星から来たオッパイ

Part.A (1)


 20XX年、マジステール大学ヨーロッパ校のランデルハウス教授の発表が、ネット上でちょっとした騒ぎを引き起こしていた。

 『わたしは地球期限出ない知的生命体と会った。 彼らは地球に定住しており、すでに我々の同胞と交流を持っている』

 ランデルハウス教授と言えば、怪しげな発表をすることで定評のある人物であり、その発表も一笑に付されて終わり、となるのが常だった。

 今回も、教授の発表はタブロイド紙の紙面を飾り、退屈な日常にちょっとしたネタを提供することとなっていた。

 
−− 北極 −−


 一機の航空機が北極の上空を飛行してた。 水上、雪上に離着陸可能な民間の中型プロペラ機だ。 相当にくたびれた機体の中は、追加の燃料タンクが

ほとんどを占有し、搭乗者はパイロット席に座る中年の男と副パイロット席に座るやや若い男、そして補助席に座っている中年の女の三人だけだ。 三人とも

あまり人相が良くなく、剣呑な雰囲気を漂わせている。 自動操縦で飛んでいるらしく、パイロットは操縦桿から手を離して新聞らしきものを見ていた。

 「『……教授は宇宙から飛来したモノを発見したと主張……』。 は、暇な奴がいるもんだ。 どうせなら、おれたちの仲間とブツを見つけてくれればよかった

のに……姐さん。 燃料は大丈夫かい?」

 パイロット席の男が、女に声をかけた。 『姐さん』と呼ばれた女は、追加タンクに無造作に取り付けられた油量計を見る。

 「残り半分ぐらいかねぇ」

 「そうかい…… おい、今どのあたりだ?」

 パイロットが副パイロット席の若い男に声をかけた。 しかし若い男はスマホのゲームに気を取られて返事をしない。

 「おい!」

 パイロットは、若い男の手からスマホをむしり取った。 若い男は、むすっとした様子でパイロットを見返したが、逆に睨まれて、首をすくめて計器を読む。

 「緯度……経度……だよ」

 「ふん。 姐さんよぉ。 『ブツ』を運んでた連中が最後に通信してきたのはこの辺りじゃないか?」

 「のはずだけど……落ちたんなら、この辺りかねぇ」

 『姐さん』は、パイロット席の後ろから首を突き出し、外を見る。

 「あんまりよく見えないねぇ」

 「こいつも『ブツ』の輸送用だからな。 下を見るようにはできてねぇ。 後ろの窓からの方が見えるぜ」

 「後ろかい?」

 『姐さん』はげんなりした顔で背後を見た。 追加の燃料タンクが後ろに並んでおり、窓まで行くにはその上を腹ばいで進むしかない。 しぶしぶと言った

様子で、『姐さん』は手をかけた。

 ピーピーピー!!

 突然、パイロットが持っているスマホが鳴り出した。 スマホを改めると、画面が意味不明の色彩の渦になっている。

 「壊れたのか?」

 「えー、高かったのに……うわっち!?」

 突然機体が前に傾き、『姐さん』がパイロット席と副パイロット席の間に倒れ込んだ。

 「痛い!」

 「どけぇ! スロットルが!」

 「落ちる!!」

 大混乱の三人を乗せた飛行機は、急角度で下に向かって落ちていった。

 
 約一時間後

 「な、何とか着陸できた」

 「どこだいここは」

 「北極ですぜ」

 役に立たないことを言った若い男を、『姐さん』とパイロットが睨みつける。

 「いったいどうしたんだい?」 『姐さん』が尋ねた。

 「自動操縦がおかしくなって、急降下しちまったらしい」 パイロットが答える。

 「無線機も通じませんぜ」 若い男が言った。

 パイロットは無線機とGPSを操作し、二つとも動かないことを確認した。

 「とっとと飛び上がって帰りましょうよ」 若い男が提案する。

 「位置は判っているが、方角がな……」

 窓から外を見ると、真っ白い霧が立ち込めている。

 「飛び上がれば、天測で方角が判るでしょう?」

 「ああ。 しかし、周りの様子が判らん。 これで飛び上がるのは危険だ」

 氷の上は平坦とは限らない。 氷の裂け目が合ったり、雪が丘の様に積もっていたりする。

 「機体もダメージがあるかもしれん。 外に出て、確認するぞ」 パイロットが言った。

 「えー?」

 若い男は不満そうにしながら、防寒着を着込みパイロットと外に出た。 『姐さん』が後に続く。

 
 「脚は無事そうだな……翼はどうだ?」

 「端を擦った跡があります。 そっちはどうですかい『姐さん』」

 「運が良かったようね。 見てよ、でっかいクレバスがあるわ」

 「え?」

 二人が『姐さん』の所に行くと、氷の上に幅10mぐらいの割れ目が走っていた。 飛行機の機首が真っすぐそちらを向いているから、もう少し先へ進んで

いたら、クレバスに落ちていたろう。

 「……この下はどうなってんですかねぇ」

 「海か、さもなきゃ氷だな」

 パイロットはそう言って氷の塊を蹴飛ばす。

 ガッ……ゴン

 クレバスの中に落ちた氷が、何かにぶつかる鈍い音がした。

 「あれ? なにかにぶつかったような?」

 「氷……じゃねぇな、あの音は」

 「ねぇ……ひょっとして、『ブツ』を運んでた連中の飛行機が落ちたんじゃないかい、ここに」

 『姐さん』の言葉に、パイロットと若い男が顔を見合わせた。 氷の端に立って下を覗き込む。 5m程下がクレバスの底のようど、白い雪が積もっている。

 「そんなことってあるんですか?」

 「うーん。 雪をはらってみねぇとここからじゃ判らねぇな……」

 「すぐそこだし、下に降りてみたらどうだい?」

 「簡単に言ってくれるねぇ。 俺たちゃ探検隊じゃねえんだぜ」

 ぶつくさ言いながら、パイロットは若い男と飛行機に戻り、ロープとバールを持ってきた。 クレバスから離れたところにバールを打ち込んでロープを結び、

ロープを伝ってクレバスの底に降りて、雪を足で払う。

 「これは違うな飛行機じゃないが……なんだこれは?」

 雪の下にあったのは、黒くのっぺりとした何かで、緩やかに湾曲していた。 首をひねっていると、若い男と『姐さん』が下りてきた。

 「おいおい、全員できてもしょうがないだろう」

 「いや、なんだろうと思ってね……なんだいこれは?」

 「潜水艦じゃないですか?」

 若い男は軽口をたたき、足の下にある『黒いモノ』を蹴飛ばした。 鈍い音がする。

 「金属じゃなさそうだが、岩でもないな、これは」

 「けっこう大きいんじゃない……」

 『姐さん』はクレバスの底の雪をはらいながら上を移動した。 と、足が雪に潜り込んだ。

 「きゃぁ!」

 「どうしました!?」

 「ああ、びっくりしただけ……ここに穴が開いているわ」

 「穴?」

 若いが『姐さん』の足元の雪をかき分けた。 穴と言うより幅1mほどの溝が現れる。 溝に手を突っ込むと、10cmほどに底があった。

 「溝ですかね?」

 若い男は足で雪をかき分けながら溝の中を進んでいく、だんだん溝は深くなり、不意に正面に黒々した空間が現れた。

 「ややっ。 ここに洞窟が」

 「なに?」

 パイロットと『姐さん』が若い男の処まで来た。 溝の終わりに口が開いていて、中に入れるようになっている。

 「やっぱ潜水艦じゃないんですか、横倒しになった? ほら、魚雷の発射口がこんな感じじゃなかったかと」

 「人が立って入れるほどの高さがあるぞ。 そんなでっかい魚雷はないだろう」

 「中に入れそうだね」

 『姐さん』はそう言って、穴の奥に進もうとした。

 「ちょちょっと『姐さん』。 どこに行くんですか」 若い男が止めた。

 「いや、この奥はどうなっているかと」

 「こんな得体のしれないモノ調べてどうする気ですか、どっかの教授じゃないんですから」

 パイロットはそう言ってから、飛行中に読んでいた新聞の事を思い出した。

 「まさかこれは宇宙から……」

 「はぁ?何かの映画の見すぎじゃないか」

 「頭、大丈夫ですか?」

 『姐さん』と若い男が呆れたようにパイロットを見た。
  
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