黒のミストレス

10:決意


龍之信とメイド達はマジステール館に帰ってきた。

玄関ホールに入ると、シンシアが立っていた。

「すまん、村は忙しくてすぐには人手を出してもらえんそうだ…ルーイは?…」

「死にました…私もミストレス様のものになりました…」

ギョッとする龍之信「何だって?…」そこで気づく、シンシアが無表情である事に、着ている物が黒一色であることに、

首にチョーカーが巻かれている事に。

「シンシア?…いったい何が…」

”龍之信とやら…”シンシアの口から別人の声がつむぎ出される。

「!…これは?…」

”私は、ミストレス…他のもの達の魂は私が食しました…”

「なに、何をいっている…」

”必要な食事は終えました…立ち去りなさい…そして2度と戻ってきてはなりません…”

「ばかな、何の事だ…」

”私は…人の魂を糧として生きるもの…”

「シンシアに何をした!いったい…」

”シンシアの魂を抜いて私の糧とした…其処に立っているのは魂の抜け殻…”

「貴様!…妖怪め…許さん!…」

”許さなければどうすると…”

「退治する!…」


しばしミストレス(シンシア)は口をつぐむ。

そして、”いいでしょうあなたと勝負しましょう…”

「…?」

”夜討ち朝駆けでは私も安眠できません…1時間あげましょう…その間に準備を整えなさい…1時間たったらメイドに

案内させましょう…”

「む、応じなかったら?…」

”シンシアの体に油をかけて焼きます…もう用はありませんから…”

「…わかった、1時間だな?…」


龍之信は自分にあてがわれた部屋に戻る。

ああ言ったものの、人の魂を喰う妖怪を退治する方法など知らない。

刀で切れば死ぬだろうか。

持ち物の中身を改めるうちに、それの事を思い出した。


鎖で封印された一振りの小刀、妖刀ともいわれる村正だった。

村正を取り出し、封印の鎖を外す。

日本にいたとき、化け猫を退治するために入手したものだ。

もっとも、それが元で国を離れる羽目になったのだが…

これが妖怪(悪魔)に有効だという根拠は実は無い。

しかし、今手元にあるわずかな希望だ。

「もし駄目だったときは…シンシア…私も行こう…あなたのもとに…」


そして龍之信は扉を開く。

「準備はできた、案内せい」

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