魔女の誘い

第一章(9)


 ギシッ

 二人分の重みにベッドが軋む。 その音でアランは現実に引き戻された。

 ”こ、これは?”

 彼は、自分が『奥様』を組み敷いていることに驚いた。

 ”おいでなさい……”

 『奥様』がアランを誘う。 その声には抗いがたい響きがあった。 アランは『奥様』の胸に吸い込まれるように顔を埋めた。 甘いにおいが彼を包み込む。

 ”何も考えなくていいの……今のこの時を楽しみましょう”

 その囁きだけで、意識がかすんでいく様だ。 アランは、甘美な底なし沼の様な抱擁なかで、必死に意識をとどめようとする。

 ”なぜ……なぜこんなことをする……俺達を、家畜の様に飼うつもりなのか……”

 ”……苦しめるつもりはないわ……”

 『奥様』の声が愁いを帯びた。

 ”私は、皆が心静かに暮らせるよう願っているだけ……”

 『奥様』の慈愛に満ちた言葉を、アランは受け入れてしまいそうになり、かろうじて踏みとどまる。

 ”しかし、最後には……貴方が……『食べてしまう』んだろう”

 ”ええ……例えようもない至福の快楽と引き換えに……”

 『奥様』が微笑んだ。 アランはその赤い唇に自分の唇を重ねてしまう。 二人の舌がゆっくりと絡み合う。

 ”くう……”

 ”私は、あなたたち。 いえ、この集落の者たちを縛り付けてはいないわ。 月に一度、道が開けば、自由に出られるわ”

 そう言って、『奥様』は自分の胸にアランの頭を抱え込んだ。 優しい母の様な匂いが、アランを痺れさせる。

 ”じ、自由だって……こんなふうに誘惑して……”

 ”誘惑するのは私の自由。 そしてそれを拒むのは貴方たちの自由……”

 柔らかな双丘がアランを包み込む。 アランは顔を埋め、谷間に舌を這わせていた。

 ”ああ……もっと……”

 『奥様』の喘ぎに、アランは最後の抵抗を試みた。

 ”こ、これは人の営みじゃない。 魔性の技だ……”

 ”ええ……”

 『奥様』は頷いた。

 ”私は魔女。 これは魔性の技、魔の悦楽……だから人の営みでは決して味わうことのできない、甘美な宴……”

 『奥様』の囁きは、甘い蜜となって耳から流れ込んでくる。

 ”さぁ……味わって”

 『奥様』の乳房がアランの顔を撫でるように蠢き、乳首が口に吸い付いた。 そして蜜のように甘い乳を、アランの口に注ぐ。

 ”んぁ……”

 アランは乳飲み子の様に『奥様』の乳にねぶりついた。 魔性の乳が、体に沁みとおっていく。

 ”ああ……なんて甘いんだ……”

 ”私の乳を飲めば、快感は何倍にも高まるわ。 ほから……”

 『奥様』が、アランの下で体をゆする。 極上のシーツよりも滑らかな女体が、アランの体を摩り、固くしこった彼自身が暴発しそうになる。

 ”そ、そんなにされたら……”

 ”ごめんなさい、つい……さ……中においでなさい……”

 冷ややかな手が、熱い肉棒を捕まえ、熱い蜜の湧き出す泉へと誘う。 アランは抵抗することも忘れ、『奥様』の中に自分自身を突き入れる。

 ”あふぅ……”

 ”ああ……”

 熱く優しい滑りがアラン自身に絡みつき、優しく撫でまわす。

 ”ああ……溶けてしまいそうです……”

 ”何も遠慮はいらないわ……そのまま気持ちよくなっていいのよ……”

 『奥様』は優雅に体を動かし、アランを奥へと迎え入れる。 熱いぬめりの奥で、ザラリとした感覚が彼を待っていた。

 ”う……”

 腰が自然に動き、アランは奥様の奥を突き上げた。 今度は『奥様』が白い喉をさらしてよがる。

 ”はぁ……熱い……もっと……もっと……”

 『奥様』に求められるまでもなく、アランはその肉体を貪る様に求めた。 彼の腕の中で白い女体がうねり、彼を翻弄する。

 ”いい……いい……”

 喘ぐアランの耳元で『奥様』は囁く。

 ”いっていいの……そして私の中に全て吐き出して……迷いも、悩みも、恐れも……”

 アランは陶然とした顔で、『奥様』に唇を重ねる。 彼の頭の中に『奥様』の声が響いてくる。

 ”すべて私の中に吐き出して……”

 ”はい……”

 アランを熱い快感が貫き、その体が硬直する。 次の瞬間、アラン自身が『奥様』の中に熱い精を放っていた。

 ドクドクドクドク……

 ”ああああああ……”

 ”はぁ……”

 二人は、一つになろうかという様に固く抱き合い、その快感に身を委ねた。

 
 ”……はぁ”

 硬直していたからだから力が抜け、アランは弛緩した体を、白い女体にゆだね、心地よい快楽の余韻に浸る。

 ”アラン……良かったわ……”

 『奥様』の言葉に、アランは嬉しそうに頷いた。

 ”ありがとうございます、『奥様』”

 アランの心から、さっきまで『奥様』に感じていた恐れや疑念が消えていた。

 ”心が軽くなったみたいです”

 ”ええ、そうよ。 貴方の心からは恐れも迷いもなくなったのよ。 これからは、幸せだけを感じていけば良いの”

 『奥様』は微笑んだ。

 ”はい、『奥様』。 よろしければ私もここに残りたいのですが、お許しいただけますか?”

 ”ええ、歓迎するわよアラン”

 『奥様』はそう言うと、アランを抱きしめた。 アランは『奥様』に口づけし、その体を愛撫する。 『奥様』の息が荒くなっていき、二人の体は再び絡み合う。

 ”『奥様』……私は貴女の虜です……いずれは……この身を……”

 ”ええ……貴方も私が……いえ、ひょっとすると次の私が……”

 呟きが、意味のない喘ぎに変わり、二人の体は一つになって蠢く。 奥の間の淫らな宴は、さらに続いて行く……
 
 【<<】【>>】


【魔女の誘い:目次】

【小説の部屋:トップ】