星から来たオッパイ

Part F (9)


 水兵は自分の胸に張り付いた『塊』から手を離す。 圧迫感が消えた。 今度は『塊』を軽く叩いてみた。 胸を叩く感触がある。 「こ、こいは……肌の下に

潜り込んだのか!?」

 寄生虫には、皮膚を食い破って潜り込むモノがいる。 水兵はさっきの『塊』が、それと同じことをしたと思い、生理的嫌悪感に身震いした。

 「冗談じゃない、ナイフは……」

 肌を切り裂き、中から『塊』を引きずり出すつもりで腰の工具入れを探る。

 ズクッ……

 胸がうずき、背筋を奇妙な感覚が走る。

 「ぐうっ……く、食いついているのか」

 胸の辺りが暖かくなり、次第に熱を持ってくるようだ。 彼は無意識のうちに胸の『塊』を掴んでいた。

 ズキン

 「あうっ」

 鈍い痛みを覚え、思わずナイフを落としてしまう。 ナイフを拾おうと身をかがめ、膨らんだ胸の先が腕に当たる。

 フワリ……

 「うっ……」

 奇妙な感覚に声が漏れた。 あらためて自分の胸を確かめる。

 「なんだこれは……」

 膨らんでいる箇所から胸にかけてが白くきめ細かくなり、自分の肌とは色と質感が違う。 そして、それが次第に広がっていっている。 形も整い、そこだけ

見ると女の胸のにしか見えない。 水兵は、慎重な手つきで自分の『乳房』に手を宛がった。

 フワリ……

 「あうっ……」

 さっき感じた奇妙な感覚が再び彼を包む。 柔らかい物にくるまれる様な、奇妙で心地よい感じだ。

 ”気持ちよいだろう……”

 「……だ、誰だ……」

 どこからともなく囁き声が聞こえた。 いや、聞こえたような気がした。

 ”お前は私のモノになるのよ……”

 ズクンと胸が疼き、暖かい感覚が伝わってきた。 艶めかしい感覚が体を包んでいく。

 「な、何が起こっているんだ」

 前をはだけていたシャツを脱ぎ捨て、自分の体を改めた。 白い乳房の皮膚が胸から腹へと広がっていく、見えない箇所でも同じことが起こっているらしい。 

暖かい感覚があるのは、皮膚の色が変わった場所だった。

 「お、おれの体が……」

 ”お前の体は受胎可能体に……女になる……お前は女になって、私のモのとなるのよ……”

 「お前は……こ、これか!」

 水兵は、自分の胸に張り付いた『塊』、いや『乳房』が声の主と気がついた。 力づくでそれを引きはがそうと、両手で乳房を掴む。

 ”乱暴しないで……”

 「うぁぁ……」

 乳房を掴むと同時に、今までと比較にならない、熱い快感が胸から流れ込む。 水兵は抵抗を忘れ、恍惚としてその快感に浸る。

 ”ほら……変わるわよ……”

 暖かい波が腹の上を滑っていく。 そちらに視線をやると、腹の上から下に向けて白い皮膚が広がっていき、ズボンの中へと消える。 彼はのろのろと手を

動かし、ズボンを下ろして彼のモノをさらけ出した。 根元まで迫っていた白い皮膚が、彼のモノをせり上がり、亀頭までが白く変わる。

 「あうっ!?」

 ジーンと痺れるような快感がモノを包み込んだ。 股間の根元からネットリとしたモノがせり上がって来て、亀頭の先端から溢れ出す。

 「ああ……ああっ……」

 亀頭が吐き出したモノは透明な愛液だった。 はじける様に愛液を吹き出し、白く変わったモノが縮んでいく。

 「と……溶ける……」

 モノが縮むにつれ、熱い快感が集中していく。 あり得ない快感を受け止め切れず、頭の中が真っ白になる、皮膚と同じよう。

 ビュ、ビュュュッ!

 激しく愛液を吹き出しながら、水兵の物は身をよじって縮み、彼の股間へと沈んでいく。

 「ぐぅっ……」

 意味のない喘ぎを漏らす口。 その下までが白い皮膚に侵食されていた。 広がる皮膚の下で、逞しい男の体が艶めかしい女の体にへと変わっていく。 

劇的な変化に感覚が付いて行かず、水兵は白目を剥き、床の上で身をよじらせる。

 「……」

 しばらくして発射管室から人の声が途絶えた。 床の上に脱ぎ散らかされた水兵用の艦内服の上で人影が身を起こす。 ついさっきまで水兵だったそれは

白い皮膚が包まれたグラマラスな女へと姿を変えていた。

 ”マザー、変身完了しました。”

 女体の乳房が、声なき声で『カプセル』のマザーを呼び出す。 もと水兵は、発射管室の扉ハンドルに手をかけ、回そうと試みたが、ハンドルはびくともしない

 ”侵入箇所より先へは進めそうもありません”

 ”上から侵入した者も先へ進めないようね……お前たちはそこで待機しなさい”

 
 発令所では、副長と士官たち対応を協議していた。

 「副長、敵艦を攻撃しましょう」

 「発射官室が占拠されている」

 「装填済みの水雷は発射可能です」

 「装填済みの水雷は4本だけだ。 再装填できない」

 水雷攻撃を行う場合は、目標が避けても当たる様に、別々の進路を取る複数の魚雷を斉射する。 4本の水雷しか打てないのであれば、攻撃回数は

1回か2回が限度だ。

 「基地との連絡はまだ取れないのか」

 「通信機が不調です。 酷いノイズだ」

 副長は帽子を取って、頭をかきむしった。 セイルとハッチ区画を占拠されたため、外に出ることが出来ない。 ハッチが開いているため、潜水することも

できない。 氷原の真ん中に浮上しているので、浮上したまま逃げることもできない。

 「敵船が離れるのを待つしかないのか」

 副長が呟いたとき、監視カメラを見ていたソナー手が声を上げた。

 「ハッチ区画の侵入者が退却します」

 「なに?」

 副長が監視カメラの画像を確認する。 白い肌の女達が、ハッチへ通じる梯子を上り、外へと出て行く。

 「前部、後部ともに退却した模様です」

 「セイルはどうだ」

 「不明です。 艦長の生存も確認できません」

 副長は艦内マイクを取り、指示を出す。

 「ハッチ区画の敵が退却した。 扉のロックを解除し、ハッチ区画を奪取せよ」

 ”ハッチ区画を奪取します。 奪取後ハッチはどうします。 閉じますか?”

 副長はわずかに考えてから命令を口にする。

 「梯子の下で警戒し、ハッチには近寄るな」

 ”了解”

 副長はソナー手を振り返った。

 「甲板の様子は判るか?」

 「敵兵は甲板に上がりました。 あっ、海に飛び込みました」

 「死ぬ気か?」

 海水温は氷点をわずかに超える程度。 人間ならば数分で死に至る。

 「姿が見えなくなりました。 潜ったようです」

 「氷の海でも生きて行けるのか? なんて奴らだ……発射管室はどうだ?」

 「カメラが無いので中の様子が判りませんが、まだ中に何かいるようです」

 「判った。 発射管室の連絡扉は警戒態勢を維持」

 副長が指示を出している間に、ハッチ区画を奪取したとの報告が入った。

 ”水兵の衣服が残っていますが、中身は……”

 「1名は認識票を回収しろ、残りは警戒しつつ甲板に上がり、セイルの様子を確認しろ。 敵は海中に逃れたが、また上がってくるかもしれん。 警戒を怠るな」

 「副長、セイルの確認なら、その梯子から上がれば良いのでは?」

 士官がセイルへ通じる梯子を示した。

 「敵がセイルに残っていたら、発令所が危険になる。 甲板長、指揮を引き継げ。 私も甲板に出る」

 副長は、部下に指揮を任せハッチ区画へ向かった。


 ハッチから甲板に出ると、水兵が数人小銃を海に向けて警戒していた。

 「セイルの様子は?」

 「上に上がってみましたが無人です。 艦長も見当たりません」

 報告した下士官が、艦長の認識票を副長に渡す。 認識票は各自が身に着けていて、戦死すると死体から回収される。 副長は無言で認識票を受け取った

 「敵艦の様子は?」

 「本館の前方、約200m先です」

 士官のさした方を双眼鏡で見る。 海面からわずかに覗く黒いものが敵艦らしい。

 「そうと聞いてなければ、鯨が昼寝しているかと思うな」

 「捕鯨船でも呼んできますか?」

 「ん……お?」

 副長は『カプセル』の辺りに異変を見つけた。 海面が泡立ち、白い蒸気のようなモノが上がっている。

 「敵船に動きがあるぞ!」

 副長の言葉に、全員がそちらを見た。

 「ひょっとして……飛ぶのか!?」

 「それなら空軍に……お?」

 泡立つ海面が『カプセル』の辺りを離れ、こちらに迫ってくる。

 「何かが海面下を移動している……まさか水雷か!」

 「にしては範囲広すぎ……わあっ!?」

 潜水艦が揺れ、水兵が転落しない様にしゃがみ、命綱を掴む。 泡立つ海面が潜水艦に迫る。
 
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