第一話 四葩

5.交合


 「駄目だぁ……」

 小僧の股間から伸びる『肉の蛇』は、本物の蛇のように床の上をのたうつ。 意のままにならぬソレに苛立ち、小僧は手でそれを捕まえた。

 「ひっ!」

 股間に鈍い痛みが走り、それが間違いなく自分の一部であることを再認識する。 一方で、肉蛇は手の中から逃げ出そうとうねる。

 「おさまれ! こら、あああ……なんとあさましい……」

 混乱する小僧を、半裸、または全裸の尼僧たちが面白そうに見ていた。

 「あらあら……」

 「ほほ……慌てることもないでしょうに……ほら、坊や。 ご覧なさいな」

 尼僧の一人が足を広げ、くぱっと自分の秘所を『御開帳』してみせた。

 ビクッ! ビククッ!

 肉蛇が激しくうねり、小僧の手から抜け出して床に落ちる。

 「うっ」

 肉蛇から伝わる鈍い衝撃。 小僧が呻く間に、肉蛇は尼僧の秘所目掛け、ヌルヌルと床を這って行く。

 「まぁ……とっても素直……」

 肉蛇は、尼僧の手前でいったん止まり、『鎌首』を持ち上げて、尼僧の秘所に亀頭をねじ込んだ。

 「ひぎっ!」 「ああ……」

 小僧が呻き、尼僧が喘ぐ。 尼僧はそのままゆっくりと背後に倒れた。 さらけ出された秘所の際で、激しく肉蛇が震え、のたうつ。

 「ああああ……と、止まって……」

 小僧は、淫猥なる怪異と化した己の分身を抑えようと、前かがみになり手を伸ばした。 しかしモノどころか、手まで小刻みに震え、意のままにならない。

 「くふふ……」 脇で見ていた別の尼が含み笑いを漏らした。

 「た、助けて……」 無駄と知りつつ、懇願する小僧。

 「何をかえ?……怖いのか?……」

 くすくすくす……、くふふふ……

 尼達の忍び笑いに小僧の胆が冷える。

 「怖いであろうな……」

 「私達も、同じ思いでしたから……」

 小僧は目を丸くし、尼達を見た。

 「どういう意味……です?……」

 他の尼達が、小僧ににじり寄ってくる。

 「我らも、もとは『人』であったと言うたでしょう?」

 「『人』から『もののけ』変えられるとき、同じ思いを味わった……のですよ……」

 尼の一人が、床でのたうつ肉蛇の胴を撫でた。

 「ひゅっ!」

 ゾクリとした感覚が背筋を走った。

 「感じたかぇ? ほほ、『人』の体で『もののけ』の快楽を味わうは、たまらぬであろう」

 「な、なにを……」

 尼を遠ざけようと、小僧は震える手で尼の肩を掴む。

 ムニ……

 柔らかく粘る尼の肌の感触に、手が震えた。

 「私に触りたいか? どうせなら……」

 尼は、小僧の手を自分の胸に導いた。 滑る肉の宝玉が手に吸い付く。

 「あ……あ……」

 ヒクヒクと指が蠢き、意に反して尼の乳房を撫で、乳首を転がしている。

 「と、とまれ……」

 小僧の息が乱れ、口の端が震える。

 「ほほ……体の芯が心地ようなってきたろう?」

 背後から、別の尼が抱き着いてきた。 小僧はもう振り返ることもできない。

 「最初は恐ろしかったが……『もののけ』へと化身していくときの快楽は、たまらぬ心地よさであった……」

 尼達が、小僧の体に抱き着き、乳を、尻を、秘所を摺り寄せる。

 「あ……あ……」

 「ああ……若い体は良い……」

 「さぁ……主も『もののけ』となり……我らと交わろうぞ」

 小僧の姿が、尼達の中に隠れる。 それは、濡れて蠢く異形の『もののけ』。 『人』を『もののけ』に貶める、魔性の秘所……

 (あ……ああ……)

 小僧はモノだけでなく、全身が『もののけ』に変えられつつあった。 そして、歓びに震える肉の中で、小僧の魂までが、魔性の快楽に墜ちようとしていた。

 「ああ……もっと……もっとして……」

 「よいとも……ああ……」

 「主もよいぞ……さぁ……我らを歓ばせておくれな……」

 小僧の腕、足が骨を失ったかのように柔らかく曲がり、ヒクヒクと蠢きながら尼達の秘所への伸びていく。 尼達の秘所は、あられもなく開き、小僧を

受け入れる。

 「たまらぬ……」

 「ああ……」

 『もののけ』の体は、その主の意と関係なく快楽を貪り、深く交わり、一つの肉の塊のようになって蠢いていた。 それは、小僧と共に来た男たちも

同様であった。

 「たまらねぇ……」

 「蕩ける……」

 ああ……

 おぅ……


 濡れて蠢く『もののけ』達の三つの塊は、やがて淫猥の極みを迎え、ブルブルとひときわ激しく震え、そして静かに動きを止めた。 …

 ……

 ………

 肉の塊がゆるゆるとほどけ、濡れた禿頭の女達が姿を取り戻す。 しかし、そこには男たちと小僧の姿はなかった。

 ああ……

 はぁ……

 尼達の半数ほどは、己のお腹を撫でながらその場にへたり込み、だらしなく床に伸びた。

 ぐっ……

 ぐぐっ……

 喉の奥で唸るような声をあげ、尼達が顔を抑えた。 目鼻が崩れ、口が消え、卵の様にのっぺりとした顔に変わっていく。

 ビチャ

 一人が床に突っ伏し、体を震わせる。 手が胴と溶け合い、足がくっつき、最後には人ほどもあるナメクジへと化身した。

 ズルリ……

 大ナメクジと化した尼が、床をズリズリと這って行く。 化身しなかった尼は、それを静かに見送り、しばらくその場に佇んでいた。

 「さて……漏れたものは、次の『御開帳』に」

 「……備えましょう」

 そして残った尼達は、宴の後始末を……

 −−−−−−−−−−−−

 ズズズッ……

 黒い渦が消え、曼陀羅図が戻ってきた。 滝と志戸は夢から覚めた様に目を瞬かせた。

 「今のは……本当のことなのか……いや、ですか?」

 尼が面を上げる。 白く美しい顔に、艶めかしいものが張り付いていた。

 「作り話をする意味はありませぬ」

 尼は頭巾を脱いだ。 禿頭の頭に、微かな艶がみえる。

 「我らは人の体を依り代として、次の命を繋ぐ『もののけ』。 それに相違ありませぬ」

 滝は女の眼を見つめる。 誘っているとも、拒まれているとも取れた。

 「我らは、数が少なく、弱き者。 よって『巣』を作り、さらにそれを隠し……」

 「そして『御開帳』で人を誘う……か?」

 尼は静かに頭を下げ、肯定の意を示す。

 「さて……いかがします?」

 尼が顔を上げた。 目に欲情の色が見えた。

 「奥までこられれば、至上の快楽はお約束しますが?」

 滝と志戸は、喉が干上がるのを感じた。 逡巡した後、志戸が答える。

 「お誘いの儀、謹んで断らせていただきます」

 「なにゆえ?」

 長い沈黙の後、滝が答えた。

 「俺たちは、蛇年なんで、ナメクジは苦手でね……」

 そう言って滝はカンテラの蓋を閉じた。

<第一話 四葩 終>

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