黒のミストレス

8:シンシアの抵抗


「いや…やめて…」

シンシアは弱々しく抵抗の言葉を吐いている。

ミストレスは獲物を前にして、形のよい唇を舌で舐めまわす。

「かわいい子…楽しみ…どんないい声でないてくれるかしら…」


メイド達はシンシアの手足を押さえつけ、黒い手袋をつけさせ、黒いヒールを履かせ、黒いチョーカをつける。

そしてシンシアから離れた。

シンシアは体が自由にならないことに気づく。

「ああ…手が…足が…ああ助けて…」

「お座りなさい…」

ミストレスに命じられるまま、シンシアの体が寝台に腰をおろす、ダストンがミストレスに呑まれたあの寝台に…

シンシアの目からは涙が流れている。

「お願いやめて…ミストレス…」


その頃、龍之信は村で助けを求めていた。

村長「お話はわかりました、しかし、昨日山道の落石を取り除くのに人手を出したばかりでして、農作業もございます、

今すぐにというわけには…」

「そうか…いや無理をいってすまなかった…」

村長がメイドの姿をチラリと見て、龍之信に何か言いかけ、目を逸らす。

「何か…」龍之信が尋ねる。

「いえ…なにも…」村長は話をしなかった。


結局、龍之信とメイド達は、助けを得られぬままてくてく引き返す。館で何が起きているか知っていたら、とてもこうし

てはいられなかったろうが…


同時刻、マジステール館

意外にも、ミストレスはシンシアを扱いあぐねていた。

男性経験どころか、自分を慰めたこともないシンシアでは、経験豊富なミストレスのと性感が違いすぎ、うまく操れない

のだ。

また、性の快楽には心による部分が小さくない。恐怖に怯えるシンシアは、感じるどころではない。

そして、快楽に夢中にさせない限り、魂を吐き出させることは不可能なのだ。


ミストレスはシンシアを責めるのを中断して、シンシアをじっと見つめる。

先ほどまで、自分の手でいろんな事をされていたシンシアは、既に服を脱がされ、汗まみれで、荒い息を吐きながら、

それでも気丈にミストレスをにらみ返す。

「ふふ…怖いの…」微笑しながらシンシアに語りかける。

「怖いわ…でも、許さない…あなたを…」シンシアが答える。

「許さないならどうするの…あなたが何かするの?…」からかうようにミストレス

「私には…そんな力はない…でも、あの方なら、龍之信様なら…」

「『龍之信様』…ふふっ…うふふ…」(見つけた…鍵を…)

「何、何がおかしいの…」

ミストレスは答えない、メイドの1人を見る、メイドがどこかに行く…


やがて、メイドが何か持って戻ってきた、占いに使う水晶の玉のようだ。

ミストレスはそれを両手で捧げもち、シンシアに近づいてくる。

「シンシア…御覧なさい…」

思わず、玉を見てしまうシンシア

目が離せなくなる、吸い込まれるようだ、だんだん恐怖が薄れていく…思考力も…判断力も…

ミストレスの声が遠いところから聞こえる…

「シンシア…あなたはまだ男を知らないのね…では最初の人は誰が良いの…」

「最初の人?…最初の…」

シンシアの目は水晶玉を見つめたまま、うわ言のように答える。

「シンシア…抱きしめてもらいたい人を…心に思うの…強く…」

「抱きしめて…抱きしめて…龍之信…」

シンシアは水晶玉の中に、龍之信の姿が映るのを見た。

「龍之信…龍之信…」壊れた人形のように繰り返す。


ミストレスはそっと水晶球をメイドに渡す。

そしてシンシアに呼びかける”シンシア”龍之信の声だ。

「龍之信様?…」シンシアの顔に虚ろな笑みが浮かぶ、シンシアにミストレスが龍之信に見えていた。

”シンシアもう大丈夫だ…”

「本当ですか…」

”ミストレスは逃げた…ルーイとダストンは助からなかったが…ネリスは無事だ…”

「かわいそうなダストン、哀れなルーイ…」ちらりと本音が口に出る。

”シンシア…君が無事でよかった…愛しいシンシア…”

「!…いま何とおっしゃいました…」シンシアの心臓が大きく脈打つ。

”愛してる…シンシア…君が好きだ…”

シンシアの龍之信に対する想いは、シンシア自身も気づいていなかった。

今、龍之信(ミストレス)に告白されて、初めて自覚が生まれた。愛していると。

”シンシア”

裸のミストレスが裸のシンシアをそっとやさしく抱きしめる。

感触が全然違うはずだが、舞い上がっているシンシアは気が付かない。

柔らかで豊かなバストが、シンシアの小さめの胸を包み込み、温もりを伝える。

シンシアは幸せな暖かい抱擁の中にいた。

「暖かい…とても暖かい…シンシアは…シンシアも龍之信様が好きです…」


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