、他の女の子が麗みたいなことをしたとしても、アレは反応するだろうけど。

 「ふーん」

 上から目線で麗は僕をねめつけ、それからズボンの膨らみに触って来た。

 「わわっ、麗の方がスケ……じゃないか」

 「女の子がするのはいいの」

 「差別だぁ」

 そう言っている間に、僕のモノはますます膨れ、盛り上がりがモッコリぐらいになって来た。

 「欲しがってるみたいだ、ボクを」

 「そ、そんなことないよ。 これはただの反射で」

 「じゃ欲しくないんだ。 ボクなんか」

 麗が下を向く。 落ち込んだように見えた。

 「そんなことはないよ。 麗は可愛いし、欲しくないわけが……」

 「あ、そおぅ?」

 顔をあげた麗は笑っている。 ひっかけられた、そう思ったけどもう遅い。

 「じゃ……しない?」

 「え?」

 耳を疑った。 際どいところでふざけ合うのと、一線を越えるのでは意味が違う。 確かに麗は積極的だけど、今日そこまで誘ってくるとは思っていなかった。

だいたい、まだ付き合うとも言っていないのだ。

 「あ、そう? 今日家に誘われて、まーったく期待もしなかったと、誓えるぅ?」

 「……誓えません」

 「正直でよろしい」

 麗はそう言った後、明るい声で笑いだした。 僕も笑い出す。 罠にはまった様な気がしないでもなかったが、麗ならいいか、という気になっていた。 この

あと僕は、この安易な考えを後悔することになるのだった。

【<<】【>>】


【ボクは彼女:目次】

【小説の部屋:トップ】